このところ、古いバイクを新車のように蘇らせる「レストア」が静かなブームとなっている。同じレストアでも、自動車は費用・手間ともに素人が安易に手を出せるものではないが、バイクなら安上がりな趣味として楽しめるのだ。総予算3万円で始められるバイクレストアの世界を紹介しよう。

総予算3万円ポッキリ!? ピカピカのバイクに仕上げる

スズキ「ジェンマ50」。1万円には見えないイタリアンムードあふれるデザイン

この連載では、レストアするバイクの入手とパーツ代を合計して、3万円以内でピカピカのバイクを仕上げることを目標に、実際にレストアを進めていく。もちろん、作業の様子を紹介しながら、その手順やコツなどを解説していく予定だ。週末にコツコツとレストアして2カ月かかるとすれば、1カ月あたり1万5,000円で、たっぷり楽しめる趣味ということになる。

仕上がったバイクは売ることもできるので、差し引きすると非常に安上がりな趣味といえる。初心者のうちはあまり考えないほうがいいが、質の高いレストアができるようになれば、高く売って儲けを出すことも不可能ではない。もちろん、自分で乗って楽しむことも可能だ。この場合は自賠責保険料などがかかるが、これについては3万円の予算には含まないこととする。

同様に、使用する工具なども3万円の予算に含まないが、できるだけ特別な工具は使わず、ホームセンターで入手できるような、一般的で低価格な工具だけを使用していく。難しい知識や技術も、まったくではないが、ほぼ必要ない。ただし、手が汚れる覚悟は必要だ。

まずはレストアする二輪車選びから

まず最初に、レストアするバイクを入手する。自宅や知り合いの倉庫にしまいっぱなしのバイクを直してみるという人はそれでいいが、これから入手するなら車種選びは非常に大切だ。構造が複雑なバイクを買っても持て余してしまうから、最初はとにかくシンプルなバイクを選ぶべきだ。

ここでいうシンプルなバイクとは、エンジンが単気筒の2サイクルで、排気量は50~125ccまで、そして10年以上前のモデルと考えるといい。もうひとつ付け加えれば、水冷よりは空冷が無難だ。このくらいのモデルなら、複雑なメカニズムはほとんどないし、軽くて扱いやすいのもメリット。車体からエンジンを下ろすにしても、手でエンジンを持ち上げて軽々と扱える。125cc以下なら譲渡やナンバー登録の手続きが非常に簡単なので、その意味でも初心者向きといえるのだ。

こういった条件に当てはまるバイクは古いものばかりだが、いまでも中古車はたくさんある。レストアのベース車両になるようなものは、まず店頭販売されていないが、ネットオークションならたくさん見つけることができる。ただし、かなり高価なものが多い。

エンジンもかからないサビだらけの車両なら、タダ同然で取引されていそうなものだが、冒頭に書いたように、いまはバイクのレストアが静かなブーム。さらにいえば、10年以上前の古いバイク全体が人気上昇しており、中古車の相場は高止まりになっているのだ。

たとえば、往年の人気モデルである「RZ50」や「MBX50」などは、状態が良ければ発売当時の新車価格を上回る20万円以上で販売されることも珍しくない。レストアのベースになるようなサビだらけの状態でも、5万円以上はする。これでは、総予算3万円でのレストアなど夢のまた夢だ。

イタリアンムードあふれる「ジェンマ50」運良く購入

しかし、諦める必要はない。スクーターという手があるのだ。「スクーターなんて……」とがっかりする人もいるかもしれないが、スクーターにもちゃんとマニアがいて、奥深い趣味の世界が広がっている。決して軽くみることのできないジャンルだ。

前後ともに片持ちのサスペンションであることも「ジェンマ50」の特徴。部分的に色あせがひどいものの、シート下の部分は金属ボディで状態が良い。樹脂パーツが劣化しているようだ

発売時からレトロな雰囲気で、いまでも古さを感じさせないスタイリングに。購入したものにはなぜかメインスタンドがなかった。実用上の不便はないものの、取り付けておきたい装備だ

スクーターの良いところは、「タマ数」つまり中古車の数が多いため、人気があっても安いことが挙げられる。それと、ここが非常に重要なのだが、スクーターは車両だけでなく、新品のパーツも非常に安い。今回、3万円の予算のうち、1万円を車両購入にあてることに決め、ネットオークションでスクーターを探した。車種を問わなければわりと簡単に見つかるのだが、スクーターといっても主婦向けに作られた生活感のあるモデルはさすがにいただけない。マニアもうならせるようなひねりが欲しいところだ。そう思っていたところに見つけたのが、スズキの「ジェンマ50」だ。

イタリアの人気俳優ジュリアーノ・ジェンマの名をモデル名とした「ジェンマ50」は、イタリアンムードあふれるスタイリングが最大の魅力。明らかにベスパを意識したデザインともいえる。発売は1982年で、当時は大人気とまではいかなかったが、いまになってそのスタイルが注目され、ちょっとしたカルト的な人気を集めている。新車同様のコンディションなら20万円前後、並の状態でも10万円前後の値段になるほどだ。

メーターもイタリアンな雰囲気。燃料メーターがあるのも豪華だ。走行距離は4,050km。わざわざ悪質なメーター戻しなどしないだろうとは思うが、メーターが1回転して1万4,050kmである可能性も

バイクのシートが破れている。このシートはテープを貼っていない部分も破れているので、貼り替えるしかなさそう

特大のフロントサスペンション。ホイールは本来シルバーだが、汚い素人塗装がしてある様子

マフラーにパテのようなものが塗ってある。タイヤはすり減っているのだが、ゴムはやわらかく、新しいようだ。ごく最近まで稼働していたと思われる

フロントの小物入れ。まだメットインスクーターが登場する前のモデルなので、ここが唯一の小物入れとなる

リアキャリアがまるで新品。このモデルはオプションでスペアタイヤを載せるキャリアがあり、非常におしゃれなのだが、残念ながら入手困難

シートの下はガソリンタンク、オイルタンク、バッテリー。バッテリーはダメになっていたが、他は良好な状態

シートの裏に、なにか書類が収納してあるのを発見。使用説明書だった。内容はメンテナンスの方法や電気配線図など。これはレストアにも非常に役立つはず

この「ジェンマ50」が5,000円スタートで販売されているのを発見。競り合った結果、1万100円で落札することができた。自宅の近所だったので自分で取りに行くことができ、したがって送料などもなし。いい買い物だったといえる。運が良かったのは確かだが、こういった掘り出し物は焦らず根気よく探していれば、必ず見つけることができるものだ。

ここまでのレストアに費やした金額

  金額
車両購入(スズキ「ジェンマ50」) 1万100円
合計 1万100円