1月4日、徳島県知事が年頭の記者会見でDMV(デュアル・モード・ビークル)の実用化を語った。NHKと徳島新聞ウェブサイトが同日に速報、日本経済新聞と毎日新聞なども翌日の地方版に載せた。今年度中に車両の規格などを詰め、来年度予算に車両制作費を計上したい考えだ。計画によると、阿佐海岸鉄道阿佐東線全体がDMV専用となり、道路区間の終点は室戸岬にしたいという。調べてみると、かなり大胆な路線改良計画だ。

阿佐海岸鉄道(赤)とDMV運行予定路線

DMV(デュアル・モード・ビークル)は、JR北海道が開発した「鉄道と道路の両方を走行できる車両」だ。鉄道を走る車輪と、道路を走るタイヤの両方を装備する。すでに保線作業用には「軌陸車」といって、車輪とタイヤを切り替えて走るトラックなどがある。幼稚園の送迎バスにヒントを得て、軌陸車の足回りに小さなバス車体を載せようというアイデアがDMVだった。

JR北海道としては、次のようなメリットを期待した。閑散区間では鉄道車両よりも小型の車両を使ったほうが運行費用を安くできる。バスで集客し、鉄道区間で高速かつ定時運転を実施できる。鉄道モードの定時制と安全性を生かし、弱点だった住宅地や目的施設への巡回の役割をバスモードで補う。閑散区間の線路を活用しつつ、多様なルートを展開できる。いわばバスと鉄道の相互直通運転だ。

JR北海道は2004年に試作車を完成させ、日高本線で試験走行を実施した。2005年には連結タイプの新型試作車で、石北本線で試験を行った。2007年には釧網本線で社会実験的な営業運転も実施している。その後、苗穂工場の公開イベントなどで体験走行も実施していた。しかしJR北海道の事故・不祥事の影響で、安全対策を最優先するため、DMVなど新技術の開発はすべて停止となった。

DMVについては国土交通省で引き続き実用化に向けた調査検討が続いていた。DMVに期待し、実用化を希望、検討する自治体が多かったためだ。岳南鉄道、南阿蘇鉄道、明知鉄道、天竜浜名湖鉄道、阿佐海岸鉄道で試験走行が行われた。このうち、阿佐海岸鉄道を持つ徳島県がDMVに熱心で、2011年からJR牟岐線と阿佐東線で実証実験を開始した。2012年には一般客もモニターとして乗車できた。

これらの検証を踏まえて、国土交通省は2015年に「DMV技術評価委員会の中間とりまとめ」を作成した。技術的には問題なし。ただし、現状での運用の前提条件として、「鉄道区間はDMV車両専用とする」「連結せず、単車で運行する」が付け加えられた。その4年後、2016年2月に徳島県は「今後10年以内に営業運行実現させる方針」を発表。そして2017年1月、徳島県知事の記者会見によって、実用化の方針が明示された。

筆者は阿佐海岸鉄道のDMV導入には懐疑的だった。実証実験の鉄道区間はJR牟岐線の牟岐駅から阿佐東線宍喰駅までだった。阿佐海岸鉄道阿佐東線は海部~甲浦間を結ぶ8.5kmの短い路線だ。そのうちDMVは海部~宍喰間の6.1kmのみだった。終点の甲浦駅まで達しない。それで阿佐東線の活性化になるだろうか。

もちろん実現すれば乗ってみたい。でも、その前にやるべき施策はあるはず。たとえば甲浦駅の改良だ。プラットホームが高架上にあり、道路との高低差が大きい。地上駅舎とホームは長い階段しかない。お年寄りにはつらい。乳幼児を連れた家族にも辛い。荷物の多い帰省客だって敬遠する。観光客向けにDMVを導入する前に、甲浦駅にエレベーターを設置するなど、沿線の利用者に使いやすくする施策が先だ。

しかし、今回の報道をきっかけに徳島県のDMV計画を見直すと、実証実験よりも踏み込んだ良案になっていた。2016年5月26日に開催された「第1回 阿佐東線DMV導入協議会」の資料によると、筆者が懸念していた甲浦駅は、現在の線路終端部にモードチェンジ施設を作り、その先に道路を延伸して地上まで坂道を新設する。乗降場所は高架ホームのままだけど、地上部でも乗降可能にすれば現在の不便は解消される。

鉄道モードの運行区間はJR牟岐線の阿波海南駅から阿佐東線の甲浦駅までとする。前提条件を遵守するため、この区間はDMV専用路線に転換される。現在のJR四国と阿佐海岸鉄道の境界は海部駅だけど、DMV化によって阿波海南駅が新たな境界駅となり、JR牟岐線のレールも分離される。DMV専用路線は踏切がなく、従来の鉄道車両も走らないため、信号機も撤去してスタフ閉塞に切り替える。

道路モードの運行区間は甲浦駅から室戸岬まで。2012年のデモ走行では、他に「海の駅 東洋町」や「海中観光船ブルーマリン発着場」を結ぶルートもあった。どれも観光に重要な施設だ。室戸岬は高知県だから、高知県とも調整が必要になる。徳島県にDMVを紹介したJR四国とJR北海道の関係者は元国鉄マンで、阿佐東線の元々の計画が室戸岬であり、そこまで延伸できなかったと残念に思っていたという。その思いもDMVに託されている。

まとめると、徳島県のDMV計画は「阿佐海南駅~海部駅を阿佐海岸鉄道へ移管し、同社の阿佐東線をDMV専用線に転換、重要な観光施設として再定義する」となる。阿佐東線は1992年の開業以来、乗客は減少し続けていた。しかしDMVの実証実験以降は前年比増に転じている。観光客の増加をきっかけに、企画列車の運行に力を入れてきた。地元の定期客を当てにせず、観光客向けと割り切った。これも「DMV観光線」にしたい理由だろうか。

徳島県知事の会見によると、自動車・鉄道車両関連メーカーが車両の仕様と製作の調整に取りかかっており、現在は製造のめどが付いているという。次の段階として、実際に車両製作へ移行するため、工程について詰めている。その調整が終わり次第、1月末から2月初頭に「第2回 阿佐東線DMV導入協議会」を開催して、正式に実現の日程を定め、来年度の予算に車両製造費を盛り込む方針とのことだ。

運行開始日の目標は「5年以内」とのこと。「乗り鉄」の中には、阿佐東線と土佐くろしお鉄道ごめん・なはり線を乗り継ぐため、室戸岬経由のバスに乗った人もいるだろう。その乗継ぎ旅の半分がDMV体験にかわる。これは楽しくなりそうだ。開発元でありながら実現できなかったJR北海道の無念を晴らすためにも、実現してほしい計画だ。