4月1日にJRグループは会社発足30周年を迎えた。つまり、全国組織の国鉄(日本国有鉄道)が地域分割、民営化されて30年となる。報道関係では本州3社とJR九州の好調、JR北海道とJR四国の危機感を対比し、国鉄分割民営化の功罪に関する論調が多かった。

その中でも興味深い記事は、読売新聞が4月2日に報じた「鉄道・運輸機構の旧国鉄用地の売却完了」だった。30年かけて、ようやく残務処理のひとつが終わる。しかし、なぜ30年もかかったのか。そもそもなぜ、旧国鉄用地を売却しなくてはいけなかったか。

(写真左から)1992年の汐留貨物駅跡2009年の汐留シオサイト(出典 : 国土地理院ウェブサイトよりキリヌキ)

国鉄が分割民営化へと至ったおもな理由に「国の鉄道政策によって累積した債務の解消」と「企業統治の健全化」の2つが挙げられる。民営化すれば国の干渉なしで経営判断できるようになるし、地域で分割すれば各地域の事情に根ざした経営に専念することもできる。当時、問題視されていた国鉄職員のモラル低下にも対処できる。

国鉄は公共企業体のひとつで、運賃の改定や路線の建設、廃止などの重要事項は政府が決定し、国会の承認を得る必要があった。当時、新幹線や大都市の鉄道整備など必要な投資が増えた上に、赤字ローカル線も抱えていた。その一方で、運賃値上げは「インフレを招く」として抑制されてきた。

その結果、1983(昭和58)年度の決算損失が1兆6,604億円となった。幹線の利益は388億円あったけれども、借金の利子負担だけで8,366億円もあった。累積赤字は10兆6,266億円になっていた。長期債務は19兆9,833億円となった。

1987年4月からのJRの経営を健全な形で始めるために、国はJRを国鉄の承継会社ではなく新会社とした。国鉄そのものは存続させて、債務を保持したまま組織変更し、日本国有鉄道清算事業団となった。国鉄の分割民営化によって確定した債務は約37兆円。ここからJR本州3社の引受け分、新幹線保有機構(後に解散)の引受け分を差し引き、国鉄清算事業団は約25.5兆円を継承した。

国鉄清算事業団は営利事業を実施せず、ひたすら債務を減らすための組織となった。その役割のひとつが国鉄の遊休地の売却だった。貨物列車が専用貨車からコンテナに移行したため、貨車を仕分ける操車場の土地が余っていた。鉄道貨物自体も減っており、都市部の駅などで使われていない線路もあった。人員削減によって社宅も不要になった。

国鉄清算事業団は遊休地を好条件で売却し、債務返済に充てるつもりだった。計画では、10年間で終了し、7兆7000億円を換金する予定とされていた。しかし売却は難航した。当時はバブル景気で土地が値上がりしており、実際の2倍の価値があったとの説もある。それを売れば大幅に債務を減らせたが、結果的に30年かかり、売却益は現時点で7兆3885億円だという。ほぼ見込み通りとはいえ、もったいない事態になってしまった。

売却に時間がかかった理由のひとつに、国が「全国的な地価高騰に拍車がかかる」と売却を制限したことも挙げられる。バブル経済がはじけると景気は低迷し、こんどは土地が売れなくなった。有望な土地は当初の予定より安く売らざるをえず、売れ残りも多数。そのため利子がかさみ、発足から約10年で長期債務は逆に増えて約28兆円になった。

1998年に国鉄清算事業団は解散し、債務の処理は鉄道建設公団が引き継いだ。国は約24兆円を一般会計に組み込み、郵便貯金の利益、タバコ特別税、国債で処理した。鉄道建設公団は約4兆円を引き受け、土地の処分にあたった。2003年に鉄道建設公団は鉄道・運輸機構に組み込まれ、今日に至る。

さて、売却された土地はいま、どうなっているだろう。

売却された国鉄用地の中で、よく知られている場所のひとつが汐留貨物駅跡地だ。現在は汐留シオサイトとして高層ビル群が並ぶ。電通、日本テレビ、ソフトバンク、全日空、富士通などの本社や高層ホテルがある。新宿高島屋があるタカシマヤタイムズスクエアも新宿貨物駅跡地に建てられた。その他、さいたま新都心や横浜みなとみらい地区の一部、名古屋駅南側のささしまライブ24地区も元貨物駅だった。

国鉄の駅付近にあった土地の多くは地元自治体に売り渡され、再開発用地となった。民間の買い手がつかなかったり、先に再開発の要望が伝えられたりしたためだという。実際には競売にかけられ、民間に高く売られた土地は少なかった。また、大型旅客駅付近のめぼしい土地はJRが保有したままという事例もあった。

最後まで残り、今年度中に売却される土地は2カ所。ひとつは大阪駅北側の梅田貨物駅跡地だ。ここは貨物駅機能の移転問題が長らく解決しなかった。2006年に吹田への移転が決定し、現在は再開発計画が進む。JR西日本の北梅田駅(仮称)になにわ筋線が接続する予定と報じられたことで話題となっている。

(写真左から)2007年の梅田貨物駅2015年のあすと長町地区(出典 : 国土地理院ウェブサイトよりキリヌキ。右写真は加工あり)

もうひとつは仙台市の長町にある。長町副都心として再開発が行われている場所の一角で、周辺のあすと長町地区は旧貨物駅と機関区があったところ。東北本線太子堂~長町間のちょうど真ん中にあたる部分が売れ残っていた。

鉄道・運輸機構の公式サイトによれば、他に13カ所のトンネルを譲渡可能だという。湿度が高く温度が安定しているため、「ワイン貯蔵庫」「きのこ栽培」「味噌・酒・醤油の貯蔵や熟成」などに使えるらしい。トンネルは開発のしようがないため、これは"用地"として数えていないようだ。

トンネルはそのまま鉄道遺構だし、旧国鉄用地も新橋停車場や横浜みなとみらい地区の汽車道のように、鉄道時代を記念する建物やオブジェに生まれ変わる場合がある。国鉄用地に建ったビルは線路際だから、トレインビュースポットになっている可能性もある。訪ねてみると、なにか発見があるかもしれない。