2016年1月第3週(1月18~24日)は、「JRグルーブ春の臨時列車の発表」「関西大手私鉄のダイヤ改正」「伊豆の観光列車デビュー」「東武鉄道のSL列車運行に大井川鐵道、秩父鉄道、JR北海道が協力する美談」など、話題が多かった。掘り下げるネタ選びも悩ましいけれど、今回は鉄道趣味目線で、興味深い車両やダイヤを使った「春の臨時列車」を挙げてみた。臨時列車の発表は各方面の新幹線や特急列車の増発が主になるけれど、プレスリリースをじっくり見ると、ユニークな列車が見つかった。

「ノースレインボーエクスプレス」車両の臨時列車も

JR北海道、ハイデッカー車両の臨時特急「北斗」

JR北海道は北海道新幹線の増発がおもな話題だけど、北海道新幹線に関連して函館~札幌間の特急「北斗」を最大2往復増発する。うち1往復をリゾート車両「ノースレインボーエクスプレス」で運行する。「ノースレインボーエクスプレス」はキハ183系5200番台。既存のキハ183系の改造ではなく、新製車両として1992年に登場した。

座席はハイデッカーバスよりも高い位置にあり、窓も大きく天井に回り込む。眺望、採光ともに素晴らしい車両だ。3号車は2階建てで、1階部分にラウンジがある。登場時は臨時列車「はこだてエクスプレス」に起用され、その後は夏の「フラノラベンダーエクスプレス」、冬の「流氷特急オホーツクの風」で知られている。2013年の車両不足のときも臨時「北斗」として運用された。

定期列車「スーパー北斗」のキハ281系より古い車両だけど、「ノースレインボーエクスプレス」のほうが景色を楽しめるし、退屈し始めた子供たちをラウンジで遊ばせられる。おすすめの列車は札幌駅9時53分発・函館駅14時0分着「北斗88号」だ。逆方向の「北斗95号」は函館駅15時5分発・札幌駅19時34分着になり、途中で日が暮れて景色を楽しめない。

「北斗88号」に乗ると、新函館北斗駅14時14分発の臨時「はやぶさ60号」に乗り継げて、東京駅には18時32分に着く。ただし、この臨時「はやぶさ」は3月26・27日、4月29・30日、5月1・3・4・5日の8日間しか運行されない。3月は日没を過ぎるけれど、5月の連休なら日没は18時30分頃。ずっと車窓を眺められる。狙い目は5月の大型連休だ。

JR北海道「ノロッコ号」継続するけど乗り納めかも…

JR北海道ではもうひとつ、「ノロッコ号」の継続がうれしい。6月の週末などに富良野線で1日3往復の「富良野・美瑛ノロッコ号」を運行。春の大型連休と6月の週末などに釧網本線で1日最大2往復の「くしろ湿原ノロッコ号」を運行する。どちらも開放的な展望客車をディーゼル機関車が牽引する観光列車だ。「ノロッコ号」は機関車の老朽化によって存続が危ぶまれていた。2015年度、つまり今年3月までで終わりという懸念もあった。

釧網本線の臨時列車「くしろ湿原ノロッコ号」

近年のJR北海道は、安全と幹線へ投資を集中させる方針で、ローカル線や観光列車に消極的と報じられている。たとえ機関車が使えないとしても、JR四国の「しまんトロッコ」のようにディーゼルカーで客車を引っ張る方法もある。なんとか存続してほしい。いずれにしても、現在の運行形態はもうすぐ終わってしまうかもしれない。

ついにこの春はSL列車が紹介されず、臨時の観光列車は「ノロッコ号」2列車と「フラノラベンターエクスプレス」「旭山動物園号」のみになってしまった。「ノロッコ号」がなくなるとかなり寂しくなりそうだ。

JR東日本の臨時列車「伊豆・箱根ものがたり」

JR東日本は新幹線の増発のほか、SL列車やリゾート車両も総動員だ。首都圏の大きな需要があり、関東近郊や新幹線接続で観光イベントの供給も多い。プレスリリースの情報量も多く、臨時列車の定番化が進んでいる。でも、ときどきニヤリとする企画が紛れ込んでいるから侮れない。この春、珠玉の臨時列車は、東海道本線・伊東線で1往復だけ設定された「伊豆・箱根ものがたり」だ。

この臨時列車は、3月12日に横浜発伊東行、3月13日に伊東発横浜行が設定された。車両は「SLばんえつ物語」で使われている客車だ。SLではなくEL(電気機関車)の牽引になるとはいえ、東海道本線を昼間に走る客車列車はとても珍しい。列車種別が「急行」であることも良い雰囲気だ。

「ばんえつ物語」の客車といえば、レトロ調にリフォームされた12系客車で、7号車は展望室付きのグリーン車、1号車も「オコジョルーム」(子供向けフリースペース)付き展望車だ。「EL+客車+展望車」という編成は、かつて東海道本線を走った特急「つばめ」「はと」の再来といえる。この列車は3月まで開催される「伊豆・箱根・湯河原キャンペーン」と連動しているそうだ。次に同様の企画がいつ現れるかわからない。

JR東海の臨時列車「ナイスホリデー木曽路」

JR東海の臨時列車は東海道新幹線と在来線特急列車が中心だ。しかし、プレスリリースに記載されない「隠し球」もありそうで気になる。なにしろ在来線に関して、「その他臨時特急・急行列車を期間中に合計212本運転します」とありながら、急行について具体的な記載がない。春の臨時列車の発表と同じ日に、2月に運転する「富士山トレインごてんば号」が発表されているから、今後の個別の列車の発表や時刻表で確認したい。

プレスリリースに記載された列車では、臨時快速「ナイスホリデー木曽路」がおもしろそうだ。この列車は季節臨時列車としては定番化している。往路は名古屋駅8時15分発・塩尻駅11時10分着、復路は塩尻駅14時18分発・名古屋駅17時18分着。特急「ワイドビューしなの」では約2時間の行程を「ナイスホリデー木曽路」は約3時間かけて走る。快速だから乗車券のみで利用可能だ。

中央西線の普通列車に使用される313系

使用車両は明らかにされていないけれど、2012年から転換クロスシートの313系が使われている。中央西線の車窓をのんびり楽しめそうだ。

JR西日本「奥出雲おろち号」の乗車時間が増えた

JR西日本も新幹線と在来線特急列車の増発が主だ。今年は「晴れの国おかやまデスティネーションキャンペーン」に合わせ、「ラ・マル せとうち」「みまさかノスタルジー」が誕生する。これも既報通り。「500 TYPE EVA」「115系シティライナー」など、単独扱いの記事も多かった。それだけに情報が出尽くした感がある。

そこで注目したい列車は、木次線の「奥出雲おろち号」だ。毎年4月から11月まで運行している観光列車で、ディーゼル機関車が12系客車2両を牽引する。客車は1両がトロッコ風に改造され、窓ガラスがないので開放感がある。もう1両は簡易リクライニングシートだ。メインはトロッコ車両で、荒天時に簡易リクライニングシート車に避難できる。

「奥出雲おろち号」は、2015年11月のダイヤでは木次駅10時7分発・備後落合駅12時24分着、備後落合駅12時45分発・木次着15時2分着だった。今回発表された春の臨時列車では、木次駅10時7分発・備後落合駅12時39分着、備後落合駅12時59分発・木次着15時52分着となり、上り・下りともに所要時間が増えている。一般に所要時間が延びると困るわけだけど、観光列車の場合は楽しい乗車時間が長引くわけで、うれしい改正だ。

ただし、2015年は可能だった「『奥出雲おろち号』から普通列車を乗り継いで臨時『サンライズ92号』への乗継ぎ」はできなくなったようだ。2015年11月までは数分の乗継ぎでスムーズだったけれど、2016年春から臨時「サンライズ92号」の時刻も変わっている。3月26日の全国ダイヤ改正は、かなり広範囲で大きく時刻が変わると予想できる。春の臨時列車の時刻から、3月26日のダイヤ改正を予測してみるという楽しみ方もできそうだ。

JR四国は特急「しおかぜ」「いしづち」の分割・併結が繁忙期に解消され、「しおかぜ」は全編成が岡山駅発着、「いしづち」は宇多津駅・多度津駅と高松駅を結び、「しおかぜ」に連絡する。これは恒例行事のようなもの。寝台特急「サンライズ瀬戸」の琴平駅への延長運転も定番化されたようだ。

肥薩線「いさぶろう・しんぺい」もD&S列車のひとつ。この春から熊本~吉松間の列車が設定される

JR九州も新幹線と在来線特急列車の増発が主だ。観光要素の強い臨時列車は「D&S列車」として、季節にかかわらず定番の列車となり、春の臨時列車とは別に案内されている。そういえば、JR四国の「伊予灘ものがたり」も春の臨時列車のプレスリリースには含まれていない。旅客需要の変化に応じた臨時列車と、ほぼ通年で観光客の掘り起こしを狙う観光列車は別のカテゴリーと考えるようになってきたといえそうだ。