スパイアクション映画の定番といえば007シリーズだ。007と鉄道といえば、最新作『007 スカイフォール』にも列車を使ったアクションシーンがある。『007 スカイフォール』は当初、インドの鉄道で撮影され、列車の屋根にまで乗客が群がる中での格闘……、となるはずだったという。しかしインド当局との交渉が難航し、結局インドでの撮影が取りやめになったというエピソードがある。

『007 ロシアより愛をこめて』ではオリエント急行が舞台に(写真はイメージ)

さて、007シリーズの列車アクションの原点といえば、第2作『007 ロシアより愛をこめて』。東西冷戦下、両陣営の国を貫く列車が、東西のスパイと秘密組織の戦場になった。ロシアといえば最近、隕石が落ちて大きな被害が出た。隕石も驚きだけど、東西冷戦時代を知る人にとって、ロシアの事件・事故の映像がすぐさまネットで見られるという時代の到来にも驚いたのではないか。

『007 ロシアより愛をこめて』は、当時のソ連の秘密主義や、東西両陣営のスパイ合戦を逆手に取り、悪の組織スペクターが暗躍。我らがジェームズ・ボンドが、暗号解読機とソ連の美女を奪ってしまう、というお話。後の007シリーズのおもしろさの要素を確立した作品とも言われている。

美女とソ連の暗号解読機を奪え

シリーズ第1作の『007 ドクター・ノオ』で、ジェームズ・ボンドは悪の組織スペクターの野望を打ち砕く。スペクターはボンドに復讐するため、ボンドを殺すことで東西両陣営の関係を悪化させようとする。そのためにソビエト情報局の美女をボンドに近づけ、さらに最新の暗号解読機も奪わせるという計画を立てた。ロシアの美女にイギリスのスパイがだまされて殺されるとなれば、東西冷戦の関係はさらに悪化する。ついでに暗号解読機が手に入れば言うことなし。

英国海外情報局は、「イスタンブールのロシア領事館の情報部員が亡命を希望し、手引き役にボンドを指名。手土産は暗号解読機」という話を罠だと察知する。しかし、もしかしたら本物の暗号解読機を手に入れられるかもしれない。ボンドは情報部員が美女と知り、ますます罠を疑いつつ、その誘いに乗った。イスタンブールで彼女と接触したボンドは、現地のエージェントと協力して作戦を実行。暗号解読機と彼女を携えて、イスタンブール発の欧州行き列車に乗る。しかし、その列車にはロシアの情報部員とスペクターの殺し屋も乗り込んでいた……。

タイトルバックからボンド・ガールまでお色気たっぷり。そしてボンドのダンディなかっこよさ。ストーリーのテンポも早く、アクションも体に力が入るほど。秘密兵器も登場し、現在の007シリーズの要素が全部入っている印象だ。国際情勢や風景は古いけれど、いま見てもやっぱりおもしろい。

豪華ではなく、旅人の手段としてのオリエント急行

同作品では欧州へ向かう国際列車としてオリエント急行が登場する。オリエント急行といえば、現在は長距離豪華観光列車として、「ベニス・シンプロン・オリエント・エクスプレス」が運行されている。映画ではアガサ・クリスティ原作の『オリエント急行の殺人』が知られている。こちらは1930年代の国際特急が舞台で、やはり上流階級の列車というイメージ。ちなみに、『007 ロシアより愛をこめて』でボンド役だったショーン・コネリーは、11年後に公開された『オリエント急行の殺人』が原作の映画にて、渋い紳士役で出演している。

『007 ロシアより愛をこめて』で描かれるオリエント急行は、1等個室もあるものの、どこか庶民的。作品の舞台となった1960年代のオリエント急行は、第2次大戦後に運行を再開した国際列車で、2等座席車や開放型寝台車が中心。最盛期のような「個室中心、サロンのような1等座席車」ではなかった。食堂車も「街のちょっといいレストラン」といった風情となっている。

ボンドとソ連の美人情報部員は、新婚旅行の夫婦に偽装して個室に乗車する。それぞれ1ベッドの個室だけど、仕切り扉を開けて2人部屋としても使える。ここで2人は新婚夫婦らしく……、なんともうらやましい場面が出てくるわけだ。ちなみに列車内を描いたシーンはすべてセットとのこと。どおりで食堂車では落ち着いて食事できているし、個室での格闘シーンも落ち着いているわけだ。当時の列車なら、もっと揺れて手もとに気を使っただろう。

客室の場面のリアリティにこだわるため、美術監督はフランスで運行している同型車に乗り込んで採寸したという。後のインタビューで、「長距離列車用客車だから採寸が終わって戻ってくるまでに時間がかかった。本物はもっと汚いんだ。映画用にすこしきれいに作った」と語っている。

オリエント急行の走行シーンや駅の場面はロケ。だから牽引する蒸気機関車や客車の外観は本物。ただし、機関車の種類は変わったり戻ったりする。当時の映画はやはりどこか大らかで、ほんの一瞬しか映らない機関車を統一する、という手間はかけなかったようだ。迫力のある動輪の場面も、同軸が4つだったり3つだったりする。

でも、観客のほとんどはボンド役のショーン・コネリーと、ボンド・ガールのダニエラ・ビアンキが目当てだろうから、機関車なんてどうでもいいのかもしれない。それでもこの作品は、オリエント急行が一般旅行者の移動手段だった時代がうかがえる場面を巧みに描いている。

オリエント急行といえば、2009年に日本でも廃止されるという報道があり、豪華観光列車のオリエント急行の運営会社が否定するという事態になった。このとき廃止されたオリエント急行とは、当時のフランス国鉄がウイーンとストラスブールとの間で走らせていた列車だ。伝統の古い客車を使い、運行距離も短縮され、高速列車の時代から取り残されて廃止に。これが『007 ロシアより愛をこめて』で登場した「一般的なオリエント急行」の晩年の姿だった。

映画『007 ロシアより愛をこめて』に登場する列車

オリエント急行 編成全体が映るシーンはない。客車は6両以上、セリフから最後尾が食堂車と説明されている。また、映画では「オリエント急行」というセリフはなく、国際列車である。ボンドたちは当初、イスタンブールから乗って、ブルガリア国境付近でこっそり降りる予定だった。すでにジェット旅客機の時代であった。ボンドもイギリスからイスタンブールへは、パンアメリカン航空のボーイング707に乗っている。パンアメリカン航空も707も懐かしい
路面電車 序盤。背景にイスタンブールの路面電車やトロリーバスが映っている
蒸気機関車 3軸と4軸の機関車が合わせて3種類。炭水車の大きさを見ると、3軸タイプが中距離用、4軸タイプが長距離用とおもわれる
シルケジ駅 オリエント急行のトルコ側終着駅。映画の中では、イスタンブルール駅・ザグレブ駅・ソフィア駅がこの駅で撮影された