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鉄道ニュース週報

87 地方鉄道に朗報か - 新車購入を国が支援、2018年度予算で計上へ

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赤字経営に苦しむ地方鉄道にとって朗報となるのか。老朽化した車両をなんとか維持して運行している地方鉄道に対して、国の支援が決まりそうだ。

福島~槻木間を結ぶ阿武隈急行では、1988(昭和63)年の全線開業時に導入された車両が現在も使用されている。今年6月には、2022年度に予定していた車両更新を2018年度に前倒しする方向で検討に入ったとの報道も

9月5日に共同通信が報じた記事によると、国土交通省は車両購入費や現行車両の改良費について、最大3分の1を支援する制度を創設する方針で、2018年度予算の概算要求に3億5,000万円を計上するという。共同通信の報道を受けて、全国の地方新聞が一斉に記事を配信した。地方交通の維持に苦心する地域にとって、関心の高さがうかがえる。

地方鉄道に対する国の支援については、いままでにも「地域公共交通確保維持改善事業」として支援が行われている。ただし、このうちの利用環境改善促進等事業についてはLRT・BRTへの改良推進という意味合いが強く、鉄道軌道安全輸送設備等整備事業は信号保安装置、線路設備、車両設備などの安全性を高めるための費用に限定されている。

鉄道事業者への経営支援策として「地域公共交通活性化再生法」もある。ただし、適用を受けるためには自治体が主体となって地域公共交通網形成計画を作成し、認定を受ける必要があった。適用を受けた場合のほとんどが上下分離による新体制に移行している。

いずれも地方鉄道を活性化させる制度ではあったけれど、車両の更新については明確に定められていなかった。今回報道された車両更新制度は、いわば緊急案件として運用してほしい。計画の策定と認定、経営の長期的見通しなどを検討するなどの手続きがあると、老朽車両の更新はなかなか進まない。

そうはいっても、車両更新を希望する鉄道事業者は多いから、優先順位は作らなくてはいけない。報道によると、国交省が把握するところでは、地方鉄道96社のうち、2015年度決算は71社が赤字。使用開始から30年を超す車両は、地方鉄道全体の半数を占めるという。新造費用が負担できず、JRや大手私鉄からの中古車両を購入してきたからだ。地方鉄道で走り始めた段階で、製造から20年以上経過している車両はたくさんある。

近年は地方鉄道が中古車両をほしがっても、大手私鉄から放出されにくいという状況もある。電車の場合、大手私鉄では車体長20m級へと大型化が進み、地方鉄道に最適な17m級の車両が作られなくなっている。人気車種だった東急電鉄の旧7000系・1000系は売り尽くされた。京王電鉄の元井の頭線車両3000系も中古市場で人気だったけれども、井の頭線の現在の車両1000系は20m級車体に変わった。

福島交通飯坂線に今年導入された1000系。元東急電鉄の車両1000系を改造した

今後の出物としては、東京メトロ日比谷線の既存車両などが狙い目かもしれない。18m級車両から20m級車両への置換えが始まったばかりだ。ただし、長編成のため、運転台搭載車が少ない。地方鉄道向けに運転台を取り付けて短編成化改造すると、それなりの費用がかかる。熊本電気鉄道は東京メトロ銀座線の旧型車を入手して、集電方式の変更や台車の交換など大改装を行った。一畑電車は中古車の入手計画を変更し、既存車両の延命化しつつ、新型車両の導入を進めている。

大改造の費用を負担し、新造車両より安く手に入れても、寿命が短い。地方鉄道の車両更新は悩みの種。国と自治体の支援で新造車両を導入し、長期間使えると助かるだろう。

なお、鉄道車両の新造については、バリアフリー法の下、公共交通移動等円滑化基準に適合させる必要がある。したがって、鉄道軌道安全輸送設備等整備事業で駅やホームのバリアフリー化を達成し、新造車両を導入すればバリアフリー環境が整う。車いすや杖が必要な人も鉄道を利用しやすくなる。バリアフリー設備はキャスター付きバッグやベビーカーの利用にも適しているから、地方鉄道の利用者増加も期待できる。

また、電車にしても気動車にしても、最新技術の車両はエネルギー消費も小さい。列車の運行コストが下がり、経営の安定にもつながる。車両更新は良いことばかりだ。

ただし、新制度による予算は3億5,000万円で、車両の導入費用の3分の1までの支援。つまり、この制度をすべて新車製造に使うなら、10億5,000万円分の車両となる。国土交通省の統計によると、電車の車両価格の平均は約8,784万円、ディーゼルカーは約1億6,428万円だから、すべて電車なら11両、すべて気動車ならたった6両にしかならない。適用申請はかなり多く、予算の争奪戦になりそうだ。いや、車両の老朽化が問題だというなら、この予算は少なすぎる。

蛇足ではあるけれど、鉄道ファンとしてはちょっと心配なところもある。地方鉄道の車両は、ただ古いだけではなく、鉄道の歴史的に価値があるとか、懐かしさで人気がある車両も多い。従来、鉄道事業者が国や自治体の支援などで車両を導入すると、導入した車両と同数の車両を廃車する傾向がある。支援の条件として、公金を投入するにあたり、鉄道会社の資産を増やす形になってはいけないと考えられるからだ。つまり、車両数を追加できず、置換えが基本となる。

老朽化した車両といえども、価値のある車両については、イベント時に走行させると鉄道ファンや観光客が集まる。古い車両を維持する技術も地方鉄道には蓄積されている。毎日の運行は無理だとしても、本線で運行できる形で残してもらいたい。それが地方鉄道と地域の活性化につながる。これは地域公共交通活性化再生法の趣旨にも見合うはずだ。

可能ならば、車両の申請や改造の制度に合わせて、産業遺産、技術遺産に認定された車両の保護と、置換えから除外する制度も作ってほしい。

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インデックス

連載目次
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第87回 地方鉄道に朗報か - 新車購入を国が支援、2018年度予算で計上へ
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第83回 SL「大樹」も直面しうる「乗車したら機関車が見えない問題」とは?
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第65回 神岡鉄道「おくひだ1号」復活運転 - 廃線の町に新しい祭りができた
第64回 旧国鉄用地の売却完了へ - あの土地も鉄道用地だった
第63回 2階建て新幹線、終焉へ - E4系に引退報道
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第61回 電車初の重要文化財指定へ - ともに日本の電車時代幕開けの象徴だった
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第56回 減少続く車内販売、廃止発表より事業者公募を望みたい
第55回 神岡鉄道「おくひだ1号」復活 - 廃線を観光に活用する組織設立へ
第54回 「リバティ」「SL大樹」運行、その先の観光列車も乗り継ぎたい
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