4月14日に発生した熊本地震で、南阿蘇鉄道は全線の運行を見合わせた。安全を確認し、16日の朝から運行を再開する予定だった。しかし「本震」とされる16日未明の地震で甚大な被害を受けて不通となった。とくに立野~長陽間は、2つのトンネルで内壁の崩落や亀裂が見つかり、鉄橋の橋桁も損傷、線路は250mにわたって流出しているという。

それから3週間が過ぎ、もうすぐ1カ月になろうとしている。この地震では熊本電気鉄道や熊本市電、JR九州各線も大きな被害を開けた。これらの鉄道の復旧は着々と進み、残すは豊肥本線一部区間と南阿蘇鉄道全線となっている。どちらも復旧には膨大な費用がかかる。とくに南阿蘇鉄道の復旧費用は少なくとも30億円、鉄橋の架け替えが必要になると50億円ともいわれている。余震が続き、大雨によってさらに土砂災害が発生するおそれもあり、復旧費用の見積もりすら取れない状況のようだ。

「南阿蘇鉄道 希望の光 復興祈念切符」(画像提供 : ひたちなか海浜鉄道)

JR九州の被災に関しては本連載第16回で紹介した通り。JR九州は株式上場を視野に入れられるほどの黒字であるから、国の災害復旧補助は受けられない。ただし、2016年の第189回国会参議院国土交通委員会において、「災害時には治水事業の復旧と連携するよう助言をする」という見解がなされた。崩壊した阿蘇大橋周辺は道路も巻き込む土砂崩れであり、道路と一体となった盤石な復旧施策を期待したい。

南阿蘇鉄道については、2014年度の経常損益が345万円の赤字となっている。赤字会社だから国の復旧補助事業の対象となる。ただし国の補助は総費用の25%以下で、沿線自治体と同額となる。沿線自治体も25%負担を決めないと適用されない。復旧費用が30億円とすれば、沿線自治体で7.5億円を拠出できるか、南阿蘇鉄道自身が50%の15億円を負担できるか、という問題になる。南阿蘇鉄道は沿線自治体が出資した第3セクター鉄道だから、この15億円についても自治体の負担になるだろう。

東日本大震災での三陸鉄道の復旧については、「被害の甚大性等に鑑み、地方公共団体がその復旧事業費を負担し、復旧した鉄道施設を地方公共団体で保有することとした場合には、補助率を5割(地方公共団体も5割を負担)とする」という特例処置が執られた。国から自治体への別途支援も実施されたので、ほぼすべて国の支援で復旧できた。同じ特例が適用されるなら、南阿蘇鉄道は上下分離化され、線路設備は自治体保有、南阿蘇鉄道は列車運行のみ実施するという形態で存続できそうだ。ただし、こうなると線路の維持管理費が恒久に自治体負担になる。沿線自治体の決断が求められる。

全13枚のデジタル写真集『南阿蘇鉄道春夏秋冬』(画像提供 : 光鉄企画)。売上300円のうち150円が寄付される

全国から南阿蘇鉄道の復旧支援の取組みが始まった。第3セクター鉄道会社の由利高原鉄道、ひたちなか海浜鉄道、いすみ鉄道、若桜鉄道は共同で、「南阿蘇鉄道 希望の光 復興祈念切符」を発売した。各社の入場券と南阿蘇鉄道の乗車券のセットで1,000円。うち700円が南阿蘇鉄道へ義援金として贈呈される。この企画の賛同者は多かったようで、ひたちなか海浜鉄道、若桜鉄道の扱い分は完売、いすみ鉄道はWebショップ扱い分も含めて完売した。若桜鉄道といすみ鉄道は追加発注の入荷待ち状態。現在の入手先は由利高原鉄道で、Webショップに在庫ありとなっている。

地元の鉄道カメラマンが南阿蘇鉄道のデジタル写真集や絵はがきを販売し、売上を寄付するという動きもある。筆者もデジタル写真集を購入してみたところ、とても美しい風景と列車たちだった。復旧したら行ってみたいと強く思った。

南阿蘇鉄道に対しても義援金の申し出が多く寄せられたようで、4月25日から義援金受け入れ口座を開設した。5月7日の産経新聞電子版によると、全国から約600万円が集まったとのこと。

復旧費用が30億円とも50億円とも見込まれる中で、600万円は小さいかもしれない。1,000のきっぷのうち700円の義援金で総額がどのくらいかは想像に難くない。しかし、この金額は決して「焼け石に水」ではない。「全国から支援が行われている」「復旧を期待されている」という事実が重要だ。

鉄道・運輸機構は公式サイトに「鉄道助成ガイドブック」を公開している。その第7章「国における鉄道助成制度」において、災害復旧事業費補助金の対象として、「当該災害復旧事業の施行が、民生の安定上必要であること。」を筆頭に掲げている。この「民生の安定」とは何か。辞書によると、「人民の生活・生計」とある。漠然としているけれど、要するにその鉄道が地域の人々の生活に必要な存在か否かだ。

南阿蘇鉄道は通学利用者も多く、赤字とはいえ、17.7kmの鉄道路線の赤字が345万円にとどまるという点も重要だ。もう少しで黒字という段階まで鉄道利用者が存在する。この数字からも生活に必要な路線だと理解できる。

それに加えて、近年は国内外からの観光客も多いという。トロッコ列車「ゆうすげ号」の2014年度の利用者は24万人以上。沿線の高校では、卒業記念にトロッコ列車に乗る行事があるそうだ。テレビニュースのインタビューで「僕らは間に合わないかな」と3年生が寂しそうに語っていた。

その他、日本最長の鉄道用トレッスル橋、水面からの高さ日本第3位の第一白川橋梁など名所も多い。日本一長い駅名はちょっとあざといから差し引くとしても、観光集客は地域経済の活性化に貢献し、「民生の安定」につながる。

南阿蘇鉄道だけに限らず、鉄道は国民の財産だ。全国からの支援は、少額とはいえ国民の意思表示といえるのではないか。むしろ金額よりも参加者数のほうが重要だ。それは沿線自治体にとって、復旧へ向かう力となる。国と協議する上で心強いはずだ。5月8日のニュース映像によると、南阿蘇鉄道ではトロッコ列車の試運転を始めたという。全国からの支援の声が、南阿蘇鉄道の背中を押している。