超小型の人工衛星を、超小型のロケットで打ち上げる――。そんな動きが今、世界中で活発になっている。

超小型衛星は数年前からブームになっているが、その打ち上げ方法は、大型の衛星を大型のロケットで打ち上げる際に、余った打ち上げ能力やスペースを間借りする、「相乗り」という形で行われることが多かった。しかし、それでは打ち上げ時期や投入軌道などを自由に選ぶことができないという欠点もあり、超小型衛星を使ってビジネスを展開しようとした際の障壁になっていた。

もし、超小型衛星を、自由な時期と軌道に低コストで打ち上げられる、超小型衛星専用のロケットがあれば、超小型衛星による宇宙利用の可能性が大きく広がることになる。そしてそんな未来が、今年から米国で、さらに日本でも始まろうとしている。

米国のロケット・ラボで開発が進む超小型ロケット「エレクトロン」 (C) Rocket Lab

東京大学が開発した超小型衛星「TRICOM-1」。残念ながらロケットの失敗により打ち上げ失敗に終わった

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小学生のころに、「スイミー」という物語を、教科書や図書室の絵本などで読まれた方は多いだろう。赤い魚たちの兄弟に生まれた、1匹だけ真っ黒で、賢くすばしっこい小魚のスイミーは、ある日大きな魚に襲われ、なんとか1匹だけ逃げ切るも、兄弟をみんな亡くしてしまう。1人放浪していたところ、同じように大きな魚に怯える、兄弟そっくりの赤い魚たちに出会う。そこでスイミーは、みんなで集まった泳ぎ、そして自分はその黒さを活かして目になることで、巨大な魚に擬態することを思いつき、そして大きな魚を追い払う――という物語である。

小さくても、やり方次第で大きなものに立ち向かえ、さらに超えることもできる、という意味で、近年ブームになっている小型衛星、超小型衛星は、まさにそんなスイミーのような存在である。ちなみに、小型衛星、超小型衛星という区分に明確な定義はないが、だいたい数百kgの衛星を小型、数十から数kgの衛星を超小型と呼ぶ。

従来、人工衛星というと、何トンもあるような大きなものが大多数だった。しかし、近年カメラやセンサー、バッテリー、コンピューターなど、電子部品や機器の小型化と高性能化が進んだおかげで、小さな衛星でも大きな衛星に負けないような性能をもつものが造れるようになった。

また、従来は衛星に使う部品は宇宙専用の、高価で性能の低いものしか使えなかったが、近年巷にあふれる民生品の耐久性も上がり、そのまま宇宙でも問題なく使えるようなものが現れはじめた。そのため小型化、高性能化と相まって、それこそ秋葉原のパーツ屋で手に入るような部品で人工衛星を造ったり、あるいはスマートフォンをそのまま打ち上げたりといった感覚で、安価に、手軽に、誰でも、そしてそこそこの性能の人工衛星が造れるようになったのである。

こうした技術の進歩を背景に、これまで宇宙事業にかかわってこなかった企業や、大学生や高校生、高専生などが積極的に小型衛星の開発や活用に乗り出している。とくに学生のうちから本物の人工衛星を造れることの教育的な価値は大きく、現在宇宙航空研究開発機構(JAXA)などで働いている人の中にも「学生のころに超小型衛星を造っていました」という人は多い。

もちろん、積める機器や使える電力の量は少ないため、小型衛星が単体できることは、大型衛星に比べると限られる。それでも、それほど複雑なミッションを目的としなければ、あるいはあるひとつの目的のみに特化するのであれば、小型の衛星でも十分、ビジネスや科学目的で活用することができる。

さらに、小型衛星を何百機、あるいは何千機と打ち上げることで、大型衛星ではできないような使い方もできる。たとえば先日、『全世界にインターネットを! ソフトバンクが10億ドル出資するOneWebの挑戦』で取り上げたような、全世界にインターネットを提供するために、地球を覆うように小型衛星を多数打ち上げる、という使い方は、まさにその一例である。

しかし、小型衛星にしても超小型衛星にしても、その可能性を大きく縮めかねない、ある大きな問題を抱えていた。それは「打ち上げ手段が限られている」ということである。

東京大学が開発した超小型衛星「TRICOM-1」。わずか3kgほどだが、カメラによる地球の撮影や通信の中継などができる

地球を約700機の小型衛星で覆い、全世界にインターネットを提供する壮大な構想「OneWeb」 (C) Airbus D&S/OneWeb

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いくら小型衛星に大きな可能性が秘められているとはいっても、実際に宇宙に飛ばさなければ意味がない。しかし、この宇宙へ打ち上げるための手段が大きく限られていた。

たとえばロケットにも「小型ロケット」はあるが、それでも数百kgの打ち上げ能力があり、たった数kgしかない超小型衛星を打ち上げるには能力が過剰すぎる上に、何十億ものコストがかかるので現実的ではない。

現在、超小型衛星を打ち上げる方法は大きく3つある。ひとつは、大型の衛星を大型のロケットで打ち上げる際に、余っている打ち上げ能力やスペースを間借りし、そこに超小型衛星を載せてもらう「相乗り」というのもある。この方法が最もポピュラーで、ちょうど今も、JAXAが、2018年度に打ち上げを予定しているH-IIAロケットに相乗りする超小型衛星を募集している(詳しくは「JAXA、2018年度打上げ予定のH-IIAロケットで超小型衛星の相乗り機会を提供」を参照)。

この場合、基本的には安価で、また教育目的なら無償というケースもあるなどの利点があるが、大型衛星の準備が遅れれば打ち上げも遅れるし、また投入軌道は、大型衛星が打ち上げられる軌道に限られるため、"お邪魔する"側である小型・超小型衛星が選ぶことはできない。

もうひとつは、他の超小型衛星を開発しているところに声をかけ、1機の小型ロケットに同時に搭載し、数機、数十機をまとめて打ち上げる、という方法である。実際に日本の大学の衛星が、インドやロシアのロケットでこの方法を使って打ち上げられたことがある。しかしそれでもコストは高いし、他の衛星の開発が遅れたり、中止になれば、足並みが揃うのを待つ必要があったり、そうこうしている間に打ち上げそのものができなくなる可能性もある。またすべての衛星が基本的に同じ軌道に入るため、目的とする軌道が違う衛星はいっしょに打ち上げることができない。

また近年増えてきた方法として、国際宇宙ステーションに物資を運ぶ「こうのとり」などに超小型衛星を載せて打ち上げ、ステーションの日本モジュール「きぼう」にある放出機構から衛星を飛ばす、というものもある。この場合も同様に、無償で利用できることもあるものの、時期や軌道が限定されるという欠点がある。

大型衛星打ち上げ時の余力を活用して小型衛星、超小型衛星を打ち上げる「相乗り」という方法 (C) JAXA

相乗りによる打ち上げの実際の写真。メインである大型衛星側から撮影された写真で、ロケットの第2段の周囲に、複数の小型衛星が搭載されていることがわかる (C) JAXA

あらかじめ補給船で超小型衛星を打ち上げ、国際宇宙ステーションから放出するという方法もある (C) NASA

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もちろん、打ち上げ時期や投入軌道にこだわりがなければ、こうした不自由さは苦ではないかもしれない。

またOneWebのように、そもそも同じ軌道に複数の衛星を打ち上げることを目的とするなら、1機の大型ロケットに複数の衛星を乗せて打ち上げるほうがむしろ都合が良い。

しかし、そうではない場合、たとえば1回に打ち上げたい衛星が1機だけだったり、あるいはOneWebなどで、すでに打ち上げた複数の衛星のうち1機が故障し、即座に代わりの衛星を打ち上げなければならないときなどは都合が悪い。

そこで求められるのが、小型衛星や超小型衛星を1機、あるいは数機単位で、好きなときに好きな軌道へ、そして安価に打ち上げられる、そんな痒い所に手が届くロケットである。こうしたロケットは、日本の「イプシロン」などのいわゆる小型ロケットよりもさらに小さくなるため、「超小型ロケット」とも呼ばれる。

そして今、こうした超小型ロケットを開発する動きが、米国を中心に世界中で始まっている。

(続く)

参考

・About Us | Rocket Lab
 https://www.rocketlabusa.com/about-us/
・東京大学ISSL 超小型天文観測衛星Nano-JASMINE(ナノ・ジャスミン)プロジェクト
 http://www.space.t.u-tokyo.ac.jp/nanojasmine/labo.html
・「マイ衛星」つくります
 https://www.axelspace.com/solution/yours/
・JAXA 新事業促進部
 http://aerospacebiz.jaxa.jp/solution/satellite/
・JAXA|相乗り衛星の概要
 http://www.jaxa.jp/countdown/f15/overview/sub_payload_j.html