先週は古い鉄道車両や施設を保存し、観光に活かそうという動きが2つ。日本では紀州鉄道の旧型気動車「キハ603」を地元商店街の活性化に役立てようという動きが始まった。台湾では旧車両工場を鉄道博物館にする動きがあり、東日本鉄道文化財団の鉄道博物館が協力することになったという。

紀州鉄道キハ603、地元商店街に展示施設建設へ

和歌山県中部の地元紙、日高新報は15日、「紀州鉄道OB車輌を商店街に移転へ」と題した記事を掲載した。鉄道ファンに人気のレトロな気動車「キハ603」を商店街に移動し、店舗やイベントに活用する。早ければ今年中にオープンしたいという。

現役時代のキハ603(2004年、西御坊駅にて)

紀州鉄道は和歌山県御坊市のローカル私鉄だ。JR紀勢本線の御坊駅を起点とし、西御坊駅まで2.7kmを運行する。会社名に「紀州」とあるため、紀伊半島に路線網を持つ私鉄と思われそうだけど、実態は1両の気動車が1時間あたり1~2往復。ケーブルカーを除くと日本で2番目に路線距離が短い鉄道会社だ。受験シーズンは「学門」駅の入場券が話題になる。

この小さな私鉄が今日まで運行を続けている理由は、親会社が不動産業だから。紀州鉄道はもともと御坊臨港鉄道という会社名だった。1972年に東京の不動産会社が御坊臨港鉄道を買収し、親会社ともども紀州鉄道に社名変更した。理由は「鉄道会社の名前を冠したほうがビジネス上で信用を得られるから」といわれている。

戦後の高度成長期からオイルショックの頃まで、関東・関西の大手私鉄は不動産・リゾート・流通業へと多角経営を展開していた。地域に密着した鉄道会社のブランドを活用していたわけで、紀州鉄道もそれにならったといえる。

キハ603は1960年製の気動車だ。大分交通で活躍した後、1975年から2009年まで約35年間にわたって紀州鉄道で活躍した。前面2枚窓で塗装は金太郎塗り。その古めかしさから鉄道ファンに人気だった。紀州鉄道としても観光価値を認めていたようで、定期運行終了後も紀伊御坊駅で動態保存されている。塗装や前面の復元も行われたようだ。

しかし日高新報の記事によると、キハ603は廃棄される予定になっていたという。そこで地元の「御坊市本町商店街振興組合」が、キハ603を商店街に移動し、グッズ販売やイベント開催による商店街の活性化を検討した。国からの調査費補助を受けて住民や観光客にアンケートを実施し、具体的な活性化プランを作る。移転や改装などの費用は約1,200万円。4月に国の補助金を申請し、6月頃から候補地の整備を始めるという。

近年は鉄道車両の保存にクラウドファウンディングを活用する事例も多い。北海道の秘境駅で知られる小幌駅は、地元の豊浦町がふるさと納税制度を利用して維持費を募っている。鉄道ファンのためにレトロ車両を残すなら、全国の鉄道ファンに支援を求める方法もある。資金を得るだけではなく、参加意識を刺激して集客できる。もし国の支援が得られなかったとしても、いろいろな手段を講じて、ぜひ実現してほしい。

台湾の鉄道博物館に日本の「てっぱく」が協力

台湾では鉄道車両工場跡地に大規模な鉄道博物館の建設計画がある。その計画に日本の「てっぱく」(鉄道博物館・さいたま市)が協力するようだ。読売新聞が1月11日に報じた。

台湾の鉄道博物館予定地は、台北駅と松山駅の間にある車両工場「台北機廠」の跡地。日本統治時代の1935年に完成し、2012年7月まで使われていた。おもな機能は2011年から桃園県の富岡基地に移転し、その後は台湾鉄道電化時の電車EMU100や往年の機関車などが保存されている。ときどき公開イベントも行われていたようだ。

車両基地、工場としての役割が終わった台北機廠は一部を除いて再開発される予定だった。GoogleMapで見ると、松山空港から直線距離で約2km、徒歩約35分、クルマで約15分、地下鉄利用で約20分という好立地。台湾貿易センターよりも近い。立地だけ見ると、展示会場やホテル、高層マンションやオフィス街にしたくなる。

しかし、市民からは台北機廠が台北の交通だけでなく、産業・文化などの発展に寄与した施設として保存を求める声が多かった。そこで文化部文化資産局は台北機廠の全区画を国定古跡に登録することを決定した。さいたま市の鉄道博物館の協力は、展示や運営の方法のほか、同館に所蔵する台湾関係の展示物の提供も含まれている。

台北機廠の敷地は約18.9ヘクタール。このうち鉄道博物館予定地は約15.6ヘクタール。敷地面積を比較すると、さいたま市の鉄道博物館(約4.16ヘクタール)の3倍以上になる。車両展示の他に研究施設、ショップ、レストランも併設するという。これだけの広さがあれば、保存運転用の周回線路も敷けそうだし、見学も1日では足りないだろうからホテルも欲しい。開業時期は明らかになっていないけれど、どんな形になるか楽しみだ。

なお、台湾の鉄道観光施設としては、高雄市に哈瑪星(ハマシン)台湾鉄道館がある。2016年6月30日に開館した。アジア最大の鉄道模型ジオラマを展示しているそうだ。台北の鉄道博物館が開業するまではこちらがおすすめ。台北と高雄は台湾高速鉄道で約1時間半だから、将来は合わせて楽しみたい。