5月24日、伝統ある会員組織、鉄道友の会が選定するブルーリボン賞・ローレル賞が決まった。阪神電気鉄道は「ジェット・シルバー 5700」の愛称を与えられた新型車両5700系でブルーリボン賞を初受賞。四日市あすなろう鉄道は新260系でローレル賞。創業2年目にして初受賞であり、同社の路線改良の意気込みを感じさせる。両賞の常連ともいえるJR東日本は、ハイブリッド車両HB-E210系で受賞した。

山手線の新型車両E235系。ブルーリボン賞・ローレル賞を逃した理由は…

鉄道友の会は60年以上も活動している鉄道趣味団体だ。参加資格は中学生以上で、入会金は1,000円。年会費は6,400円。会員特典として地域や分野ごとの研究会に参加できるほか、隔月刊会員誌か提供される。会長はJR東海の初代社長だった須田寛氏。長年の活動が認められ、賛助会員に鉄道会社も多いため、同会独自の鉄道施設の見学会なども行われている。

ブルーリボン賞・ローレル賞ともに鉄道友の会の会員による投票が重視される。違いは得票数と選考委員の意向の重みだ。ブルーリボン賞は得票数を重視し、1位と2位がわずかな差の場合などに選考委員の判断があるという。ローレル賞は得票数順位を参考にするとはいえ、おもに選考委員の視点が反映されるようだ。したがって、ブルーリボン賞は特急用車両や、デザインに画期的な車両の人気投票に近い印象だ。ローレル賞は通勤電車のように、地味ながら技術やデザインで意義深い車両が獲得する傾向がある。

2016年の受賞車両はすべて通勤用車両だった。先進性や導入会社の意欲作ばかりだけど、受賞各社には失礼ながら、特急用車両がなく、やや華やかさに欠ける結果となった。こうなると、惜しくも選に漏れてしまった候補車両が気になる。

ブルーリボン賞・ローレル賞の対象は「前年1月1日から12月31日までの間に日本国内で営業運転を正式に開始した新造および改造車両」とのこと。鉄道友の会の選考委員が挙げた候補車両は14形式だった。会員はこのうち2形式を投票できる。

運行開始日 事業者名 車両形式 特徴(筆者視点)
2月5日 JR九州 305系 筑肥線用・永久磁石同期電動機で消費電力削減
3月14日 JR西日本 227系 広島地区近郊区間用・新保安システム、先頭車転落防止ホロ
3月16日 熊本電気鉄道 01形 東京メトロ01系改造・新型台車「efWING」採用
4月25日 JR東日本 719系700番台 観光列車「フルーティアふくしま」
5月8日 札幌市交通局 9000形 地下鉄東豊線用車両・可動式ホーム柵対応
5月30日 JR東日本 HB-E210系 仙石東北ライン用・ハイブリッド方式
8月8日 JR九州 キロシ47形 「或る列車」用改造車
8月24日 阪神電気鉄道 5700系 各駅停車用・永久磁石同期電動機で消費電力削減
9月27日 四日市あすなろう鉄道 新260系 ナロー形通勤電車
10月1日 大山観光電鉄 101・102 大山ケーブルカー
10月3日 JR西日本 キハ48系 「花嫁のれん」用改造車
10月10日 東京都交通局 330形 日暮里舎人ライナー用・アルミ合金車体で軽量化
11月4日 埼玉新都市交通 2020系 ニューシャトル用・前面デザイン一新
12月6日 仙台市交通局 2000系 地下鉄東西線用・リニア鉄輪式、ATO対応

この一覧を見ると、新型特急車両や新幹線車両などがない。どれも甲乙つけがたく、投票に悩みそうだ。改造車の「フルーティアふくしま」「或る列車」「花嫁のれん」などは近年の観光列車ブームを反映している。数ある観光列車改造車両の中で、ブルーリボン賞・ローレル賞の受賞候補となった。それだけでも名誉なことだ。記憶にとどめたい。

筆者としては、熊本電鉄01形に賞をあげたかった。東京メトロ銀座線01系の改造車だ。電力供給方式を変更してパンタグラフを取り付け、台車には最新鋭のCFRP製「efWING」を採用した。一方でオレンジのラインカラーを残し、車体側面の熊本電鉄社章を東京メトロの社章の色と位置に合わせるなど、保存車両を意識した演出も良い。

もっとも、各車両に対して、会員それぞれ「自分にとってはコレが一番」という思い入れがあるに違いない。それを整理するために民主主義的な投票制度を採用している。

E235系や「里山トロッコ」などの車両も候補に入れて良かったのでは?

ところで、「前年1月1日から12月31日までの間に日本国内で営業運転を正式に開始した新造および改造車両」の中には、これらの候補に入らなかった車両もある。

運行開始時期 事業者名 車両形式 特徴(筆者視点)
5月 名古屋鉄道 EL120形 保線業務用貨物列車用・電気機関車
9月18日 東京都交通局 8900形 都電荒川線用・8800形(2009年)の改良版
10月8日 南海電気鉄道 8300系 南海線用・全閉内扇式かご型誘導電動機で騒音低減
10月31日 JR西日本 289系 683系2000番台を直流化
11月15日 小湊鐵道 里山トロッコ 観光車両・蒸気機関車タイプのディーゼル機関車
11月30日 JR東日本 E235系 山手線用・新列車情報管理システム「INTEROS」

ブルーリボン賞・ローレル賞の候補に選ばれなかった新造・新形式は表に示した6形式。他に観光向け改造車両として、JR西日本「ベル・モンターニュ・エ・メール(べるもんた)」、西日本鉄道「水都」、のと鉄道「のと里山里海号」がある。もっとも、観光列車は改造範囲に幅があり、選定に苦労しそうだ。

新形式車両が採用されなかった理由として思い当たる点を挙げていくと、名鉄EL210形は事業用車、つまり営業には使わない車両である。もともと選考の対象外だ。ただし、JR貨物がおもに構内入替え用として使っているHD300形ハイブリッド機関車は2012年のローレル賞を受賞している。EL210形は大手私鉄の電気機関車製造という珍しい事例だけに、候補に入れても良かったような気がする。

南海電鉄8300系も、阪神電鉄5700系と同じくらいの省エネ、騒音低減が図られている。対象にならなかった理由は8000系の改良版という位置づけだろうか。東京都交通局8900形も同様に8800形の改良という認識かもしれない。JR西日本289系は683系を直流化改造したという事情がある。新形式だけど改造車、しかも審査委員から見ると機能低下と見なされたといえそうだ。

山手線に登場したE235系と小湊鐵道の「里山トロッコ」が候補に入らなかったのも不可解だ。E235系は外観も斬新ながら、新システム「INTEROS」の採用、モーターなど走行機器類も新技術を採用した。概要発表から一般紙誌でも話題になり、営業運転開始もテレビのニュースになったほどだ。ただし、営業運転初日にトラブルを起こして使用停止となり、2016年3月7日から運行を再開している。

候補から外された理由も、このトラブルが不祥事と見なされてしまったか。あるいは1日だけの営業運転がなかったことになり、来年の受賞対象になるのだろうか。しかし、E235系の営業運転開始は2015年11月30日だ。前日には試乗会列車さえ走らせている。これは今年の選定条件に当てはまる揺るぎない事実だ。一般の利用者を乗せて走ったし、車内広告のスポンサーも付いていた。

小湊鐵道「里山トロッコ」は11月15日に運行を開始したものの、11月20日に機関車のロッドが破損し、今年3月17日まで運休していた。E235系と時期が似ている。

トラブルといえば、候補入りした大山観光電鉄のケーブルカーも、運行開始の2週間後に信号設備の不具合で運休している。この車両は大山ケーブルカー全体の設備更新にともない導入された。斬新なデザインで、前後面のガラス面積が大きく、高い天井が特徴で見晴らしが良い。信号設備トラブルは車両だけが原因ではないため、候補入りできたかもしれない。つい最近も、5月25~27日の3日間、車両トラブルで運休している。

大山ケーブルカーの新型車両が候補入りできるなら、E235系と「里山トロッコ」も候補入りして良かったと思う。トラブルがあったとはいえ、現在はどの車両も解決して復旧しているし、E235系は鉄道技術面で、「里山トロッコ」は観光列車として革新的車両であることも間違いない。今回の候補に入れば受賞は確実だったと思われる。営業運転開始直後のトラブルが惜しいと思いつつ、このくらいの数の候補なら、すべての車両を挙げても良かったのではないかと思う。

外野から「余計な口出しをするな」と言われてしまえばそれまでだ。しかし、鉄道友の会の賞といえばそれなりの権威であろう。感想や些細な意見はお許しいただきたく……。