先週はJR北海道が自社で維持困難な路線を発表し、それが全路線の半分に及ぶとして鉄道ファンや沿線の人々に衝撃を与えた。一方、JR東海は政府の支援を受け入れる形で中央新幹線の建設費用3兆円の融資を申請した。その3兆円があればJR北海道を救えるかもしれないけれど、投資と支援は意味合いが違う。

JR北海道については当連載で書き尽くした感もあるし、中央新幹線はどちらかというと政治の話題だ。鉄道趣味的に興味深い話として、今回はひたちなか海浜鉄道の話題を選んだ。ひたちなか海浜鉄道も本誌連載などで何度も紹介した。延伸計画や新駅設置、駅猫おさむ、鉄道演劇など話題を提供しているけれど、今回の主役は沿線の商店街の話である。

「御神体」となるキハ222(写真手前)。極寒冷地仕様の旋回窓が特徴

東京新聞茨城版が11月18日に報じた記事によると、現役を退いたディーゼルカーを「神様」と見立て、神社を作るというユニークな計画がある。御神体はひたちなか海浜鉄道のキハ222だ。長年の活躍を称え、「長寿」と「安全」の御利益を期待するという。

湊線那珂湊駅付近の空地にキハ222を安置し、屋根も付けて神社に見立てる。そこに通じる本町通り商店街を参道として活性化しようというプランだ。ただ安置するだけの車両保存に一石を投じる試みとしても注目すべき案件だ。キハ222の移送と屋根などの設置費用は最大で2,000万円を見込み、クラウドファンディングで資金を集めるとのこと。

「御神体」に昇華されるキハ222は、国鉄のローカル線向け気動車キハ22形の同型車だ。キハ22形は国鉄が非電化路線の普通列車向けに開発したキハ20形の北海道仕様である。キハ20形の派生車種はいくつもあり、千葉県のいすみ鉄道で現役のキハ52形はキハ20形の勾配区間仕様だ。どれも国鉄時代にローカル線を乗り歩いた人々にとって懐かしい姿だ。

キハ222は1962年に富士重工によって製造され、北海道の羽幌炭礦鉄道で活躍した。しかし、1970年に羽幌炭鉱が経営破綻すると、鉄道も廃止されてしまう。そこで保有車両のうち、キハ221・キハ222・キハ223が茨城交通(ひたちなか海浜鉄道の前身)に譲渡された。キハ221は1998年に廃車となり、2009年まで阿字ケ浦駅に留置されていた。キハ223は2009年に廃車となり、鉄道ファンの個人に引き取られた。

最後に残ったキハ222は2015年に営業運転を終了したという。故障で休んでいた時期もあるとはいえ、53年間も現役だった。これは鉄道車両として長寿の部類。大事故で壊れることもなかった。そう聞けば、たしかに「長寿」「安全」の御神体にふさわしい。

経営破綻した会社から転身したという経緯も考えれば、転職の神様であろう。茨城交通の経営危機、ひたちなか海浜鉄道の再生を経験して天寿を全うした。過酷な状況でも地道に生き残ったという意味で、立身出世より現実的な神様でもある。

目論見通りに商店街が賑わえば、金運という御利益もついてくる。「鰯の頭も信心から」という言葉があるように、信じることが大切だ。

それにしても、ひたちなか海浜鉄道はつくづく幸せな鉄道会社だと思う。公募社長の手腕もさることながら、自治体首長の支援があり、応援団がある。"キハ神社"のように、鉄道のまわりで、鉄道を盛り上げるアイデアが沸き出している。

沿線の人々も鉄道を気にかけている。ひたちなか海浜鉄道に乗って那珂湊駅で降りて、のんびり町を歩く。傍らの商店に入れば「鉄道のお客さんかい」と話しかけてくれる。ひたちなか海浜鉄道の旅そのものが幸せな気分にしてくれる。その幸せな空気の象徴として、"キハ神社"の誕生は自然な流れかもしれない。