東海道・山陽新幹線は日本を代表する高速鉄道だ。その新型車両として、JR東海は6月24日に「N700S」を発表した。各紙の記事は報道資料の要約にとどまっており、その切り口にメディアの特色が現れていた。

たとえばテレビニュースでは、まず外観の「デュアル スプリーム ウィング形」を紹介し、次に「最高速度は変わらない、消費電力を低減」と続く。また、昨年6月の焼身自殺事故を受けて、防犯カメラを設置し、司令所が車内の様子をリアルタイムで確認できると紹介していた。16両編成も同じながら、海外展開をめざし、8両編成や12両編成に組み替えられる。東京オリンピック・パラリンピックが開催される2020年度から営業運転と紹介した報道も多かった。

新聞の電子版やネットニュースでは、全国紙系のメディアは「地震発生時の停止距離短縮」など安全面を取り上げ、IT系のメディアは「普通車各座席にコンセント設置」を紹介していた。モバイル機器を使う読者を念頭に置いた注目点だ。技術系情報を掘り下げ、駆動システムに「SiC(炭化ケイ素)素子」を採用して小型軽量化したという記述もあった。

東海道新幹線の歴代車両。JR西日本独自の500系を数えるか否か、N700Aを新型とするかマイナーチェンジと考えるかで世代感は変わる。700系の2020年引退はJR東海発表によるもの。N700系引退の2020年はN700Aタイプへの改造完了を示す

また、ほとんどの報道でN700Sを「東海道新幹線で7代目」あるいは「7車種目」としていたけれど、読売新聞だけは「6代目」と書いている。これはどういう数え方だろうか。初代は0系、2代目は100系、3代目は300系で異論がないとして、JR西日本のみ保有した500系をどう扱うか。500系を4代目とするなら、700系は5代目、N700系は6代目、そしてN700Sが7代目だろう。500系を数えない場合、700系は4代目、N700系は5代目、そしてN700Sが6代目となる。ただし、N700Aを1世代として数えるなら、500系を入れて8代目、500系を抜いて7代目となる。

「2013年のN700A以来7年ぶりの新型」という報道もあれば、「13年ぶりのフルモデルチェンジ」という報道もある。どちらも間違いではないけれど、N700Sという名前について、フルモデルチェンジかマイナーチェンジか、さかのぼってN700Aをどうとらえるか、各社の記者さんたちも悩んだと思われる。

ところで、鉄道ファンとしては気になる点がある。N700Sの各車両の形式名だ。

N700Sという名前には、N700Aのときと同じ悩みがありそうだ。「700」の次だから「800」としたいけれど、800系は九州新幹線で使用済み。「900」は新幹線の試験車両「ドクターイエロー」で使われているから、営業車両としては使いにくい。フルモデルチェンジなら新形式、4ケタの「1000」になるかと思われた。しかし、N700Aは製造番号で区別してこの問題を切り抜けた。ただし、N700Sでは同じ方法を使えそうにない。もう番号が空いていないからだ。

報道資料を見てみよう。

N700系以来のフルモデルチェンジとなる次期新幹線車両に向けた確認試験車
東海道・山陽新幹線車両として定着した、「N700」の名称に「S」を付けて、「N700S」とします。「S」は、N700系シリーズ中、最高の新幹線車両を意味する"Supreme(最高の)"を表しております。

フルモデルチェンジでありながらN700系シリーズという。矛盾している。車体に示す型式番号はどうなるのだろう。700系からN700系への進化は車両形式でも明確だった。700系の車両は制御車(運転台付き)の723~724形、グリーン車の717~719形、普通車の725~727形だった。一方、N700系は十の位に6を足す。運転台付きの783~784形、グリーン車の775~776形、普通車の785~787形となった。十の位を変えて、それではわかりにくいから「N」という符号をつけたともいえる。

N700系という名は洒落たアイデアだ。国鉄時代風に呼ぶなら「700系後期形」あるいは「780系」となったかもしれない。N700系を企画したとき、すでに「800」は使われていた。製造番号の区分だとマイナーチェンジになってしまう。苦肉の策として700系シリーズに納めたともいえる。

新幹線の車両形式名の法則。0系という呼称は登場時にはなく、新幹線形式などと呼ばれた。200系・100系が登場してから0系と呼ばれるようになった

新幹線の車両形式の法則では、十の位は用途を示す。グリーン車は1、普通車は2、食堂車は3だった。100系のときに形式が多様化して、グリーン車に4と7、食堂車に6が追加されている。5はなかったけれど、おそらく普通車の新形式のために空けたのであろう。つまり、グリーン車は1・4・7、普通車は2・5・8、食堂車は3・6・9が割り当てられていた。また、一の位は1~2が制御付き電動車、3~4が制御付き付随車、5~7が中間電動車、8~9が中間付随車に割り当てられている。

N700系からN700Aになったときはマイナーチェンジとされた。車両形式もほぼ変わらず、製造番号で区分されるにすぎなかった。N700系は0番台がJR東海所有、3000番台がJR西日本所有だった。N700AのJR東海保有車は700系1000番台として製造され、JR西日本の保有車は700系4000番台となった。また、既存のN700系をN700A仕様に改造した車両は、JR東海がN700系2000番台、JR西日本がN700系5000番台である。JR西日本とJR九州を直通する8両編成はN700系7000番台・8000番台となった。

700系・N700系の番台区分

こうなると、N700Sの各車両の形式はどうなるだろう。形式名の空きはない。製造番号では6000番台が空いているけれど、この番号を使えばフルモデルチェンジではなくマイナーチェンジ扱いになりそうだ。フルモデルチェンジ、つまり新形式とするなら、「S」を付けて制御車(運転台付き)の723S~724S形、グリーン車の717S~719S形、普通車の725S~727S形となるか。

あるいは現在も残る"カモノハシ"こと700系を全廃し、「S」なしの制御車(運転台付き)の723~724形、グリーン車の717~719形、普通車の725~727形を継承するかもしれない。JR東海は2019年度までに東海道新幹線から700系を全廃すると発表しているから、つじつまが合う。そうなるとJR西日本に残る700系も、形式の重複を避けるために同じ頃に全廃するだろう。N700Sは京急電鉄の1000形・新1000形のような考え方で、新700系ととらえる。それならN700SよりもS700系のほうが説得力がありそう。

いずれにしても、デビューすればわかること。2018年3月のデビューが楽しみだ。