全国には登録有形文化財に認定された銭湯があるのをご存知だろうか。もちろん、利用者は大半が地元の人なので、いい意味で観光地化はされていない。そのギャップが面白いのだ。今回紹介するのは東京銭湯で唯一登録有形文化財の銭湯、台東区の「燕湯」である。

「燕湯」へは、JR山手線「御徒町」駅から徒歩5分

銭湯の味わいどころは人それぞれ

銭湯の魅力のとらえ方は、人それぞれだと思う。この間、読んだコラムでは「人と人とが触れ合うコミュニティーの場」「宮造りに代表されるような個性的な建築」などがクローズアップされていた。よく取り上げられる点だ。

筆者個人としては、建築自体にさほど興味もないし、店主やお客と会話を交わしたのも数えるほどなので、実はあまりピンときていない。それよりも、知らない町で常連の奇異の目にさらされながら初めて出会うお湯につかるのは、ワクワクして楽しい。実に人それぞれだ。

そんな銭湯の楽しみ方のひとつに「観光」があり、今回紹介する燕湯は、そんな楽しみ方も提供してくれるだろう。

朝6時から元気に営業

燕湯はJR山手線「御徒町」駅から徒歩5分。都内公衆浴場では数えるほどしかない、平日朝(6時! )から営業している銭湯だ。せっかくなので、燕湯は午前中に楽しむことをオススメする。

白く短い暖簾をくぐると、まず季節の生け花がお出迎え。男湯右、女湯左に進む番台式だ。脱衣所の屋根は折上格天井。ロッカーは壁側と中央に。壁側の方は100円返却式のワイドタイプで、旅行の大荷物も収納できる。男女境目上に掲げられた大きな絵には、富士山と龍が。描いたのはペンキ絵師の中島盛夫氏である。ほか、デジタル体重計、ドリンクケース、身長計など。分厚く重い引き戸を開けて浴室に入る。

ご主人からの叱責もひとつの愛情

男湯のイメージ(S=シャワー)

訪問したのは平日のお昼時。相客はサラリーマン風からお年寄りまで3~4人。湯船はふたつ、深風呂と浅風呂でシンプルながら、浅風呂奥から壁にかけて富士山の溶岩石をつかった装飾が施されている。

また、正面にはもちろん富士山のペンキ絵。描いたのは同じく中島絵師で、日付が「28.5.18」と入っている。燕湯と言えば、都内屈指の熱湯で有名なのだが、この時はおそらく45~6度程度。もちろん熱いが、入れないほどではない。温度は時間帯によって変動し、早朝一番だとこれよりもさらに熱く沸いているのだとか。

加えて燕湯と言えば、マナーに厳しい銭湯という印象を持つ人もいるかもしれない(マナーに厳しくない銭湯などないのだが)。「浴槽の縁に腰掛ける」「湯船にタオルを入れる」「水を出しっぱなしにする」などの行為は、もれなくご主人から叱責される。この日も相客の2人が注意をされていた。これも快適な入浴環境のため。客同士が言い合ってトラブルになるよりよほどいい。

筆者は3~4度、燕湯に来ているが、幸いにも今のところお咎めなし。むしろこの日は帰り際に、「台東銭湯」とロゴの入ったタオルをサービスでくれた。なんとなく、認められた感じがしてうれしい。昼間から芯の芯まで温まった身体で帰途についた。

※イメージ図は筆者の調査に基づくもので正確なものではございません

筆者プロフィール: 高山 洋介(たかやま ようすけ)

1981年生まれ。三重県出身、東京都在住。同人サークル「ENGELERS」にて、主に都内の銭湯を紹介した『東京銭湯』シリーズを制作している。