私は世界遺産(あるいはそれに匹敵する遺産)が好きで、時間があれば世界遺産を巡る旅に出かけている。この連載では、旅行に行く時間が取れない人のために出張など短期間の滞在でも世界遺産を堪能できるプランを紹介していきたい(ただし、筆者は出張中に行ったりはしてませんのであしからず)。

アユタヤ遺跡だけじゃつまらない! スコータイ遺跡を見に行こう

日本からタイ、バンコクまでは飛行機で6時間ちょっと。便数が多いこともあり、また各旅行会社から低価格ツアーも組まれているので、日本から多くの人がバンコクを訪れる。 そのバンコクから車で1時間少しのところにあるアユタヤ遺跡は、世界遺産に指定されており、バンコクから近いせいか多くの観光客が訪れる定番スポットだ。だが、遺跡巡りが好きなら、もう1カ所、是非とも訪れて欲しい街がある。バンコクから飛行機で1時間ほど、タイ中部にあるもう1つの世界遺産、スコータイ遺跡である。

日本から格安ツアーも多数あり、人気の観光都市がタイの首都バンコク

ここで少しタイの歴史について、解説しよう。タイは西暦1200年頃まで、少数民族が分かれて暮らし、それらを北部は中国・雲南省からの移民、中南部はカンボジアのアンコール王朝が支配していたといわれている。1200年頃になって、北部の街、チェンマイを中心とした部族からタイ初めての統一国家スコータイ王朝が誕生。その王朝が置かれたのが、タイ北部の山岳地帯へと入る入り口にあたるスコータイという場所だ。60年あまり続いたスコータイ王朝は、その主権をアユタヤ王朝に移すまで、多くの文化を生み出した。その後、アユタヤ王朝は400年ほど続き、ビルマ侵攻などを経験しながら、現在のチャクリー王朝へと続く。

バンコクから車で1時間ちょっとと近いこともあり、タイ旅行では定番の観光地が、世界遺産のアユタヤ遺跡

タイ王朝の起源ともいえるスコータイは、タイ文字の発祥地であり、さらにはアジアのさまざまな宗教を取り込んで発展したタイ仏教は、その後アジア宗教史に大きな功績を残している。タイは宗教の自由が憲法で保障されているが、世界の中でも唯一、「王室は仏教徒」と憲法で決められているほどの敬けんな仏教徒の国である。こうした歴史を紐解いてみると、タイ王朝発祥の地であり、タイ仏教の発祥の地ともいえるスコータイの重要性が理解できるのではないだろうか。

そのスコータイは、バンコク・スワンナプーム国際空港からバンコク航空で1時間ほどのところにある。タイ国際航空がバンコク・ドンムアン空港からスコータイの近隣、ピッサヌローク空港まで飛んでいるのでそれを利用してもいいだろう。また北部の古都、チェンマイから車で5、6時間程度となっており、チェンマイから途中の街を巡りながら、車でスコータイを目指す観光客も多い。もっとも、バンコクからの空路なら日帰り観光も可能なので、バンコク・スワンナプーム国際空港からのアクセスが時間のない人にはオススメだ。

ちなみに筆者は、バンコクから1泊2日で、フライト代、2日間の専用車+日本語ガイド、1泊のホテル代を含めて、1万1,000バーツ(4万円弱ぐらい)という、少し時間に余裕があるツアーを利用した。

タイ北部の古都、チェンマイは標高300mで、1,000m級の山脈に囲まれている。少数民族を巡るツアーや象に乗ってハイキングできるツアーなども組まれており、欧米人観光客が多数訪れる

いよいよスコータイへ足を踏み入れる

朝7時、アジア有数の巨大空港であるバンコク・スワンナプーム国際空港を飛び立った定員100名程度のバンコク・エアウェイズ機は、1時間ほどで1日に4便しか発着しない小さな小さなスコータイ空港へと到着した。ちなみに、この日の乗客は40名ほど。空港も迎えの車や バスが数台止まっているだけで、タクシーはいない。あらかじめガイドを手配しておいて正解だったらしい。でなければ、いきなりこんな田舎で文字どおり路頭に迷うところだった。

アジア有数の巨大空港には不釣り合いな定員100名ほどの小さな飛行機でスコータイへ。なお、タイの国内線は、現在の国際空港であるスワンナプーム空港と、以前のハブ空港のバンコク・ドンムアン空港の2つの空港から出ているので要注意

無事にガイドと合流してまず向かった先は、シーサッチャナライ歴史公園。スコータイ空港から車で40分ほどのこの公園は、日本の開発援助などで歴史公園として整備されている。遺跡の周りは発掘され、芝生などが植えられているが、森の中にたたずむ遺跡は見事! の一言。すっかり観光向きに整備されたアユタヤ遺跡あたりとは違って、自然の中に残る遺跡群はすごい迫力がある。

シーサッチャナライ歴史公園内でもひと際大きなワット・チャン・ローム。ちなみに、ワットはタイ語で「寺」の意味

ワット・チャン・ロームの土台部分の象。タイで遺跡では象をよく見かけるが、鼻が短いところが特徴的

シーサッチャナライ歴史公園は、自然が残る森の中にある。なお、残っている遺跡はすべて仏教に関連した建造物。当時もっとも影響力を持ち、経済的にも余裕があったのが仏教施設。その他の建築物は木造だったため、仏教施設だけが今も姿をとどめているようだ

きれいに修繕されたワット・シーラッタナマハータート。もともとはアンコール時代に建てられたクメール様式の寺院らしいが、アユタヤ時代に修復されたらしく中央の建造物はアユタヤ様式

また、シーサッチャナライは陶器の産地としても有名だ。ただし、土産物屋の店先に並ぶのは、ほとんどすべてが模造品。もし本物の出土品を見たければ、土産物屋の店主などに頼んでみよう。たいていの土産物店では、奥の倉庫に本物の出土品を持っている。ただし、値段は非常に高い。しかも、出土品を無許可で国外に持ち出すことは、違法である。税関で没収されるのが関の山なので、見るだけにしておくのが無難だろう。

このあたりは、スコータイ王朝時代からの陶器の産地。戦国~江戸時代にかけて日本にも輸入されて、茶人などにもてはやされたらしい

シーサッチャナライで遺跡や陶器を鑑賞した後、ローカルなレストランでタイ料理を楽しんで、次の目的地、ピッサヌロークへ移動。ピッサヌロークはこのあたりではもっとも発展した都市で、外国人向けのホテルなどもいくつかある。そして、ピッサヌロークの一番の見どころは、「ワット・プラ・スィー・ラッタナ・マハタート」という長い名前のお寺だ。

ここにある黄金の仏像は、タイでもっともきれいな仏像といわれている。そのため現地の仏教徒が毎日数多く訪れる有名なお寺。お寺を見学したら、周りにある市場でブラブラと買い物も楽しめる。

こうしてピッサヌローク観光を楽しんだら、今回の宿泊先であるパイリン・ホテル・スコータイへ。このホテルは、スコータイでもっともグレードの高いホテルで、日本の天皇陛下も滞在したことがあるという由緒正しいホテル……という触れ込みだったのだが……。他にいいホテルがあるような地区ではないので、きっと天皇陛下もここに泊まるしかなかったのだろう。さすがにタイの田舎街、静かな夜が更けていきました。あ~、よく寝た。

ピッサヌロークのワット・プラ・スィー・ラッタナ・マハタートにある仏像は「タイでもっとも美しい仏像」といわれており、多数の人が参拝に訪れている

ホテルの前の道はこんな感じ。周りには超ローカルな食堂がポツンポツンとある程度。よほどお腹に自信がある人以外は、ホテル内のレストランを利用したほうがいい。もっとも、味は……。まあ、タイで食べ物に迷ったら「空芯菜」を頼んでみよう。炒め物なので安全だし、これならとりあえず、失敗はない

今回はここまで。次回はいよいよスコータイ歴史公園を訪れる。