プラグリェースM-27Mは、いったいなぜ制御不能に陥ったのだろうか。

2015年4月28日に打ち上げられた無人補給船「プラグリェースM-27M」は、ロケットからの分離直後に原因不明の問題に襲われ、制御不能に陥った。プラグリェースM-27Mには国際宇宙ステーションに補給するための物資が搭載されていたが、復旧できずにドッキングを断念、そのまま高度を落とし、5月8日に地球の大気圏に再突入して消滅した。

プラグリェースM-27Mは、いったいなぜ制御不能に陥ったのだろうか。

この連載の第1回では、事故の簡単な経緯と、今後の影響について紹介した。また第2回では、事故が発生した4月28日の出来事をまとめた。第3回となる今回は、事故の翌日である4月29日から、プラグリェースM-27Mが大気圏に再突入するまでの経緯について見ていきたい。

プラグリェースM-27Mを載せたサユース2.1aロケットの打ち上げ (C)Roskosmos

打ち上げ準備中のプラグリェースM-27M (C)Roskosmos

デブリの発見と、疑われた第3段

ロシアがプラグリェースM-27Mの状態をつかもうと懸命の努力をしていたころ、米国カリフォーニア州のヴァンデンバーグ空軍基地を本拠地とする米戦略軍(USSTRATCOM)・宇宙統合機能構成部隊(JFCC SPACE)・統合宇宙運用センター(JSpOC)でも、独自にプラグリェースM-27Mの動きを追跡していた。JSpOCは、軌道上のあらゆる物体を検知、追跡することを主任務のひとつとしており、そのデータはウェブサイトを通じて一般にも公表されている(ただし米国や日本の軍事衛星は除く)。

JSpOCは、プラグリェースM-27Mの打ち上げから5時間弱後の、太平洋夏時間4時53分(日本時間20時53分、モスクワ時間14時53分)から同機を観測しており、プラグリェースM-27Mが5秒に1回転をしていることを発見した。

さらに、プラグリェースM-27Mとロケットの第3段機体の周囲に、44個のスペース・デブリ(宇宙ごみ)が発生していることも発見していた。ただし、この時点では、補給船やロケット自身から発生したものなのか、あるいはどちらから発生したものなのかといったことは判断できないとされた。

一方、ロシア国内のメディアは、この時点で入手可能だったテレメトリーのデータなどから、この事故の原因がプラグリェースM-27M自身ではなく、それを打ち上げたサユース2.1aロケットの第3段にあったのではないかという見解を報じ始めた。例えば第3段とプラグリェースM-27Mが分離する前後のタイミングで第3段が爆発した、あるいは分離後に両者が衝突するなどして、プラグリェースM-27Mが損傷し、異常が発生したのではないか、などといったシナリオが考えられた。

もちろんこの時点ではあくまで憶測に過ぎなかったが、後の調査では、その憶測通り、ロケットの第3段に何かが起きたことがきっかけとなったという見方が有力視されている。

制御不能

モスクワ時間4月29日3時50分、この日最初の通信可能な機会が訪れたが、プラグリェースM-27Mとの通信は取れなかった。

この日、日中のうちに通信が可能な機会は6回訪れた。その都度、回転を止めるよう指令が送られたが、無反応であった。またTsUPに勤めている職員が明かしたところによれば、たとえ指令を受け付けたとしても、回転を止めることはできなかっただろうとしている。というのも、回転を止めるためには姿勢制御スラスターを噴射する必要があったが、分離直後のテレメトリーのデータから、配管が損傷している可能性が高く、また別の系統の配管への切り替えにも失敗していたためであった。

また、プラグリェース補給船は地上から制御することが可能な「TORU」というシステムを搭載しており、操縦システムを自動からTORUへ切り替える指令も送られたが、これも無反応に終わった。ちなみに、ランデヴーとドッキングも国際宇宙ステーション(ISS)側から宇宙飛行士が遠隔操縦することも可能であり、打ち上げ直後に、自動ランデヴー・ドッキング・システム「クールス」で使われるアンテナが展開していないとわかった際、それでもISSへの到着が楽観視されていたのは、こうしたバックアップ機能があったからでもあるのだろう。

指令を受け付けなかった理由は、おそらく船体が回転していることにより、太陽電池による発電が不十分で、バッテリーの充電がなくなったためと考えられている。

この時点で、もはや復旧は難しいとする見方が趨勢だった。ロシアのメディアでは「復旧するとすれば、それは奇跡だ」とする関係者のコメントが紹介されていた。

モスクワ時間29日夕方、ロシア連邦宇宙庁(ロスコースマス)は記者会見を開き、プラグリェースM-27MとISSとのドッキングは不可能であり、そして制御不能の状態からの回復の見込みがないことを発表した。

復旧作業に挑むロシアのミッション管制センター(TsUP) (C)TsUP/NASA

モスクワ時間29日夕方に会見するロスコースマスのイーガリ・カマローフ長官ら (C)Roskosmos

ただ、その後もロシアの管制センターは復旧に向けた努力を続けた。これはISSとのドッキングを目指したものではなく、原因究明のためのデータ取得と、そして地上に被害を与えないように大気圏に再突入させる、制御再突入を行うことを目的としたものだった。

またNASAによると、TsUPからISSに滞在している宇宙飛行士に対して、カメラでプラグリェースM-27Mの撮影できないかとの要請がなされたという。両者の軌道は、軌道傾斜角(赤道からの傾き)は同じだが、高度は約170kmほど離れており、相対速度の差は秒速100m(時速360km)ほどもある。たとえるなら東京スカイツリーから、静岡県の富士山静岡空港、もしくは長野県の信州まつもと空港を離陸しようとしている小型ビジネス・ジェット機を撮影するようなものだろうか。

鮮明な写真を撮ることはほぼ不可能と思われたが、ISSに滞在しているギナージィ・パーダルカ宇宙飛行士は29日から30日にかけて、プラグリェースM-27MがISSの真下を通るタイミングを狙い、撮影に挑んだ。ロシアのインテルファークス通信によると、やはり不鮮明な写真しか得られず、船体がどのような被害を受けているのかはわからなかったという。その画像は一般には公表されていないが、NASASpaceflight.comという宇宙開発の情報サイトが独自に入手して公開しており、複数の写真を組み合わせた動画も制作されている。それを見る限り、やはり船体の状況はわからないものの、回転している様子ははっきりと写っていた。

大気圏再突入

こうした努力も虚しく、プラグリェースM-27Mは制御不能のまま大気との抵抗で徐々に高度を落とし、5月8日に太平洋上空で再突入した。ロスコースマスによると、再突入時刻はモスクワ時間5月8日5時4分(日本時間5月8日11時4分)で、場所は太平洋のほぼ中央の上空であったという。

またJSpOCの見立てによれば、再突入した時刻は日本時間5月8日11時20分(誤差はその前後1分)で、場所は南緯51度、西経87度の、南米大陸の南端から西に約1000kmほど離れた地点の上空であったと推測されている。ロシアは太平洋上空での大気圏再突入を観測できる設備を持ち合わせていないはずなので、おそらくJSpOCの推測が最も正確であろう

プラグリェースM-27Mの船体は、再突入時の熱や衝撃でほとんどが燃え尽きたと思われる。いくつかの破片が燃え残り、地上にまで達した可能性はあるものの、船舶や島が被害を受けたとの報告は出ていない。

またロケットの第3段機体や、JSpOCが観測したデブリ群も、プラグリェースM-27Mより先に大気圏に再突入している。これで今回の事故と関係している物体はすべて消失し、そして謎だけが残された。

(続く)

参考

・http://roscosmos.ru/21459/
・http://www.nasaspaceflight.com/2015/05/
stricken-progress-m-27m-spotted-iss-entry-evaluation/
・http://www.russianspaceweb.com/progress-m27m.html
・http://www.vandenberg.af.mil/news/story.asp?id=123446527
・http://www.vandenberg.af.mil/news/story.asp?id=123447520