当連載では最近、SLネタが多かった。大井川鐵道もSLが有名だけど、今回は電気機関車の話。5月2日、大井川鐵道が電気機関車E31形の営業運転に向けた整備に着手すると発表した。報道資料では「オリジナルカラーで運用予定」とあるけれど、同社のTwitter公式アカウントが5月9日、Twitterのアンケート機能を使って塗色の意見を募集した。

大井川鐵道E31形電気機関車(大井川鐵道提供)

西武鉄道から搬出されるE31形(西武鉄道提供)

大井川鐵道は鉄道車両の保存に力を入れており、原色保存が基本だと思われる。「元のまま」という声も多い中、「SL列車の補機としては派手だよね」という意見も。なにしろE31形は3両もある。どうなるだろう。

E31形は西武鉄道で保線列車などに活躍した電気機関車だ。動軸が「2-2」で、国鉄風に表すと「ED●●」となる大きさ。西武鉄道を引退した後、全4両のうち3両を大井川鐵道が購入した。それが2010年のこと。それから7年間、E31形の活躍の場はなく、ファンからは動向が心配されていた。

5月2日のプレスリリース「また往年の名車がよみがえる 西武E31形電気機関車が2018年中の営業運転を目指し整備工事を開始!!」は、機関車ファンにとってまさに朗報だ。しかも丁寧に「現行電気機関車用途廃止は現在のところ予定しておりません」の一文が添えられている。E31形の導入にともない、現行の茶色い機関車E10形やED501形(いぶき501)の廃止を心配していたファンを安堵させてくれた。

大井川鐵道の電気機関車E10形(大井川鐵道提供)

E31形の用途のひとつは「SL列車の補助機関車」だという。大井川鐵道のSL列車「かわね路」は、閑散期は補機なしで運行しているけれど、多客期で客車を増結するときはSLの力不足を補うため、電気機関車を最後尾に連結する。E31形は、現在のレトロな茶色い機関車を長持ちさせるため、交代でSL列車の補助機関車に充当される。

ここで筆者には別の心配事がある。E31形はクリーム色に赤帯だ。SL列車に似合うだろうか。ちょっと派手すぎないか?

黒いSL、茶色い旧型客車、そして現在の電気機関車も茶色。電気機関車はSL列車のレトロ感を壊さず、ひっそりと仕事をしてくれる。そこがまた頼もしく、いじらしくて、たまには先頭に立たせてあげたいと思った。実際に臨時列車として客車を牽引する機会もあり、旧型客車に茶色い機関車はよく似合っていた。

E31形に話を戻すと、プレスリースでは「原則としてカラーリングはクリーム色に朱色の帯、西武時代オリジナルのままで運用予定です」とある。しかし、5月9日に同社のTwitter公式アカウントが塗色のアンケートを実施した。もしや茶色に塗ってくれるのか? と期待したけれど、アンケートに茶色の選択肢はなし。「現状のまま(西武カラー)」「EF65国鉄特急色」「EF81国鉄色、西武E851色など」「上記のミックス(車両ごとの塗り分け)」となっている。

C56形はタイ国鉄色だった時期がある(大井川鐵道提供)

大井川鐵道は鉄道車両保存に力を入れており、原則として元のままの色を維持している。南海21000系、近鉄16000系、東急(十和田観光電鉄)7200系も元のままだ。例外として、タイ国鉄から日本に里帰りした蒸気機関車C56形はタイ国鉄色と日本国鉄色の両方で運行された。その意味では「現状のまま(西武カラー)」が最も大井川鐵道らしいといえる。

「EF65国鉄特急色」は、14系客車に合わせようという思いがあるかもしれない。大井川鐵道は、青森~札幌間で運行していた急行「はまなす」の14系客車を購入し、6月から運行予定だ。機関車が「EF65国鉄特急色」になれば、往年の東海道フルートレインに見立てられる。鉄道ファンだけではなく、ドラマや映画のロケにも活躍しそうだ。

5月15日時点の集計経過は、「現状のまま(西武カラー)」が半数以上と優勢、次が「上記のミックス(車両ごとの塗り分け)」となっていた。「その他のご意見などありましたら是非DMなどお願いします!」とあるから、茶色(ぶどう色)派のフォロワーも暗躍(?)しているかもしれない。Twitter公式アカウントにもDMしてみたところ、やはりぶどう色1号をはじめ、EF510形やED79形など、さまざまな声が寄せられたそうだ。

さて、E31形の色はどうなるか。大井川鐵道の関係者に聞くと、「塗色変更の予定はなく、プレスリリースの通り原色運用が公式回答」とのこと。2010年に購入したE31形について、7年後に営業準備に着手した理由は「保安装置の取付け費用が捻出できなかったから」という。経営状況が厳しかったのだ。

その意味では、E31形の整備着手は、大井川鐵道の経営状況が上向きになってきた証しともいえる。Twitter公式アカウントのアンケートは、E31形の導入を盛り上げるため、ファンの気持ちを聞いてみたかったようだ。意外と軽いノリかもしれない。

念のために申し上げておくと、夏の恒例行事となった「きかんしゃトーマスとなかまたち」の機関車たちは、大井川鐵道の車両ではなくソドー島からやって来た車両だ。そしてなぜか、この期間だけは大井川鐵道所属の似た形の車両たちが休暇を取っているため、姿を見せない。賢いキミなら、この話を理解できるよね?

ちなみに、2016年公開の映画『映画 きかんしゃトーマス 走れ! 世界のなかまたち』では、フランス生まれの電気機関車「エティエンヌ」が登場する。エティエンヌの顔つきはE31形に似ているような気がする……。なんだか、妄想がはかどって楽しくて仕方ない。