西武鉄道が新型特急車両を発表し、京王電鉄が座席指定列車にも使える新型車両を発表した。どちらも大都市の通勤区間を走る列車だ。用途は異なるけれど、2つの車両の構想には共通点がある。それは「ライバルとの差別化」と「沿線価値の向上」だ。

西武鉄道が2018年に導入予定の新型特急車両のイメージ(現在検討中のイメージイラスト。実際のものとは異なる)

西武鉄道の新型特急車両のコンセプトは、「いままでに見たことのない新しい特急車両」との思いをもとに策定されたという。そりゃあ何だってデビューする前は誰も見たことないだろう……とツッコミを入れたくなるけれど、あえてそのフレーズを使うからには、かなり奇抜なデザインにするつもりだ。自らハードルを上げまくっちゃって大丈夫か。

西武鉄道から提供されたイメージイラストには、「実際のものとは異なります」と但し書きが付いている。しかし、これを手がかりにもう少し妄想を膨らませてみよう。

まず、車体が透き通って見える。デザインを手がける妹島和世氏は建築デザイナーで、鉄道車両は初の取組み。建築での実績はルーブル美術館ランス別館、鉄道では「天空カフェ」としても知られる日立駅駅舎でブルネル賞を受賞している。どちらもガラスなど透明素材を使った作品だ。風景に溶け込む、透き通った作風はこれらに象徴されるようだ。

しかし、衝突安全性を求められる鉄道車両で、ガラスやプラスチックで車体を作るはずがない。これは透き通るというより、「鏡面仕上げに風景が反射している」と考えたほうがよさそうだ。両側が似たような風景なら、車体に映し出された景色が背景とそろう。製造は日立製作所が受注しており、同社のアルミ押し出し成形技術を使った「A-train」方式の車体である。アルミ素材の鏡面仕上げにこだわると予想できる。

次に気になるところは窓の大きさ。通常は座席に座ったときの胸のあたりが窓の底辺になる。しかし、イメージ図では床に近いところまで窓が降りている。短パンやミニスカートでは、この窓のそばに座りづらい。だからこの窓は通路側ではないか。そうなると、座席は個室タイプになりそうだ。あるいはこの車両は展望ラウンジかもしれない。現在のニューレッドアロー(10000系)は7両編成、この新型特急車両は8両編成だから、1両を展望車にしても定員は同じにできそうだ。

先頭車の形状は丸い。しかしこれも誇張された表現だ。よく見ると、このままでは連結器の長さが足りない。他の車両と連結しようとしたら衝突する。このデザインは流線型の尖ったイメージではなく、丸みを重視したといえる。時速100km程度では流線型にしても空気抵抗削減効果は少ないというし、いわゆる「トンネルドン現象」も小さいだろう。下半分がここまで傾斜するデザインはたしかに斬新である。踏切などで衝突した場合に運転士を守る緩衝の役目もありそうで、理にかなう。

京王電鉄が2018年に導入予定の新型車両5000系

京王電鉄の新型車両5000系の外観は奇抜ではない。京王電鉄としては初めて、先頭車運転席側の造形に傾斜角が与えられた。他の車両との連結を重視しないデザインが特徴だ。しかし、これに似た顔は東京メトロなど他社でも見受けられる。製造はJR東日本系列の総合車両製作所が担当する。つまり、E231系の流れを汲む「標準車両」に準じて、省エネルギー、保守コスト低減、IT技術を盛り込んだ電車となるだろう。

最大の特徴は客室だ。通勤用としてロングシート、指定席車両としてクロスシート。2つの座席配置を切り替えられる。東武東上線の座席定員制列車「TJライナー」用の車両50090型と同じコンセプトだ。並行するJR東日本の中央線がグリーン車の導入を発表したため、京王電鉄も座席指定車両の導入を告知していた。ライバルとして着席需要を満たす列車を走らせたいと思われる。

JR中央線では、各列車にグリーン車を連結する。京王電鉄は座席指定列車を走らせる。京王線はかなり過密なダイヤだ。定員の少ない列車を走らせると、前後の列車に乗客が偏る。京急電鉄の「ウイング号」も、当初は直後の快特が混雑していた。京王電鉄がダイヤ上でどんな采配を見せるかも興味深い。

両社の新型車両の共通点と対照点

西武鉄道の新型特急車両は観光用途が主、通勤ライナー用途が従となる。京王電鉄の新型車両5000系は通勤用途が主で、通勤ライナーに対応する。2つの電車は扱う旅客層の幅が異なる。しかし共通点は前述の通り「ライバルとの差別化」「沿線価値の向上」だ。

京王電鉄のライバルは並行するJR中央線だからわかりやすい。西武鉄道の特急列車のライバルは、観光地向け路線としての小田急電鉄ロマンスカー、東武鉄道スペーシア、JR東日本の近郊特急群だ。これらの中で、西武鉄道のニューレッドアローの車両が最も古い部類で、そろそろ替え時だった。

沿線価値の向上は、将来の少子化、近郊の人口減少への布石だ。都心の生活人口は増える。しかし近郊住宅地は過疎化が始まっている。家族が増えて郊外に住みたいと思った場合、住民の取り合いになっていく。自社の沿線を選んでもらいたい。そのために、帰宅時の着席保証が重要になってくる。

一方、それぞれの新型車両で対照的なところは「デザインそのもの」だ。西武鉄道は風景に溶け込むような、つまり「環境との調和」を主とする。京王電鉄は座席配置転換システムにみられるように「機能性」を主とする。日本の鉄道車両は従来、「機能性」を重視したデザインだった。しかし近年、鉄道分野以外のデザイナーを起用した「環境性」を重視した取組みが目立つ。

機能性デザインと環境性デザイン。これらは日本車と欧州車のデザインのデザイン性でも比較される。鉄道は生活の道具だ。しかし人間は文化的生き物だから、美しいデザインに接したいとも思う。鉄道でも、両者のデザインバランスが重要になってきたといえる。