ハリウッドスターのスティーブン・セガールは、17歳から31歳まで大阪で暮らしたという。大柄な体躯に精悍な顔つき、その外見とはギャップのあるシャイな声で大阪弁を使う。そんなセガールに好感を持つ人も多いだろう。セガールのアクション映画といえば「沈黙」シリーズが有名。今回紹介する『暴走特急』は、「沈黙」がつかないものの、原題は『Under Siege 2』で、セガールの代表作『沈黙の戦艦』の原題『Under Siege』の正当な続編といえる作品だ。だったら『沈黙の暴走特急』でもよかったような……。

もっとも、007シリーズのように、「沈黙」シリーズも各ストーリーは独立しており、『暴走特急』も独立した作品である。ただし、序盤の冷蔵庫に隠れる場面や、「キッチンは得意だ」とつぶやくところなど、『沈黙の戦艦』を見た人ならニヤリと笑える。先に『沈黙の戦艦』の鑑賞もおすすめしたい。

"世界で最も危険なコック"がテロリストに立ち向かう

『暴走特急』は列車アクションの王道を行くアクションムービー(写真はイメージ)

デンバー発、ロサンゼルス行の大陸横断特急がテロリストに乗っ取られた。乗客たちは捕らえられ、後部車両に隔離される。しかし、元特殊部隊員のケーシー・ライバック(スティーブン・セガール)は、とっさに食堂車の冷蔵庫に隠れて難を逃れた。

テロリストたちはアメリカが極秘に開発した攻撃衛星の制御システムを乗っ取り、地上に人工地震を起こして街ごと破壊する。そして武器の使用権を富豪に販売。注文通りに破壊し始める。ひと儲けしたところで、テロリストは米国防総省に狙いを定めた。その地下には、やはり極秘に設置された原子炉がある……。

乗っ取りグループ対勇者ひとりという構図。走行中に客車から機関車へ飛び移ったり、屋根の上を移動したり交戦したり、列車から落ちてもなんとかしてまた乗り込んできたり……と、従来の列車アクション映画の王道シーンを集めた作品だ。でも、そこはセガール作品。彼が大阪で会得した格闘技を応用したナイフアクションや、知恵を使って身近な道具を武器に変えて戦うシーンなど、ひと味ちがう、見どころたっぷりの作品である。

架空の列車だが線路と車両は本物

アメリカの大陸横断列車といえばアムトラック。だが列車ジャック作品に協力するはずもなく、同作品のデンバー発ロサンゼルス行き特急「グランドコンチネンタル」も架空の列車だ。そもそもアムトラックの路線図に、デンバーとロサンゼルスを結ぶ列車はない。

「グランドコンチネンタル」は機関車2両、荷物車1両、客車7両(うち1両は食堂車)。客室は座席車とコンパートメントの2種類。アメリカ大陸横断鉄道の典型的な構成だ。機関車はGM-EMDが製造したGP7形ディーゼル機関車。製造番号に「1804」「1810」が見える。客車は外観と客室撮影用で異なる車両が使われた。外観撮影用として、鉄道車両メーカーのレーダー社(現コロラドレールカー)から2階建て車両をリースし、塗装と改造を実施した。

線路は実際の鉄道路線から借りたが、定期便の貨物列車や旅客列車が走るため、撮影用列車は1日に2~3回、退避用線路に移動させる必要があったという。この撮影用列車の全長は300mで、偶然にも『沈黙の戦艦』の舞台となった戦艦ミズーリの全長と一致する。

「グランドコンチネンタル」と貨物列車が衝突するシーンは模型。しかし、実物の1/8の線路と車両だけに、模型でありながら迫力がある。また、鉄橋はロサンゼルス郊外の渓谷に「建設」されたという。鉄橋の長さは60mで、実物に換算すると480m。列車は時速192kmにあたる速度でリモート・コントロールされたとのことだ。

映画『暴走特急』に登場する鉄道風景

GP7形 GM-EMDが製造販売したヒット作。1949年から1954年にかけて2,729両も製造された。アメリカの一級鉄道規格路線からはすべて引退し、現在は地方路線でわずかに稼働するのみという。映画に登場する機関車はアラスカ鉄道で活躍した中古車で、1810号機についてはその後、オレゴンパシフィック鉄道が保有し、ミルウォーキーで保管されていた。ただし、現在の稼働リストには入っていないようだ
「グランドコンチネンタル」 デンバーとロサンゼルスを結ぶ列車。実在しない。ちなみに同じルートをアムトラックでたどろうとすると、バスに乗り継ぎながら27時間の行程となる
荷物車 ユニオンパシフィック鉄道から購入した中古車
列車の車内 元ロングアイランド鉄道(ニューヨーク州)の通勤型電車やデンバー・アンド・リオグランデ・ウェスタン鉄道で使われていた車両を食堂車や座席車などに改造した