超小型の人工衛星を、超小型のロケットで打ち上げる――。そんな動きが今、世界中で活発になっている。これまで超小型衛星は、ロケットの大きさや価格などの問題で、好きなときに好きな軌道へ、自由に打ち上げることができなかった。しかし今、ふたたび盛り上がりつつある小型衛星ブームを背景に、そうした小型・超小型衛星を打ち上げることに特化した超小型ロケットの開発が世界中で進んでいる。

第1回では小型・超小型衛星の打ち上げを取り巻く問題について、第2回では世界中で開発が進む超小型ロケットの中で、最も実現に近いロケット・ラボの「エレクトロン」ロケットについて紹介した。

今回はエレクトロンに勝るとも劣らない、開発競争に挑んでいる他のロケットを紹介する。

ヴァージン・ギャラクティックの超小型ロケット「ローンチャーワン」 (C) Virgin Galactic

ファイアフライ・スペース・システムズの超小型ロケット「アルファ」 (C) Firefly Space Systems

空中発射ロケット「ローンチャーワン」

世界中で開発が進む小型・超小型衛星打ち上げロケットの中で、エレクトロンと並んでもう一つの有力候補と目されているのが、カリフォルニア州に本拠地を置くヴァージン・ギャラクティックの「ローンチャーワン」である。

ヴァージン・ギャラクティックは、ヴァージン・レコードやヴァージン・アトランティック航空などでおなじみ、サー・リーチャード・ブランスン率いるヴァージン・グループの一社で、近年では短時間の宇宙観光ができる小型宇宙船「スペースシップツー」を開発していることでも知られている。

このスペースシップツーは、他の宇宙船のように地上から打ち上げられるのではなく、「ホワイトナイトツー」という飛行機に吊るされた状態で空港から離陸し、空中で切り離され、そこからロケット・エンジンで高度100kmの宇宙空間まで飛んでいく。それと同じように、スペースシップツーの代わりに小型衛星を積んだ小型ロケットを搭載して発射する、というのがローンチャーワンの考え方である。

実際には、ホワイトナイトツーではやや能力不足なため、B747-400、いわゆる「ジャンボ・ジェット」を空中発射母機として使う。この機体には「コズミック・ガール」という愛称が与えられており、かつてヴァージン・アトランティックで実際に旅客機として活躍していた機体でもある。

空中発射の利点は、飛行機はロケットより雨や風に強く、なおかつ雲より高い高度から発射されるため、地上から発射するロケットに比べ、打ち上げが天候に左右されにくいということがある。またロケットを打ち上げる方位角や、分離したロケット機体の落下位置も比較的自由に選べるという利点もある。もっとも、ロケットの発射台をもたなくて良い代わりに、空中発射母機の維持、整備が必要であり、大型ロケットの打ち上げには向かないなど、欠点もある。

ローンチャーワンの打ち上げ能力は太陽同期軌道に200kgで、エレクトロンよりやや大きいくらいの、ほぼ同じ能力である。打ち上げコストは明らかになっていない。初打ち上げは2017年中、あるいは2018年に行われるという。

またヴァージン・グループは、地球を約700機の小型衛星で覆い、全世界にインターネットを提供することを目指しているOneWebに出資しており、その縁もあってヴァージン・ギャラクティックはすでに、ローンチャーワンでOneWebの衛星のうち何機かを打ち上げる契約を取り付けている。第1回で触れたように、OneWebのような大量の小型衛星を打ち上げる場合、基本的には大型のロケットで一度に何機も打ち上げるが、そのうちの1機が壊れた場合などに備え、1機のみを迅速に打ち上げる手段も必要となる。天候の変化に強く、発射方向の自由度も効くローンチャーワンは、まさにそうした使い方に適している。

ヴァージン・ギャラクティックの超小型ロケット「ローンチャーワン」。ジャンボ・ジェット機から発射する (C) Virgin Galactic

ローンチャーワンのロケット部分 (C) Virgin Galactic

エアロスパイク・エンジンを積んだファイアフライの「アルファ」

超小型ロケット開発の有力候補の一社は、テキサス州に本拠地を置くファイアフライ・スペース・システムズである。創設者の一人であるTom Markusic氏は、かつてスペースXやヴァージン・ギャラクティック、ジェフ・ベゾス氏の宇宙企業ブルー・オリジンなどで働いていた経験を持つ人物で、そうした経験を生かして、超小型ロケットを開発すべく2014年に同社を設立した。

ファイアフライは「アルファ」と呼ばれるロケットを開発している。アルファは地球低軌道に最大400kgの打ち上げ能力をもつ。1機あたりの打ち上げコストは900万米ドル(約10億円)とされる。

アルファの最大の特長は、エアロスパイクと呼ばれるロケット・エンジンの技術を採用しているところにある。ロケット・エンジンは、高度などによって最適な性能を出せる形が変わってくる。とはいえ、飛行中にエンジンの形を変えることはほぼできないので、ほとんどのロケットは、多少性能が落ちることは承知の上で、エンジンの形状を固定して打ち上げている。エアロスパイクはその形を変える方法の一つで、完全に理想的とはいかないまでも、ある程度は効率の良いロケット・エンジンを実現できる。

ただ、アルファや、とくにエンジンの開発は難航しているようで、装備するエンジン数が変わったり、挙句には使用する推進剤も変わるなど、迷走している感は否めない。また、Markusic氏がヴァージンを離れた際に機密情報を持ち出し、それを基にアルファを開発していると告発されたり、さらに2016年秋には、英国のEU離脱などの影響で投資家が離れ、資金難に陥って活動休止に陥ったりなど、技術面、経営面の両方で多くの問題を抱えており、今後の見通しはあまり明るくない。

ファイアフライ・スペース・システムズの超小型ロケット「アルファ」 (C) Firefly Space Systems

アルファが搭載するエアロスパイク・エンジン (C) Firefly Space Systems

世界中で進む超小型ロケット開発

今回紹介した3社は、2015年に米国航空宇宙局(NASA)の「ヴェンチャ・クラス・ローンチ・サーヴィシズ」という、超小型衛星打ち上げ用の超小型ロケットを民間に開発させる計画に選ばれ、開発資金の提供を受けた企業である。つまり2015年の時点で、NASAが「有力だ」と判断していた企業というわけだが、ファイアフライが活動休止に追い込まれたように、開発競争の行方はまだわからない。

そしてこの3社以外にも、もっと言えば米国以外にも、超小型ロケットの開発を行っている企業はいくつもある。

たとえばアリゾナ州にあるヴェクター・スペース・システムズでは、「ヴェクターR」と「ヴェクターH」という2種類のロケットを開発している。打ち上げ能力は50kgから100kgほどと、エレクトロンなどよりさらに小さく、より小型の衛星をターゲットとしている。ヴェクターの開発には、2000年から超小型ロケットの研究・開発を行っていた企業のメンバーが多数参加しており、そのおかげもあってか開発は比較的順調に進んでいるようである。また米国防総省などからの資金提供も受けるなど、超小型ロケット界隈の中で徐々に頭角を表しつつある。 このほかにも、米国内でも数社、さらにロシアやルーマニア、英国などでも、超小型ロケットの開発が行われている。

ヴェクター・スペース・システムズでは、「ヴェクターR」と「ヴェクター」 (C) Vector Space Systems

米国のインターオービタル・システムズが開発中の「ネプチューン」ロケット。簡素で低コストなロケットを何機も束ねて衛星を打ち上げる、というコンセプトである (C) Interorbital Systems/GLXP

誰もが衛星やロケットを持てる時代がやってくる

そして、超小型ロケットに挑戦しているのは外国だけでない。日本にも、北海道を拠点にロケットの開発を行っているインターステラテクノロジズがある。同社は今年、観測ロケット「モモ」を宇宙空間へ向けて打ち上げることを計画している。

これまでに紹介したエレクトロンなどとは違い、モモには人工衛星を打ち上げられる能力はなく、宇宙空間に達した後そのまま落下する弾道ロケットである。しかし、同社では並行して、小型衛星を打ち上げられる能力をもったロケットの開発も行っており、モモの成功でその開発にはずみが付くことが期待される。

このうち、どれだけの企業が超小型ロケットを完成させ、打ち上げ、そして運用し続けることができるかわからないが、たとえわずかでも成功し、そして小型・超小型衛星ブームに乗り、あるいは逆にブームの牽引役にもなれば、OneWebのように世界を大きく変えるビジネスやサービスが本格的に始まることになる。

また、さまざまな企業や学校が衛星を保有できるようになれば、さらに新しいビジネスの創出につながり、教育的な価値も計り知れない。そして一家に一台、あるいは一人に一台に、まるでスマートフォンのように誰でも人工衛星を持てる時代もやってくるかもしれない。

そしてまた、現在はどの会社が開発競争に勝つかを眺めることしかできなくても、いずれは誰でもロケットを開発したり、買って乗ったりできるようになるかもしれない。そうなれば、まもなく実現するといわれている宇宙旅行の時代を超えて、まるで自家用車のように、宇宙に行くための乗り物そのものを手に入れられる、そんな時代がやってくるかもしれないのである。

インターステラテクノロジズが開発している観測ロケット「モモ」のポスター

モモに使われるロケット・エンジンの試験の様子 (C) Interstellar Technologies

参考

・Satellite Launch - Virgin Galactic
http://www.virgingalactic.com/satellite-launch/
・Virgin Galactic Signs Contract with OneWeb
http://www.virgingalactic.com/press/virgin-galactic-signs-contract-with-oneweb-to-perform-39-satellite-launches/
・Firefly Alpha-Payload User's Guide
http://fireflyspace.com/assets/files/Firefly%20Alpha%20-%20Payload%20User's%20Guide-20160609093017.pdf
・NASA Awards Venture Class Launch Services Contracts | NASA
https://www.nasa.gov/press-release/nasa-awards-venture-class-launch-services-contracts-for-cubesat-satellites/
・Vector-R (Rapide) - Vector Space Systems
http://vectorspacesystems.com/vector-r/