テレビ番組『きかんしゃトーマス』は1984年にイギリスで始まった。日本での放送開始は1990年。それから20年後の作品が『きかんしゃトーマス 伝説の英雄』だ。原題は『Hero of the Rails』。新たなキャラクターとして、蒸気機関車「ヒロ」が登場する。ヒロは日本製で、なんと、ソドー島で最初に走った機関車だった。スクラップ寸前のヒロを、トーマスたちは修理しようと奮闘する。

大井川鐵道にやって来た「ヒロ」

久しぶりに『きかんしゃトーマス』を見たら、模型の実写作品ではなくCG作品になっていた。声の出演も変わっていた。鉄道模型を使ったトーマスの雰囲気が良かったのに……とも思う。しかし、新しいトーマスも悪くない。修理工場の細部まで描かれた画面は興味深いし、機関車たちも鉄道職員たちもよく動く。ソドー鉄道が生き生きと描かれている。

スクラップ寸前の英雄を救え!

青いタンク式機関車トーマスは、今日も仲間のパーシーやエドワードたちと仲良く働いていた。ある日、プライドの高い銀色の機関車スペンサーがやってきた。夏の間だけ、ボックスフォード侯爵の別荘建設のために働くという。いじわるなスペンサーとトーマスは、重い荷物を運ぶ競争で決着をつけようとした。しかしトーマスは故障し、廃線に迷い込む。その先には朽ちかけた大型蒸気機関車「ヒロ」がいた。昔、日本からやってきたヒロは、日本でもソドー島でも「伝説の英雄」と呼ばれていたという。ヒロは英雄時代と日本を懐かしむだけの日々を送っていた。

トーマスはそんなヒロを励まそうと、修理を申し出る。ソドー鉄道のオーナー、トップハム・ハット卿は普段から「壊れた機関車などいらない」と言う。いまヒロを見せたらスクラップとして精錬所に送られてしまう。トーマスはこっそり部品を運び、ヒロ復活を手伝う。そんなトーマスの異変に機関車の仲間たちが気づく。スペンサーもトーマスの秘密を探り出そうとする……。

「ヒロ」のモデルはD51形蒸気機関車

『きかんしゃトーマス』シリーズは架空の物語。ソドー島はイギリスにあるという設定だ。機関車たちもオリジナルデザインで、実在の車両は出てこない。複線区間を併走したり、ポイントのないところでいつの間にか隣の線路に移ったり、トーマスたちは無軌道状態に見える。しかし秩序はあるようで、腕木式信号機が登場し、トーマスたちも守っている。機関車たちは意思もあり人間と会話もできる。そんなコミュニケーション力のおかげで、ソドー島の鉄道はギリギリのところで安全だ。

鉄道ファンとしては、「ソドー島の鉄道路線図やダイヤはどうなっているだろう?」というのも気になるところだけど、ファンタジーに過剰なリアリティを求めてはいけない。さすがに郵便貨車を数日も行方不明にさせたらまずいとは思うけれど、気にしない。トップハム・ハット卿も怒っているし、こちらはストーリーを楽しもう。

ソドー島に張り巡らされた路線網のうち、今回のお話は起点のナップフォード駅からヴィッカースタウンまでの「本線」と、「トーマスの支線」、ブレンダム港へ向かう「エドワードの支線」が主だ。「本線」は複線非電化、一部3線区間がある。トーマスの支線は単線。エドワードの支線は単線だけど、一部は複線。本線の途中からナップフォード駅へ向かう短絡線が、物語後半で重要な意味を持つ。

機関車たちは架空だけどモデルがいる。トーマスはロンドン・ブライトン・アンド・サウスコースト鉄道の「クラスE2型」。10両が作られたものの、現在はすべて廃車となっているという。イギリスでは類似の機関車を青く塗り、トーマスのお面をつけて走らせている場所があるらしい。スペンサーのモデルはロンドン・アンド・ノース・イースタン鉄道の「クラスA4」。他の機関車もそれぞれモデルが存在しているようで、挿絵画家のインタビューなどで明らかにされている。今回登場する日本製機関車「ヒロ」のモデルは、日本で最も有名なデゴイチこと「D51形」だ。「ヒロ」の車体番号も51となっている。

『きかんしゃトーマス』シリーズは日本の子供たちにも大人気で、富士急ハイランドにトーマスランドがあるし、埼玉県のららぽーと新三郷にもトーマスタウンがある。鉄道会社とのタイアップも多い。

ところで、2014年3月22日から、静岡県の大井川鐵道で「ヒロ」が再現されている。同社が千頭駅で保存している9600形蒸気機関車を改装したそうで、9月20日まで公開される予定だ。9600形は動軸が4つだからD51形に似ている。写真を見ても「ヒロ」そっくりだ。同社はこの夏、タンク式機関車をトーマスに変身させて運行するイベントも開催する。つまり、夏休みに大井川鐵道に行くと、千頭駅でトーマスとヒロの対面が見られるわけだ。

ここまでなら単なるタイアップの話だけど、じつはこのスケジュールが良い演出だ。日本にヒロが登場し、次にトーマスがやってくる。これはそのまま、『伝説の英雄』のラストシーンの続きを再現しているようだ。大井川鐵道のヒロやトーマスを訪ねる前に、ぜひ今回の作品を鑑賞してほしい。大井川鐵道での出会いが、さらに感動的になるだろう。

映画『きかんしゃトーマス 伝説の英雄』に登場する鉄道風景

ソドー島 トーマスたちが活躍する島。イギリス本土とは鉄橋でつながっている
ナップフォード ソドー鉄道本線の起点。アーチ状の屋根がある
ブレンダム港 エドワードの支線の終点。ヒロがやって来た場所
機関庫 ナップフォード駅構内にある
Sodor Steamworks 修理工場。クロバンズゲート駅付近にある。修理担当機関車のビクターがいる
採石場の専用線 トーマスの支線の終点のさらに先。ディーゼル機関車のメイビスがいる