今回と次回の2回に分けて、第15回ECS半導体洗浄科学技術国際シンポジウムの各セッションで発表された論文の概要を紹介したい。

「パターン倒壊とその対策」セッション

今回のシンポジウムでもっとも注目されたセッションとなったのが「パターン倒壊とその対策」で、合計7件の講演が行われた。半導体デバイス構造が微細化するにつれて、ますます回路パターンが脆弱になり、洗浄・乾燥時に、リンス水の表面張力による毛細管力によるパターン倒壊が従来以上に顕在化してきている。

ホットIPA(イソプロピルアルコール)を用いた基板乾燥法ではもはやパターン倒壊は防げないほどにまで構造体のアスペクト比が大きくなってしまっており、これまでに有機媒体を用いて基板表面を処理して表面張力を弱めて毛管力を小さく抑える方法が複数提案されている。一般には有機溶媒中のシランカップリングリンス剤によるシリル化で、基板表面を親水性から疎水性に替えるわけだが、このシリル化の様子を近赤外分光およびラマン散乱分光で観察する手法を米ECI Technologyが提案した。東京応化工業から提供されたサンプルを用いたという。

また、東芝メモリは、シリコン基板の表面エネルギーを低下させてパターン倒壊を防止するために使用するシリル化剤の分子構造の検討結果をセントラル硝子と共同発表した。

パターン倒壊は、回路パターンのアスペクト比だけではなく材質や形状にも依存しているので、これらを考慮したアスペクト比に替わるガンマ・パターン・コンタクトという新たなパラメータ導入を東京エレクトロン九州が提案した。さらに、回路パターンが微細化すると熱振動だけでピラー構造が丈夫で癒着することがあることをTEL Americaが理論計算で示した。一般に、2流体(アトマイズドスプレー)洗浄では比較的大きなパーティクルは除去できても30nm以下のパーティクルはまったく除去できないが、その欠点を克服するため、新しい固相洗浄(Solid Phase Clean)を東京エレクトロン九州/東京エレクトロン(TEL)/TEL Americaが共同提案した。ポリマー剤を基板表面に塗布して、それを剥離することによって、回路パターン内の小さいパ―ティクルまで、パターン倒壊や表面ロスなく除去できるとしている。

なお、今回のセッションではTELおよびその米国子会社から合計3件の発表があり、TELグループが日米研究陣の総力を挙げてパターン倒壊およびその対策に力を入れている姿がうかがえる。

最後はグラフェンや6方晶窒化ボロンなどの2次元物質の表面の濡れ性や液滴の癒着についてベルギーのルーベンカトリック大学/ウィーン工科大学が発表した。近い将来、2次元材料を半導体デバイス製作に適用することが期待されているが、その際のこれらの材料の洗浄を検討するうえで、濡れ性が問題になるが、そのための先行研究であるといえる。

非シリコン基板洗浄セッション

パターン倒壊セッションに次いで注目を浴びたセッションは非シリコン(Ge、SiGe、およびIII-V属化合物半導体)基板のコンディショニングおよびエッチングのセッションであった。

Ge基板の洗浄

大阪大学が米Lawrence Berkeley National Laboratoryと共同で「準大気圧下でのX線光電子分光測定による極薄GeO2/GeおよびSiO2/Siと水蒸気の反応」について講演を行った。GeO2フィルムを水蒸気中にさらすと正帯電してしまうのでGe基板のMOSトランジスタ作製に際しては水分吸着を避けなければならないという。

SiGe基板の洗浄

SiGeチャンネルとHfO2ゲート絶縁膜の間のインターレイヤとして界面準位の少ないSiGe酸化膜を形成するためのO3/HClを用いたケミカルオキサイド形成法についてSCREENホールティングス/ベルギーimecが共同で報告した。またimecは、シリコンキャップフリーSiGeパッシベーション上のダミーゲートプロセスについても報告している。さらに、米アリゾナ大学は、SiGe(100)表面に硫化アンモニウムパッシベーションを施した後の安定性についての報告を行った。

III-V族基板の洗浄

HFやHCl、H2O2などを用いたIII-V属化合物半導体のウェットエッチングにおける反応種についてアリゾナ大学が報告したほか、GaAs基板研磨後のCMP廃液の分析と環境への影響についてNorth Carolina A&T State大学が発表を行った。