常日頃から「家の近所の銭湯に勝る銭湯はない」と思っている筆者だが、それでもわざわざ電車(時には飛行機)に乗ってでも行きたい銭湯は確かに存在する。その中でも、一度行けば十分、なのではなくできれば近所に住んで通いたいと思う銭湯もいくつか挙げられる。今回紹介するのは、荒川区の「帝国湯」。そんな銭湯のひとつだ。

「帝国湯」へは「三河島」駅から徒歩7分ほど

さっと一風呂の後には将棋や囲碁も

帝国湯は、銭湯好きの間ではメジャーな部類の老舗銭湯だ。JR常磐線の「三河島」駅から徒歩7分ほど。JR山手線の日暮里駅や東京メトロ日比谷線の三ノ輪駅からもそれほど遠くはなく、不動産広告風に言えば"3駅利用可"の立地になる。

破風造りの屋根と、東京にしては珍しい長めの暖簾。変体仮名で「ていこく湯」と染め抜かれている。目の前の路地は広くはなく、写真は誰が撮っても同じアングルになりがちなのがちょっと面白い。暖簾をくぐると、正面に傘ロッカー。男湯左、女湯は右で下足箱(さくら錠)があり、それぞれ引き戸から入る番台式の銭湯になっている。

訪問は平日の15時。相客は2~3人だった。脱衣所はゆったり。上から見ると「L」を180度回転させたつくりになっていて、壁側は池のある庭で取り囲まれている。ロッカーの鍵もさくら錠。あまり他所では見られないデザインなので古いものかと思う。

境目側には鏡、TANAKA製のはかり、ドリンクケースのほか、テレビ。逆側には腰掛けとマッサージチェア。浴室側の出っ張ったところには本棚とテーブルがある。本棚には文庫本やハードカバー、マンガ本に混じって将棋盤や囲碁盤も入っていた。天井は折上格天井。現役の柱時計と、その向かいには大入りの額も飾られている。

富士山に波しぶきに鯛のタイル絵

男湯のイメージ(S=シャワー)

サッシが木製のガラス戸を引いて浴室へ。カランは多くないが中央のカラン島にはシャワーも鏡もないので、実際のサイズより広く感じる。壁側の窓(こちらも木製サッシ)も大きく、庭が見えるのも一因だろう。

正面には故・早川絵師による富士山のペンキ絵。男女湯にまたがる富士山と、岩に砕ける波しぶき。ワンポイントでヘリコプター(?)が描かれている。古さはいなめないが、帝国湯全体を覆う雰囲気にベストマッチしすぎている。その絵の下にはさらに章仙作の鯉が描かれたタイル絵。男女境目壁にもモザイクタイル画があるなどぜいたくな内装になっている。

浴槽は3つに分かれている。深いのと、浅めなのと、薬湯(実母散)。溶岩石のような湯口から絶え間なく湯が注がれていくが、こちら帝国湯のお湯は激熱。以前は入れるくらいだったが、今回はなかなか苦戦した。時間帯にもよるのだろう。この日は常連も躊躇(ちゅうちょ)する熱さで、10秒つかるのがやっとだった。初めての人は夜、落ち着いてから行った方がいいかも。

帰り際、番台に座る女将さんと何気ない言葉を交わす。自分は帝国湯まで1時間かけて来ているのだが、それだけで近所の常連になった気分になる。入浴料以上の交通費をかけてきても後悔はない、貴重な銭湯のひとつである。

※イメージ図は筆者の調査に基づくもので正確なものではございません

筆者プロフィール: 高山 洋介(たかやま ようすけ)

1981年生まれ。三重県出身、東京都在住。同人サークル「ENGELERS」にて、主に都内の銭湯を紹介した『東京銭湯』シリーズを制作している。