先週は夏休みだったから、今回は8月1~14日の2週間のニュースからピックアップ。新しい東京都知事が決定、ゴジラは東京を破壊、天皇陛下が「お気持ち」を表明、SMAP解散の発表など、大きなニュースが多かった。その中で鉄道絡みといえばゴジラだ(笑)。映画『シン・ゴジラ』のエンドロールに鉄道博物館があった。「あの駅」に関する監修などだろう。

鉄道博物館といえば、現在の鉄道模型ジオラマが改修のため、9月4日で公開終了となる。どうせ壊すなら、最終日にゴジラを登場させて踏んでもらうスペシャルプログラムを提案したい。

『シン・ゴジラ』については、いろいろと語りたい鉄道ファンも多いだろう。筆者もそうだ。しかし、ネタバレになってしまうし、映画そのものは面白いから、野暮なことは言わず楽しむが吉。そこで今回は、小池百合子新都知事への期待を示したい。

JR東日本のオール2階建て車両215系。「湘南ライナー」「おはようライナー新宿」をはじめ、中央本線の「ホリデー快速ビューやまなし号」にも使用される

東京都知事選挙で鉄道に関する政策に言及した候補は小池百合子氏と谷山雄二朗氏。小池氏は「満員電車ゼロ」を掲げ、谷山氏は表参道~銀座~日本橋のトラム(路面電車)復活などを掲げた。有力候補の小池氏の「満員電車ゼロ」は、他の政策ほど目立たなかったけれど、鉄道ファンや通勤地獄に悩む人々から注目された。とくに「2階建て通勤電車案」は、2階建て車両215系を想起した人々から失笑された。それは誤解で、実際には現在の車両限界のまま、列車もプラットホームも総2階建てにするという斬新なプランだ。しかし駅の大幅な改良を必要とするため、実現には時間がかかる。

ただし、都民の側からみて、東京都の鉄道政策への期待は本当に「満員電車ゼロ」だろうか。満員電車の解消はありがたいけれど、それが東京都の政策かというと疑問だ。なぜなら、満員電車に参加する乗客の多くは都民ではないからだ。筆者が通勤を経験した東海道線、横須賀線、京浜東北線、京急線、東急東横線・目黒線・田園都市線、小田急線についていえば、多摩川を渡る前から満員だ。つまり「満員電車ゼロ」で喜ぶ人々は神奈川県以西にお住まいの人々である。

東京の東側、北側も同様だろう。彼ら「都民ではない人々」の苦痛を和らげる政策は東京都が都民の税金で担うべきだろうか。もちろん、東京に入る前から満員になった電車に乗る都民も苦痛だろう。そこで検討すべきは、京浜東北線の蒲田駅のように「都内で折返し可能な駅の整備を推進する」ではないか。

東京都が率先して取り組むべき鉄道政策とは

いつになるかわからない満員電車施策より、東京都には懸案の課題がある。たとえば「都営地下鉄と東京メトロの経営一元化」「京葉線とりんかい線の相互乗入れ」「事故多発踏切の解消」だ。

九段下駅の都営新宿線ホームと半蔵門線ホームを隔てていた壁が撤去されるなど、東京都交通局・東京メトロのサービス一体化に向けた取組みも進められていた(写真は2013年3月撮影)

「都営地下鉄と東京メトロの経営一元化」については、石原元知事が「東京メトロとの統合、一元化」を提唱し、後任の猪瀬元知事が推進した。東京の地下鉄網は世界一の規模でありながら、経営が分化され、運賃や旅客案内の上で不便だ。国土交通省主導で「東京の地下鉄の一元化等に関する協議会」も開催された。しかし東京オリンピック・パラリンピック開催が決まると、オリンピックに向けた「サービスの一元化」へと後退している。

国土交通省の協議会も、当初は東京メトロの社長と猪瀬副知事(当時)が出席していた。しかし、「サービスの一元化」の協議会は2人とも出席せず、代理人を立てている。舛添前知事もオリンピック優先で、地下鉄問題は棚上げしていた。経営の一元化に向けた取組みが必要ではないか。乗り換えても運賃が上がらないようにと割引制度を作ったところで、運賃体系が複雑になるだけだ。

「京葉線とりんかい線の相互乗入れ」については、今年度の交通政策審議会答申(諮問第198号)の第2項で「直通運転を行う」と記されている。りんかい線は現在、新木場駅で折り返しており、JR京葉線や東京メトロ有楽町線と乗り換えるために、いったん改札口を出る必要がある。しかし、りんかい線はもともと国鉄の貨物線として計画・建設され、京葉線と線路がつながっている。

千葉県の森田健作知事は直通運転を強く望み、9月に国とJR東日本に対して要望を伝える意向という。ただ、小池都知事との協議はまだ決まっていないようだ。いままで舛添前知事に伝えてきた要望活動をイチからやり直すことになった。千葉市内の京葉線沿線にある幕張メッセは、東京オリンピックでレスリング、テコンドー、フェンシングの会場となっている。森田知事としては、オリンピックを好機として、りんかい線・京葉線直通のメリットを伝えたいわけだ。

直通運転の障害は、りんかい線を挟んだJR東日本相互の駅間で乗客のルートが判別できず精算できないからといわれている。りんかい線を運行する東京臨海高速鉄道は東京都が9割以上を出資する第三セクターだ。つまり、東京都の意向が鍵となっている。

「事故多発踏切の解消」については、今年4月から「踏切道改良促進法等の一部を改正する法律」が施行された。危険な踏切や渋滞の原因となる「開かずの踏切」について、国土交通大臣が指定し、関係者に対応を促すしくみになった。しかし、国土交通大臣の指定踏切は自動車交通の遮断を重視しており、人身事故発生頻度の高い踏切は少ない。たとえば大田区、北区、荒川区、足立区でJR東日本の各路線と交差する踏切は未指定だ。これらは国の指定を待たずに、東京都が主導して早急に対応してほしい。

都知事は多数の案件をかかえており、鉄道問題ばかり優先できない。しかし、しかるべきときに、しかるべきヒト・モノ・カネを動かす役割である。リーダーシップを発揮して、タイミングを見極めて関係各方面に号令をかけていただきたい。