このFabIA構想を実現するためには、さまざまな課題を解決する必要があるが、そのアプローチについては、次の3段階での検討を行っている。

  • 第1段階「Parts to Machine (P to M)」:部材の消耗具合や故障・寿命をモニタする「部材のインテリジェント化」を行い、半導体製造装置に搭載することで、装置の状態管理と予防保全を行う。実現するためには、半導体製造装置メーカーと部材メーカーが協業し、インテリジェント化の仕様やパーツ-装置間の通信プロトコルなどを決める必要がある
  • 第2段階「Machine to Machine (M to M)」:インテリジェント化された部材からの情報をもとに、半導体製造装置が自己判断し対処を行うとともに、製造ラインに並ぶ関連他社装置からの情報も活用し、装置自身のコンディションを調整する。半導体製造装置へのAI機能の搭載が大前提となるが、その他装置間通信仕様の確立、自動部品交換の研究なども必要である
  • 第3段階「Machine to Cloud (M to C)」:各装置から全体最適化に必要な情報がクラウドに集められる。そのビッグデータを半導体メーカー、半導体製造装置メーカーが解析を行い、歩留まり・品質などの最適化を実現する。また、将来的には最終製品からのフィードバックも取り組めるようにする。このM to Cを実現し、最適化された製造を行うためには、半導体メーカーと半導体製造装置メーカーが独自に培ったノウハウ・経験知を結集し最適化アルゴリズムを開発することと、顧客情報の管理も含むクラウド運営方法の確立が必要不可欠である

装置維持管理コストの低減を目指したFabIA構想は、成熟市場における半導体メーカーの新規装置需要喚起に貢献できると2020年プロジェクトは考えている。半導体製造工場は、他の製造業と比較し、インテリジェント化は進んでいるために、比較的導入しやすいだろう。ただし、半導体メーカーごとに仕様が異なると、半導体製造装置メーカーは大きな開発リソースを消費し、開発費の高騰と導入の遅延を招きかねない。FabIA構想を実現するには、半導体製造装置メーカーが協力して標準化を図る必要があるだろう。

2020年プロジェクトでは、「FabIA構想は、成熟市場における半導体メーカーの課題を解決する1つの可能性を示したにすぎない。ここで紹介したFabIA構想は、成熟世代の半導体製造のみならず、すべての世代に適用が可能と考えており、半導体工場の将来像として議論の材料の1つとなるであろう」との見解を述べている。

ちなみに2020年プロジェクトは、活動報告会の最後に、戦略提案を以下のように総括している。なお、2020年プロジェクトの報告全文については、日本半導体製造装置協会機関誌「SEAJ Journal No.152」に掲載されている。

  1. 半導体製造装置産業は、IoTを大きなビジネス機会にすることができる。同時に、「装置売り切り型」から「従量課金制」と「総合提案型」にビジネスモデルを変革し、継続した収入を得る機会がある
  2. 最先端市場では、新しい枠組みのコンソーシアムを設立し、小さなプロジェクトで開発費を抑制し、判断を早くすることでTime to Marketを短くする
  3. 成熟先端(中間)市場では、「従量課金制」と「総合提案型」で新興国の半導体産業を立ち上げる
  4. 成熟市場では、IoTとAIを活用し、ランニングコストを抑えた生産管理の出来る新規装置を投入し、減価償却の終わった古い設備の入れ替え喚起をおこなう

「SEAJ Journal No.152」の表紙と目次 (出所:SEAJ Webサイト)

戦略やビジネスモデルを実現するために

余談であるが2020年プロジェクトの発足当初は、現状の製造装置ビジネスをいかに効率化するかということにばかり囚われていたという。しかし、議論を深めるうちに、時代の変化に合わせてビジネスモデルを変革できない企業は衰退するという、いわゆる「企業30年寿命説」など、さまざまな事例を学ぶことで、勝ち残っていくためにはビジネスモデル自体を変えていく必要があることに気がついたという。それだけにプロジェクトの報告は、新しい戦略立案に加えて 新たなビジネスモデルへと踏み込んだ大作に仕上がっている。関係者の業界変革への意欲とここまでまとめ上げた努力に敬意を表したい。

しかし、基本的なところでいくつも疑問が残る。例えば、最先端世代において、従来の半導体コンソーシアムの失敗を反面教師として装置メーカーのコンソーシアムを提案したというが、主導者が不明確な仲良しクラブ的運営では、これまでの半導体コンソーシアムの二の舞となりはしないかという懸念がある。また、先端成熟世代に対しても、IoT時代を迎えようとしている昨今、「製造業のサービス業化」への動きが全世界的に急速に顕在化してきている中にあって、従量課金モデルを指向しつつも装置メーカーのリスク回避(製造原価回収)を優先する結果、既存のリース業まがいのモデルに留まってしまう可能性も否めない。さらに成熟する社会において、従来は生のデータをそのままクラウドに上げ、その先でデータ解析を行う考えが強かったものの、今後は、エッジコンピューティングでクラウドの負荷を減らす方向に進みそうな状況となりつつあり、果たして減価償却がとっくの昔に終わった老朽化したラインで大昔の技術で造ったIoT用デバイスに競争力があるのだろうか。古いファブにコストをかけずに延命させることはできるにしても、そこに最新のIoT/AIを導入する企業が果たしてあるだろうか。むしろ、最先端ラインにこそ全面展開し、ROIを高める(速める)べきではないだろうか。

プロジェクトの報告で述べられている戦略案やビジネスモデルを叩き台として、今後、議論がさらに深化し、改良された提案が具現化されることで業界の改革が進み、その結果として日本の半導体製造装置産業が輝かしい未来を勝ち取ることを祈念している。