7月29日、JR北海道は「『持続可能な交通体系のあり方』について」という文書を自社サイトで公開した。安全な鉄道網を維持するにあたり、「自社で維持可能な路線」と「自社で維持できない路線」を秋までに公表する。前者は運賃値上げなどを含む経営効率改善、後者は上下分離やバス転換を視野に入れて沿線自治体と協議したいという。

つまり、JR北海道として「残す鉄道路線」と「手放す鉄道路線」を分類する。その線引きに使われる数値が「輸送密度」だ。輸送密度は国土交通省のウェブサイトで公開されている。今回は、最新データの平成25年度(2013年度)の輸送密度の数値データを参照しつつ、秋に公表される路線を予測してみよう。

輸送密度は鉄道事業者の会社ごと、さらに路線ごとに公表されている。JRグループの場合も各社ごとに分類され、さらに路線ごとのデータもある。これらをまとめて、JRグループの全旅客路線を輸送密度(平均通過数量)順に並べ替えてみた。下位に注目すると、JR北海道以外にも、もっと深刻な数字になっている路線がたくさんある。赤字路線廃止はJR北海道だけの問題ではなかった。

データを上位、つまり成績優秀な路線から見ていこう。まずは輸送密度3万人以上の路線たちだ。

輸送密度3万人以上の路線、左端の数字は低いほうから数えた順位

トップは山手線だった。JRグループで最も輸送密度の高い路線で、1日に1kmあたり108万人が乗っている。2位は赤羽線の73万人。赤羽線というより埼京線池袋~赤羽間と言ったほうがわかりやすいかもしれない。このデータは国土交通省に届け出た路線名、つまり線路の戸籍にもとづいている。埼京線は運行系統の名前であり、実際の路線名は山手線(大崎~池袋間)と赤羽線となる。埼京線の大崎~池袋間は山手線として計上される。

その山手線のデータも品川~新宿~田端間だ。田端~東京間は東北本線、東京~品川間は東海道線に計上される。京浜東北線や湘南新宿ラインとしては計上されない。上野東京ラインは2015年に成立したけれど、これも今後は計上されないだろう。横須賀線も大船~久里浜間となっている。東京~大船間は東海道線に計上される。

順位に話を戻そう。JR東日本の首都圏の路線がずらりと並ぶ。次に多い会社はJR西日本で、こちらも近畿圏の通勤通学需要の大きさを物語る。上から数えて6番目にJR東海の東海道新幹線があり、通勤路線と互角の輸送密度となっている。JR東海がいかに新幹線を頼りにしているかよくわかる。東海道線はJR東日本、JR東海、JR西日本の管轄すべてが3万人以上の枠内だ。三大都市圏の動脈となっている。

JR九州は鹿児島本線が上位に入った。福岡・小倉・熊本・鹿児島都市圏の通勤需要と、博多発長崎方面・日豊線方面の在来線特急が支えている。JR北海道は唯一、千歳線が好成績。札幌~新千歳空港間のエアポートアクセスが大きい。札幌都市圏の通勤需要も大きいはずだけど、路線単位で見ているため、距離の長い函館本線は閑散区間に足を引っ張られた格好となった。

次は輸送密度3万人以下、1万人以上の路線たちだ。

輸送密度1万人以上の路線

こちらも首都圏と近畿圏の近郊路線が強い。また、名古屋・福岡・広島・岡山など政令指定都市圏の手堅い需要が反映されている。北陸新幹線開業前のデータだから、北陸線は全線が集計対象で、北陸新幹線は長野駅までとなっている。本四備讃線はJR西日本、JR四国の両区間ともほぼ同じ数。本州と四国を結ぶ路線だから、全区間通しで乗る人が多い。JR西日本側が少し多い理由は、岡山都市圏の通勤通学需要かもしれない。

この表にある「延日キロ」「旅客人キロ」「平均通過数量」の意味を説明しよう。「延日キロ」は、路線の営業キロと営業日数を掛けた数値だ。たとえば、10kmの路線を365日営業すると、延日キロは3,650kmになる。つまり、この表のほとんどの路線の延日キロを365で割ると営業キロになる。なぜこの数字が必要かというと、年度の途中で延伸したり、一部区間が廃止になったりした場合、他の路線の乗客総数と同列に比較できないからだ。ちなみに日数のカウントは路線の廃止と新設・延伸だけで、災害などの運休日数は反映されない。乗客ゼロで営業したとみなされる。

「旅客人キロ」は、乗客が乗った距離の総計だ。たとえば、10kmの路線のうち、6kmの区間を100人が乗車し、4kmの区間を50人が乗ったとすると、10×6で600人、4×50で200人、合わせて800人が1日の旅客人キロ。これを毎日合算した365日分が表の数字になる。距離の長い路線で、乗車率が高いほど大きな数字になる。

「平均通過数量」は、「旅客人キロ」を「延日キロ」で割った数字。365日分の1kmあたりの乗客数を365日分の営業距離で割るから、「1日における1kmあたりの乗客数の平均値」になる。これが輸送密度として扱われる。

続いて、輸送密度1万人以下、4,000人以上の路線たちだ。輸送密度4,000人は特別な意味を持つ。国鉄末期、赤字ローカル線をバス転換する基準となった数字が輸送密度4,000人だった。逆に考えれば、鉄道として存続すべき価値の基準でもある。つまり、以下の表は国鉄基準だったらセーフ。

輸送密度4,000人以上の路線

JR東日本とJR西日本の堅調な路線が並ぶ。JR東海は在来線自体が少ないけれど、ここでようやく成績優秀路線が顔を出した。JR四国の稼ぎ頭の土讃線、高徳線もこのレベル。心許ない印象だ。JR北海道は通勤路線の札沼線と、札幌~函館~青森間を結ぶルートが入っている。北海道新幹線開業前のデータだから、札幌~青森間の鉄道の重要性がわかる。当落上にある海峡線は現在、北海道新幹線と団体旅行扱いの「カシオペア」が走る。

輸送密度2,000人以上の路線

輸送密度4,000人以下、2,000人以上。当落上ではギリギリのライン。国鉄時代は代行バスの道路が未整備な場合のみ、鉄道として存続できたレベル。本来なら廃止対象だった。JR西日本のローカル線と、JR四国の主要路線がここで同じレベル。JR四国の厳しさが浮かび上がる。JR北海道は石勝線がここに入った。札幌~帯広・釧路間を結ぶ特急列車が頻繁に走っているけれど、ローカル輸送が小さいと予想できる。江差線はその後、木古内~江差間は廃止。五稜郭~木古内間は北海道新幹線の並行在来線として切り離された。

JR九州では指宿枕崎線と豊肥本線が、唐津線や久大本線より上位にある。指宿枕崎線は鹿児島市内、豊肥本線は熊本市内への通勤通学需要があり、観光列車も人気。唐津線や久大本線も観光列車でテコ入れしたいかもしれない。

輸送密度1,000人以上の路線

輸送密度2,000人以下、1,000人以上の路線たち。経営側としてはこのあたりから廃止したくなってくるだろう。国鉄時代は輸送密度2,000人以下の行き止まり線が第1次廃止対象となった。行き止まり線以外の路線も、輸送密度2,000人以下は第2次廃止対象となった。国鉄時代の基準で考えると、いつ廃止論議が始まってもおかしくないレベル。

しかし、各路線を見ると、通勤通学で重要度の高い路線もある。JR東日本の路線が多く、経営に余裕のある会社だから残されているとも思える。石巻線・八戸線は東日本大震災で被災した地域だから低いともいえる。JR西日本の路線は、JR西日本の体力を考えると維持が厳しい。北海道の主要路線やJR四国、JR九州の路線も目立っており、経営の厳しさが浮かび上がる。いずれにしても、どれも江差線より輸送密度が低いという事実。山口線、富良野線のように、観光列車の導入などでテコ入れが必要か。

輸送密度1,000人以下の路線

最後はワースト記録の路線群だ。実際に廃止検討が起きた路線がある。最下位の岩泉線は、当時は土砂災害後代行バスで運行中だった。この年度限りで復旧を断念し廃止。正式にバス転換された。2位の三江線はJR西日本が廃止の方針を表明している。地元自治体は鉄道存続の道を探っているけれども、実情は厳しそうだ。JR東日本の気仙沼線と大船渡線はBRT転換部分も含む。BRTで便利になったはずだけど、輸送密度は低いままだ。

4位の大糸線はJR西日本部分の輸送密度が低い。ただし、糸魚川駅に北陸新幹線が停まるため、現在は様子見といったところ。5位の留萌線は末端区間の廃止が決定。6位の木次線は今年で開業100周年。危機感が薄いけれども、100周年と絡めた活性化の取組みが始まっている。7位の名松線は台風被害で一部区間がバス代行となっていた頃だ。今年春に全線復旧したけれど、ご覧の通り、JR東海の中では格段に輸送密度が低かった。廃止したくなる気持ちも理解できる。

予土線のように観光列車でテコ入れする路線もあるとはいえ、この表の路線たちはJR北海道が廃止したい路線と同じレベル。今後、JR北海道が廃止やバス転換の動きを見せたら、他のJR会社も「あのJR北海道より採算が悪い」として廃止の検討を進めるかもしれない。沿線自治体は危機感を持ったほうが良さそうだ。