災害被災路線の復旧について、国の支援の根拠となる「鉄道軌道整備法」が改正される見通しだ。福島県の地元紙「福島民報」と「福島民友」の報道によると、自民党の国土交通部会が8月1日、鉄道軌道整備法改正案を了承し、秋の臨時国会で成立をめざすという。なぜ福島県の地元紙で報じられたかというと、福島県内で被災した只見線の復旧問題がきっかけだったからだ。

只見線復旧問題を機に「鉄道軌道整備法」改正の気運が高まった

只見線は2011年7月に発生した「平成23年7月新潟・福島豪雨」で、路盤流出や鉄橋崩壊などの損害を被った。このうち会津川口~只見間は只見川第5・第6・第7橋梁が流失するなどの大きな被害となり、復旧の見通しは立たなかった。地元自治体と福島県などが復旧を望む一方で、JR東日本が消極的な姿勢を見せていた。もともと赤字路線であり、高額な復旧費用を負担した上に、今後も赤字運営が続くからだ。JR東日本としては交通維持のためにバス転換を提案していた。

JR東日本が復旧に消極的な理由のひとつが、復旧費用の負担の大きさだった。しかもJR東日本は会社としては黒字経営のため、復旧費用については国の支援が受けられない。その法的な根拠が「鉄道軌道整備法」だった。東日本大震災で被災した鉄道路線のうち、三陸鉄道は国の補助があって復旧、JR東日本は国の補助が受けられず、BRTによる復旧となった。その運命の分かれ道となった法律として知られるようになった。

「鉄道軌道整備法」は災害復旧のための法律ではなかった。もともとは鉄道の整備を推進するための法律だった。成立は1953(昭和28)年。鉄道が道路交通よりずっと優位だった頃だ。同法の第3条では、助成の対象として「天然資源の開発や産業振興に必要な路線の新規建設や災害予防などの改良」「老朽化した鉄道路線のうち、国民生活に不可欠な路線の運行継続」となっていた。

一  天然資源の開発その他産業の振興上特に重要な新線
二  産業の維持振興上特に重要な鉄道であつて、運輸の確保又は災害の防止のため大規模な改良を必要とするもの
三  設備の維持が困難なため老朽化した鉄道であつて、その運輸が継続されなければ国民生活に著しい障害を生ずる虞のあるもの

5年後の1958(昭和33)年に、この法律に災害復旧の項目が追加された。

四  洪水、地震その他の異常な天然現象により大規模の災害を受けた鉄道であつて、すみやかに災害復旧事業を施行してその運輸を確保しなければ国民生活に著しい障害を生ずる虞のあるもの

ただし、補助に介して定めた第8条について、次の項目が追加された。

4  政府は、第三条第一項第四号に該当する鉄道の鉄道事業者がその資力のみによつては当該災害復旧事業を施行することが著しく困難であると認めるときは、予算の範囲内で、当該災害復旧事業に要する費用の一部を補助することができる。

「鉄道事業者がその資力のみによつては当該災害復旧事業を施行することが著しく困難であると認めるとき」これが、黒字の鉄道会社に対して国が補助できないという根拠になっている。「その資力」で復旧できるなら、国の支援、つまり税金の投入はできない。

では、「その資力」があれば、鉄道会社は「災害復旧事業を施行」できるかといえば、そうはならない。黒字路線であれば自力復旧するけれど、赤字路線であれば手を付けない。民間会社であり、株式公開企業であれば、赤字事業に追い金はできない。鉄道に代わる方法で安くあげたい、となる。現行法は鉄道会社に「国の支援がなければ鉄道復旧しない」という口実を与える法律になってしまった。

只見線の復旧に関しては、地元自治体などが復旧を強く希望していた。復旧費用の2/3の負担、上下分離、年間の運行費用負担なども合意した上で、JR東日本に粘り強く復旧へ働きかけた。その交渉が実り、2017年6月に上下分離方式による鉄道復旧が決まった。復旧費用の約81億円のうち、JR東日本が1/3、自治体が2/3を負担する。

この動きと並行して、国会では鉄道軌道整備法の改正への動きが起きていた。只見線問題だけではなく、東日本大震災の三陸地域について、JR東日本の路線が鉄道で復旧できなかったなどの問題を憂う議員たちが「赤字ローカル線の災害復旧等を支援する議員連盟」を結成して研鑽し、法改正へ働きかけたという。そのひとり、自由民主党参議院議員、佐藤正久氏のブログに法改正の趣旨が説明されている。

○今回の改正においては、赤字路線が激甚災害等の特に大規模な災害を受けた場合の補助制度を、赤字事業者に限定しない形で追加するもの。
○追加する制度は、(赤字の鉄道事業者だけではなく)黒字の鉄道事業者も対象とすることから、現行制度に比べて要件を厳しく設定すべきとの基本的な考え方に立ち、以下の要件を定める。
 ・激甚災害その他これに準ずる特に大規模な災害を受けたものであるとこと
 ・復旧費用が、被災を受けた路線の年間収入以上であること
 ・被害を受けた路線が過去3年間赤字であること
また、復旧後、効率的な運営により災害発生前と比べて経営収支を改善し、将来にわたって運行を確保することを交付基準で求める予定。
○追加する制度の補助割合は、現行制度同様1/4以内。ただし例外的に、国土交通大臣が特に必要と認める場合には、補助割合を1/3以内。具体的には、鉄道以外の公共交通機関の確保が困難であり、復旧後の鉄道運営を「公有民営」方式等とする場合を想定。

「鉄道以外の公共交通機関の確保が困難」とは、並行道路が豪雪などで通行止めとなるような路線であることを示す。これに「公有民営化」を加え、国の補助を1/4から1/3へ増額できるとした。只見線の場合はこの条件に当てはまる。この補助割合については同法ではなく政令の「鉄道軌道整備法施行令」で定められており、こちらの改正も必要になる。

被災した路線の年間収入や過去3年間の赤字については、鉄道事業法にもとづき鉄道事業者が国土交通省に報告するよう義務づけられているため、その数字を参照することになるだろう。経営収支改善については、沿線自治体の支援や、路線活用の約束を示す必要がある。将来にわたる運行の確保については、復旧のために巨額の税を投入するからには、簡単に廃止されては困るとクギを刺した形だ。

これらの条件については、自由民主党内の慎重論も踏まえたようだ。

行政改革副本部長で衆議院議員の鈴木馨祐氏のブログにこんな一文がある。

災害復旧への国費投入の要件を緩めた結果、このような(赤字路線の復旧)事例が増えるのであるとすれば、看過できる改正ではありません。国民の税金を使うということですから、それぞれの地域の政治的圧力で国費投入がなあなあのうちに決定され、本来廃線せざるを得ない路線が、災害を口実に安易に延命されるようなことがあってはなりません

この法改正が成立した場合、只見線だけではなく、黒字化を果たして上場企業となったJR九州の豊肥本線・日田彦山線・久大本線の復旧にも適用されるだろう。JR東日本が復旧させ、三陸鉄道に引き継がれることになった山田線沿岸区間も適用される可能性が高い。

その一方で、国の支援を引き出すためには、復旧後の運行の確保について、自治体と鉄道事業者の密接な連携が求められる。また、支援の増額を引き出すために、災害をきっかけとした「赤字路線の公有民営化」が進むかもしれない。