JR東日本が八戸線に在来型気動車キハE130系500番台を導入し、新潟・秋田地区に電気式気動車GV-E400系を導入すると発表した。なぜすべて新型の電気式気動車にしないのだろう。その背景を探ると、JR東日本の非電化路線向け車両の方向性が見えてくる。

JR東日本のおもな非電化区間の車両分布図(白地図専門店の日本地図を加工)

JR東日本の電気式気動車については、2015年5月に導入予定が発表されていた。予定時期は新潟地区で2017~2019年度、秋田地区で2020年度だった。この発表から1カ月後、JR北海道も電気式気動車の採用を発表した。仕様はJR東日本が導入する予定の車両とほぼ同じ。2017年度中に試作車2両を製造し、2019年から量産車を投入する計画となっている。今月12日、車両形式をH100形、愛称名「DECMO(デクモ)」とすることが発表された。

当時、JR東日本は導入にあたって公募調達を実施すると告知した。公募調達とは、従来のように鉄道事業者が車両メーカーに声をかけ、車両メーカーが営業して販売するというような随意契約ではなく、公募によって部品メーカー・車両メーカーを選定する方式だ。

JR東日本は関連会社に総合車両製作所がある。順当なら総合車両製作所が製造を引き受けるところだろう。しかし、調達情報を公開することで、希望するメーカーすべてにチャンスが生まれる。国内にとどまらず、海外メーカーも参入できる。JR東日本にとっては、購入価格の引下げ、グループ内にはない新技術採用の可能性、同時に調達できる車両数の増大などのメリットがあると思われる。

今月4日にJR東日本が気動車の車両新造計画を発表したことは、公募調達手続きが終わり、車両の仕様が決定したという意味も持つ。GV-E400系の導入時期に関して、報道資料には「量産先行車3両については、2018年初に落成」とあるから、2017年度末とも言い換えられる。「量産車については、新潟地区に2019年度までに、秋田地区は2020年度に投入」とあるので、2年前に発表したスケジュールが順調に推移しているとみられる。

一方、八戸線には今年度中に在来型気動車を導入することが発表された。形式はキハE130系500番台で、水郡線や久留里線に投入された気動車とほぼ同じ。来月から試験走行を開始し、今年度中に営業運転を開始する。八戸線用の気動車も公募調達を実施しており、告知は新潟・秋田地区の電気式気動車より半年ほど早い2014年11月だった。

今回の発表で、なぜ八戸線は既存方式(液体式)の気動車で、新潟・秋田地区は電気式気動車になったのだろう。また、JR東日本は小海線などでハイブリッド方式の気動車も運行している。烏山線・男鹿線では蓄電池電車も採用した。非電化区間向けにいたずらに車両形式、駆動方式を増やしてしまえば、むしろ非効率ともいえる。規模の大きいJR東日本にとって、単一形式の車両を大量に作ったほうがコストメリットになるのではないか。

八戸線に既存方式の気動車が導入される理由は2つありそうだ。ひとつは既存のキハ40系の老朽化が顕著で、新方式の気動車の導入を待てないという事情。新潟・秋田地区にもキハ40系はあるけれど、更新工事によって冷房が搭載されるなど延命の余地がある。新潟地区の場合はJR東日本になってから製造されたキハ110系のほうが多い。ただし、キハ110系も1990年代の製造で、20年を経過した車両ばかりだ。

つまり、八戸線向けのキハE130系500番台はキハ40系を早急に置き換えるために導入され、新潟・秋田地区向けのGV-E400系は将来的にキハ100・110系を置き換えるために導入されるとみることができる。GV-E400系の導入で、まずはキハ40系を淘汰する。キハ40系を使っていた区間にはキハ100・110系を充当してつなぎ、やがてすべて新型車両になる。

八戸線に在来型気動車を選定した理由の2つ目は公募調達だろう。初めて公募調達を実施する上で、既存車両であるキハE130系のほうがコスト比較面でも都合が良かったかもしれない。また、ハイブリッド機構は構造が複雑で、JR東日本でも採用例が少ない。わずか半年の時間差ではあったけれど、電気式気動車は開発の途上であった。これが八戸線に在来型気動車を導入する理由ではないかとも考えられる。

新潟・秋田地区に導入されるGV-E400系について、報道資料にはJR東日本にとって初の電気式気動車とある。駆動方式の図を見ると、先に小海線などで導入されたハイブリッド方式から、蓄電池を省略しただけの構造に見える。

ハイブリッド方式気動車と電気式気動車の共通点は、どちらエンジンで発電し、その電力でモーターを動かすというしくみにある。違いは走行用バッテリーの有無だ。電気式気動車はバッテリーを持たないため、走行に必要な電力に合わせてエンジンを回転させる。発進時は高回転になり、低速走行時は低回転になる。ハイブリッド方式よりエネルギーのロスは大きい。しかし、エンジンからの電力で電車用の高出力モーターを使用できるため、既存の気動車に比べればロスは小さい。そしてなにより、ハイブリッド方式よりも機構が簡略化でき、製造コストが低い。

JR東日本は普通列車用のハイブリッド車両として、小海線向けにキハE200形を3両投入した。その後、仙石東北ライン向けにHB-E210系(2両編成8本)などを導入している。これに対し、電気式気動車GV-E400系は今後、計63両を製造する計画となっている。2015年の報道資料の末尾では、「弊社では今後、約150~250両(新潟・秋田地区の63両を含む)の新型電気式気動車を新造し、既存気動車を置換える予定」とあった。

ハイブリッド方式のメリットはバッテリーがあればこそ。しかし、バッテリーは高価なので製造コストが跳ね上がる。また、バッテリー自体が重いため、発進時や登坂時に余分なエネルギーが必要となる。普通列車用に大量生産する車両には向かないともいえる。JR東日本は非電化区間の今後の動力について、ハイブリッドではなく電気式気動車に見定めたといえるかもしれない。