高速シリアル・インタフェース測定の中心的計測器は、何と言ってもオシロスコープです。第12回のリアルタイム・オシロスコープでも紹介しましたが、トランスミッタやソース機器のアイ・ダイアグラムやジッタなどの物理層の電気的特性を測定、コンプライアンス・テストからデバッグ、トラブルシューティングなどに広く利用されます。オシロスコープを選択する上で重要なのが、「どの程度の周波数帯域が必要になるか?」ということです。この答えは簡単に言えば、「被測定対象の信号がどの程度の周波数成分を持っているか?」に依存します。

信号は基本波と高調波成分で成り立っている

高速シリアル・インタフェースで使用されている信号は、基本的にパルス波です。話を簡単にするために、教科書どおりの方形波で考えてみます。方形波は周波数領域で見るとその繰り返し周波数を基本とする基本波とその奇数高調波で構成されています(図6-18)。

図6-18 周波数領域で見た方形波。基本波と奇数高調波により構成されている(A:基本波振幅、B:第3次高調波振幅、C:第5次高調波振幅)

高速シリアル・インタフェースの信号で一番速い繰り返しは、1ビットごとに「1」と「0」が繰り返されるクロック・パターンの時であり、その周期はデータ・レートの半分となります。例えば2.5Gbpsであれば、繰り返しレート1.25GHzの方形波となります(図6-19)。

図6-19 高速シリアル・インタフェースの信号で一番速いパターン。数値は2.5Gbpsの場合

つまり2.5Gbpsのクロック・パターンには、1.25GHzの基本波に対し、奇数高調波成分として3次の3.75GHz、5次の6.25GHz、7次の8.75GHz…が重畳しています。

高調波成分の振幅は、次数が高くなるにつれ小さくなります。結果としてどこまでの次数の高調波までをオシロスコープで捕捉するかがキーとなります。一般的には第5次高調波までの捕捉を基本とします。しかし、実際には信号の持つ立上り時間を考慮する必要があります。信号に含まれる高調波次数が高くなるに従って、信号の立上りが急峻になってきます(図6-20)。

つまり立上り時間が速い、すなわち立上りが急峻になればなるほど、それだけ高い周波数成分を持つことになります。逆に立上りが遅ければそれだけ含まれる周波数成分は低いことを意味します。ゆえに周波数帯域は立上り時間に大きく影響しますので、繰返しレートのみならず、立上り時間も考慮して、周波数帯域を決めなければなりません。

図6-20 方形波に含まれる高調波次数による波形の立上りの違い

周波数帯域と立上り時間の関係は、周波数帯域・立上り時間積で与えられ、1つの目安として実行周波数帯域として知られた値が0.35、最近ではニー周波数*として0.5が使用されます(10-90%)。

*高調波成分が急速に減衰する点。(引用:Howard Johnson and Martin Graham,「 High-Speed Digital Design: A Handbook of Black Magic」, p.2. Prentice Hall, 1993)

一般的にデータ・レートが高くなるにつれ、デバイス自身のドライブ能力、パッケージなどによる高周波損失などの影響で立上り時間は相対的に遅くなります。またEMIの抑制のために故意に立上り時間を制御している場合もあります。一般的に高速デバイスでは20-80%の信号変化は速い一方、高周波成分の抑制のために20%以下80%以上の信号変化を遅くしています。デバイス自身の特性測定(キャラクタライゼーション)を目的とするならば、十分高い周波数成分まで捕捉する必要がありますが、規格認証の場合は特に近端よりも損失を受ける遠端測定が多いこともあり、必要とする周波数帯域、必要とする高調波次数は低くなる傾向にあります。

光インタフェースでは、4次のベッセル-トムソン・フィルタを適用するため、データ・レートの0.75(基本波の1.5倍)までの捕捉となります。これらを含めて規格認証試験仕様書(CTS)などの中で規定されている場合があります。表6-1は周波数帯域を指定している代表的な規格です。

表6-1 周波数帯域を指定している代表的な規格