2006年に廃止された神岡鉄道神岡線で、気動車「おくひだ1号」が1日だけ復活する。「ロストラインフェスティバル in 神岡 実行委員会」が25日にウェブサイトを公開し、告知した。運行日は4月8日。約10年間の眠りから目覚め、エンジンをうならせる。体験乗車も可能だ。毎日新聞と岐阜新聞も詳しく報じた。

現役時代の神岡鉄道「おくひだ1号」(2005年、奥飛騨温泉口駅にて)

神岡鉄道神岡線は猪谷駅(富山県)と奥飛騨温泉口駅(岐阜県)を結ぶ19.9kmの非電化単線だった。旧国鉄神岡線を継承した第三セクター鉄道路線である。神岡線は神岡鉱山で採掘された亜鉛鉱石の輸送を目的として建設され、1966年に開業した。しかし国鉄の赤字問題を解消するため、1981年に第1次特定地方交通線として廃止リストに載り、1984年に国鉄路線としては廃止。第三セクター鉄道として神岡鉄道が発足した。

国鉄の赤字路線を継承する第三セクター鉄道の多くは自治体の出資比率が高い。しかし、神岡鉄道の場合は神岡鉱山の親会社である三井金属工業が株式の過半数を取得した。産出物の輸送手段として鉄道が必要だったからだ。ところが、神岡鉱山からの輸送がトラックに切り替えられ、2004年に貨物列車は廃止された。さらに旅客人員も低迷しているなどの理由で三井金属工業の撤退が決定。2006年に全線が廃止となった。

その後、神岡線の廃線跡は、地元有志が観光利用のためのレールマウンテンバイク「ガッタンゴー」を提案し、2007年から飛騨市、飛騨市観光協会の協力で運行を開始する。この試みが人気を呼び、年間で4万人以上の利用があるという。その功績が称えられ、2012年に鉄道の日実行委員会から日本鉄道賞特別賞が贈られている。旧神岡線は廃線跡観光の成功例であり、「おくひだ1号」の復活は、さらに鉄道らしい観光資源へ昇華するための大きな一歩になる。

「おくひだ1号」の車内には囲炉裏風の座席もあった

「おくひだ1号」は形式名をKM-100形という。1984年の神岡鉄道発足時に導入された気動車2両のうちの1両だ。一般公募により「おくひだ1号」と名づけられた。長さ18mで、車内には囲炉裏コーナーを備えたユニークな車両だった。廃線後は屋根のある神岡鉱山前駅検修庫に保管されており、状態は良かったようだ。エンジンはすぐに起動。ただし走行部はさび付き、電装部品の不具合によって走行はできなかった。北陸の熟練鉄道整備士たちと地元の自動車整備工が原因を解明し、レストア部品の調達で動かした。その様子は公式サイトの動画で紹介されている。約3分半のドキュメンタリーは感動的だ。

4月8日は「おくひだ1号」が保管されている旧神岡鉱山前駅検修庫からホームに移動して出発式を開催。その後、かつて終点だった奥飛騨温泉口駅へ向けて自走する。途中の旧神岡大橋駅からは廃線後に生まれた地元の小学4年生が体験乗車する。奥飛騨温泉口駅で帰還式を行った後、一般向け乗車会を開催する。乗車区間は旧奥飛騨温泉口駅から旧神岡大橋駅までの約0.7kmを1往復。合計5往復のうち、4往復は事前申込み制、1往復は当日の先着順となる。イベント終了は15時を予定している。イベントの司会役として、鉄道の旅が好きというタレントの斉藤雪乃さんが駆けつける。

さらに当日16時から「日本ロストライン協議会」の設立総会と基調講演会が行われる。日本ロストライン協議会は全国で廃線の遺構や資産を保存し、観光などに活用する事業者、団体で結成する組織だ。公式サイトによると、「各地域の取り組みを尊重し相互理解を深める」「ロスト・ライン・ツーリズムの本質が理解できる旅人を育てるネットワークを築く」「廃線を控えた地域での保存活動や利活用事業へのアドバイザーとしての役割を担うため、各事業者の発足時の経験や経過を発信する」などの活動を行う。

会場は飛騨市神岡町の「平成の芝居小屋 船津座」。現在の参加予定事業者は地元の「NPO法人神岡・町づくりネットワーク」のほか、「NPO法人大館・小坂鉄道レールバイク」「高千穂あまてらす鉄道株式会社」が決まっている。毎日新聞の報道によると、さらに全国80地域に呼びかけているという。

廃線、車両保存などに関わる地域が80にも及ぶことに驚く。しかし、いままで孤軍奮闘していたはずの人々が全国レベルで連携し、より高みをめざすという行動は心強い。鉄道の日関連のイベントでは、現役の私鉄、第三セクター鉄道会社同士がグッズ販売などで連携している。日本ロストライン協議会も、保守部品を融通したり、グッズの仕入れを共同で行ってコストダウンを計るなど、メリットは多そうだ。

廃線訪問で最も困ることのひとつは交通手段だ。なにしろ鉄道がなくなってしまったから、遺構が現役の駅から遠い。所在地や保存対象の情報も分散しており、近くにもうひとつあったのに見過ごしてしまう場合もありそうだ。日本ロストライン協議会には、保存活動の事業者だけでなく、鉄道ファンや観光客にとっても、鉄道遺構、産業遺産観光への道しるべとして期待したい。