高周波損失

低周波の信号では、数m程度伝送したとしても、その影響は無視できましたが、マルチギガ・ビット・レートではそういうわけにはいきません。基板やケーブルを通して高周波信号を伝送する場合はかなり様相が異なり、高周波損失、つまり高い周波数の信号に対して、電流が流れにくくなるということを意識しないといけません。

高周波損失の主要因に、下記の2つがあります。

  1. 抵抗損
  2. 誘電損

抵抗損は、直流抵抗に加え、表皮効果(skin effect)としてよく知られている周波数の上昇につれて、交流電流が導体内部を流れにくくなる損失で、周波数に比例して増加します。導体内部に向かって指数関数的に減少し、例えば60Hzでも導体表面の1cmまで、1GHzでは、2μmとか1μmより深い部分には電流は流れなくなります。

誘電損は、tanδ(誘電正接)として知られ、誘電体に電界を掛けた際に誘電体内部で発生する分極が、周波数の上昇に伴い、電界の変化と分極の変化にずれが生じて発生する損失です。誘電損の影響は、周波数の低いところでは、抵抗損による損失に比較して小さいですが、周波数の平方根に比例して増加するため、周波数が上昇するにつれて、顕在化してきます(図5-1)。

図5-1 基板の損失特性。抵抗損と誘電損に分けられ、周波数に依存した減衰特性を持つ

周波数上昇に伴い、双方の減衰が加算されます。結果として伝送路があたかもローパス・フィルタのように作用します。この影響の出方は、データ・レートおよび距離に依存します(図5-2、図5-3)。

図5-2 伝送線路長による波形の違い(2.5Gbps PRBS7、テクトロニクスBSA12500ISI型ISIテスト基板)。左上段:30cm、右上段:60cm、左中段:100cm、右中段:140cm、左下段:180cm、右下段:240cm

図5-3 データ・レートによる波形の違い(トレース長1m、PRBS7)。左上段:2.5Gbps、右上段:5Gbps、左下段:8Gbps、右下段:10Gbps

写真5-1 テクトロニクスBSA12500ISI型ISIテスト基板と各トレースの挿入損失(減衰)

高周波損失の影響の現れ方:シンボル間干渉

すなわち低い周波数のパターンに比較して伝送路の高周波損失の影響を大きく受けます。例えば2.5Gbpsの場合、0と1が交互に出現した場合、0の期間が400ps、1の期間も400psで、この周期は800psで周波数に換算すると1.25GHzとなり、基本波の最高周波数はデータ・レートの1/2になります。もし0と1が各々2ビット継続して繰り返したとすると、周波数は半分の625MHzになるので、「0011」というパターンよりも「0101」というパターンの方に影響が大きく出ます。損失の影響とは信号振幅が低下するということです。

つまり信号のデータ・パターンに依存して、振幅が変わるということを意味します。さらにエッジ位置がパターンにより時間軸方向に揺らぐ現象、つまりジッタが発生します。これらは例えば同じ論理が続いた直後の変化は信号振幅が低下したり、同じパターンでも前の論理の影響が残ったりなど過去のデータ・パターンによって影響の受け方が変わり、シンボル間干渉(ISI:Inter Symbol Interference)と呼ばれます。

伝送路の損失の影響を実際の波形とアイ・ダイアグラムで観たのが図5-4で、シンボル間干渉が起きていることがわかります。

基板への入力信号
基板を通過した信号
基板を通過した信号の
アイ・ダイアグラム

図5-4 高周波損失によりシンボル間干渉を受けた波形(5Gbps PRBS7、テクトロニクスBSA12500ISI型ISIテスト基板トレース長91cm)