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鉄道ニュース週報

65 神岡鉄道「おくひだ1号」復活運転 - 廃線の町に新しい祭りができた

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4月8日、岐阜県飛騨市のNPO法人「神岡・町づくりネットワーク」は「ロストラインフェスティバル in 神岡」を開催し、2006年に廃止された旧神岡鉄道の気動車「おくひだ1号」の復活運転を実施した。旧神岡鉄道と「おくひだ1号」の詳細については、当連載第55回でも紹介した通りだ。

「おくひだ1号」が旧神岡鉱山前駅を出発

旧奥飛騨温泉口駅では大勢の人々に迎えられた

当日朝、旧神岡鉱山前駅で出発式が行われた。地元の小学生駅長による発車の合図を受けて、「おくひだ1号」は午前10時に同駅を発車。途中の旧神岡大橋駅で神岡小学校4年生を乗せ、約2.9kmを約1時間かけてゆっくりと走った。沿線には鉄道ファンがカメラを構えている。「おくひだ1号」はトンネルや鉄橋の前で一旦停止し、運営スタッフが歩いて線路を点検した後、徐行した。

終点の旧奥飛騨温泉口駅では、神岡中学校ブラスバンド部がオリジナル曲「手作りの汽車にゆられて」を演奏して出迎え、くす玉が割られた。駅構内には在りし日を懐かしむ人たちから現役時代を知らない子供たちまで、たくさんの人々が集まった。飲食やグッズ販売のテントも並ぶ。まるで帰省客でにぎわう夏祭りだ。

いや、まさしくこれは祭りをイメージしたイベントのようだ。冬ごもりしていた神様が下りてきて、この場所で人々を見守り、次の冬が来る前に山へ帰って行く。その神様が「おくひだ1号」である。復活運転はこの日だけ。帰還式の後、「おくひだ1号」は体験乗車会として旧奥飛騨温泉口駅から旧神岡大橋駅まで5往復した。その後、夕方から旧奥飛騨温泉口駅に残置されることになっていた。

「神岡・町づくりネットワーク」は神岡鉄道の廃線跡を活用し、レールマウンテンバイク「ガッタンゴー」を運営している。神岡温泉を訪れる観光客のため、水曜日を除く毎日運行だ。安全のために自転車を改造した「ガッタンゴー」と、気動車の「おくひだ1号」は同時に運行できない。

せっかく動かせるようにしたからには、積極的に体験乗車会を実施したらどうかと関係者に聞くと、燃料と点検にかかる運行費用や人材の面で難しいという。運転士が専任で常駐していないと、運行回数を増やせない。線路も定期的に点検する必要がある。今回、運転士を務めたのはジェイアール貨物・北陸ロジスティクス富山研修所の浅野博之氏。神岡鉄道が国鉄神岡線だったころ、キハ28形・キハ58形を運転していたという。

「おくひだ1号」復活運転に協力した浅野博之氏

帰還式で挨拶する飛騨市長の都竹淳也氏

そもそも「おくひだ1号」を動かすきっかけは、「ガッタンゴー」を盛り上げることだったという。帰還式に出席した飛騨市長、都竹淳也氏に聞いた。

「当初は駅の雰囲気を盛り上げるため、研修庫に保管してある『おくひだ1号』を旧奥飛騨温泉口駅で展示できないか、という話でした。しかし、クレーンでトレーラーに乗せて運ぶと約2,000万円もかかる。せっかく線路があるから、なんとか引っ張って移動できないか。そこで試しに気動車のエンジンをかけてみたら、動いたんです。しかし走行はできなかった。そこで、もう少し車両と線路を調べようというわけで、100万円の予算を付けました。皆さんのご協力があって、ここまで自走できたというわけです」

2,000万円の見積もりが100万円まで下がり、大勢の人々が集まった。大成功だ。

式典後の試乗会でにぎわう車内

現役時代の風景が蘇った

ところで、鉄道車両の運行となれば国土交通省との調整も必要ではないか。しかし、これも問題なかったとのこと。神岡鉄道が廃線になった段階で、線路や車両などの設備や資産は飛騨市に譲渡された。国土交通省の管轄を離れ、飛騨市が市の資産を動かすだけ。ただし、安全にはくれぐれも注意してほしいとの意見があったという。

「ガッタンゴー」が今期の営業を終了した後、「おくひだ1号」は旧神岡鉱山前駅の研修庫に戻される。それまで「おくひだ1号」は町のシンボルとして旧奥飛騨温泉口駅に置かれ、「ガッタンゴー」の安全を見守る神様の役目を担う。まだ詳細は決まっていないけれど、「おくひだ1号」が研修庫に戻る日も「お見送りイベント」を実施したいという。

「年に2回くらいのお祭りで、ちょうど良いのではないか」(都竹氏)

翌4月9日朝、旧奥飛騨温泉口駅に行ってみると、「おくひだ1号」は留置線に移動していた。「ロストラインフェスティバル in 神岡」の告知効果もあったようで、「ガッタンゴー」は初日から予約でいっぱい。今年度は幸先の良いスタートとなった。たしかに「おくひだ1号」は「ガッタンゴー」の祭神といえそうだ。

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第65回 神岡鉄道「おくひだ1号」復活運転 - 廃線の町に新しい祭りができた
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