10月25日に発売された「JTB時刻表」11月号から、索引地図が新しくなった。なんと50年ぶりの全面刷新、白紙状態からの描き直しだという。私鉄も含めて全駅掲載、地形の変形ぶりも大胆だ。JTBパブリッシングによると、担当者は入社2年目とのこと。なるほど、過去のしがらみにとらわれない、新しい感性がうかがえる。

「JTB時刻表」2017年11月号。表紙は大井川鐵道の奥大井湖上駅。今月から索引地図に掲載された

早速、中身を見比べてみた。リニューアルのおもなポイントは4つ。1つ目は私鉄の駅の全駅掲載。大都市の私鉄は拡大地図で全駅を網羅していたけれど、地方私鉄はこれまで主要駅のみの掲載だった。新しい地図では全駅掲載。いままでJR線の駅からチョロっと延びていた私鉄の路線が引き延ばされ、全駅を漏れなく並べている。

そもそも地図が狭いから省略していたわけで、どうして全駅掲載ができたか。陸地を描き直し、全体的に海が減って、陸地が引き延ばされている。ことでん(香川県)も全駅掲載したため、四国の面積が広くなった。もともと変形されていたとはいえ、今回の変形はかなり大胆だ。それでいて、半島や湖の位置などはわかりやすい。地形は路線を探す手がかりだから崩しすぎてもいけない。海岸線の特徴を生かしつつ地面を広げている。見事だ。

2つ目は「ユニバーサル書体」の採用。私鉄の全駅を掲載すると、狭い範囲に駅名の小さな文字がずらりと並ぶ。そこで、漢字の見分けがわかりやすいように、「田」「口」などの囲みのある部首は大きめに、「とめ」「はね」も強調している。大きく書くと不自然な文字に見えそうだ。しかし小さな文字だと違和感がなく、読みやすい。

3つ目は観光地情報の拡充。オレンジ色で示された温泉地や山岳などの観光名所が大幅に増えた。旧版の索引地図では「周遊おすすめ地」として紹介されていた情報だった。この「周遊おすすめ地」の起源は、国鉄時代の「周遊指定地」制度にある。観光客向けの割引きっぷに「普通周遊券」という制度があった。周遊指定地を2カ所めぐり、国鉄、鉄道連絡船、国鉄バスの合計が201km以上となるきっぷで、鉄道運賃は10%引き、周遊指定地の私鉄の運賃なども割引になった。

周遊指定地は観光客に人気のある場所が多かった。そこで普通周遊券が廃止された後も、時刻表の索引地図は周遊指定地の印を残して「周遊おすすめ地」としていた。新しい地図では、過去の制度のしがらみにとらわれず、旅行の目的地としておすすめできる場所を選んだようだ。著名な観光地・温泉地を網羅しているけれども、かつて周遊指定地だった淡路島はマークされていない。

4つ目は「特急運転系統図」の刷新。時刻表の初掲載は1975年。全国にエル特急が増え、特急列車全盛時代であった。しかし各地に新幹線が開業すると、在来線特急列車は整理され、特急運転系統図も寂しくなっていた。新しい地図では私鉄有料特急も合わせて掲載している。また、旧地図では路線名索引だった場所が、全特急列車の愛称と運行区間の一覧になり、時刻掲載ページが付記された。列車を示す線も色とりどりでにぎやかだ。

これ以外にも工夫と見所が多い。地形では、まず北海道の渡島半島が大胆に曲がり、拡大している。線路の密度が高いわけでもないし、道南いさりび鉄道はもともとJR江差線だったから、拡大前も全駅掲載だった。しかし、前ページと見比べてわかった。北海道新幹線の線路がつながるようにデザインされていた。

路面電車の停留所も新たに掲載された。旧地図では省略されていた函館・豊橋・長崎・熊本・鹿児島などがすべて載っている。私鉄の全駅を掲載したからには、公営交通の路面電車もすべて掲載しよう。ここは「全駅掲載」にこだわった担当者の意地を感じた。東京の地下鉄路線図も、よく見ると丸ノ内線の形が変わっている。長い間、新路線が開業するたびに手直しを続けた地図を、この機会に白紙から描き直して見やすくしたようだ。

「JTB時刻表」は92年前の創刊号から索引地図を掲載しているという。わかりやすさを第一に考え、数字だらけの時刻表に巻頭地図を載せた。その先見性はすばらしい。ただ、伝統を守ろうとすれば、全面描き直しという作業はやりにくくなる。事実、旧版の索引地図は時刻表の大きさが変わったというきっかけで作られ、それから50年にもわたって使われ続けた。国鉄がJRになったときも、組織の大変革をよそに時刻表は変わらなかった。

しかし、伝統は形だけではない。「読者にわかりやすい、見やすい」という精神も伝統のうち。その意味では、新しい索引地図もユーザーファーストの伝統を受け継ぐことになる。非常に見やすく、旅に出たくなる仕上がりになっている。鉄道ファン、時刻表ファンだけではなく、地図が好きな人にもおすすめしたい。