読む鉄道、観る鉄道 (2) 『新幹線大爆破』 - 「ひかり109号」を次々襲うピンチにハラハラドキドキ

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2 『新幹線大爆破』 - 「ひかり109号」を次々襲うピンチにハラハラドキドキ

杉山淳一  [2012/02/14]

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新幹線が登場する映画の名作をひとつ挙げるなら、『新幹線大爆破』で異論はないだろう。このタイトルに当時の国鉄が激怒したというエピソードもあるけれど、テロリストと戦う鉄道マンの姿をかっこよく描く物語。ぜひ現代の新幹線でリメイクしてほしい。

同作品は世界一安全な信号システムを逆手に取ったアイデアも秀逸ながら、キャスト陣の豪華さでも知られている。悪役の高倉健をはじめ、千葉真一、宇津井健、丹波哲郎、渡辺文雄など、当時の大スターが共演していた。現在は渋い父親役が多い山本圭も、本作では若さあふれる共犯者。運転士役には、『太陽にほえろ!』の「ゴリさん」で知られる竜雷太、そして小林稔侍。カット数は少ないものの、田中邦衛、北大路欣也、多岐川裕美、志穂美悦子の姿も。乗客のロックシンガー役で出演した岩城滉一は、これが映画デビューだったという。

1975年東映作品『新幹線大爆破』。DVDも発売中。なお、2月29日まで「創立60周年記念 東映オールスターキャンペーン」として、キャンペーン期間限定価格2,940円で販売されている(販売 : 東映、発売 : 東映ビデオ)

速度連動型爆弾を抱えた「止まれない新幹線」

『新幹線大爆破』は、列車に爆弾を仕掛けた犯人と、国鉄、警察の駆け引き、爆弾列車に乗ってしまった1,500人の乗客のパニックを描くサスペンス作品。映画の公開は1975年7月で、東海道・山陽新幹線の博多開業から5カ月後だった。当時の新幹線は1時間あたりひかり5本、こだま5本を運行していた。現在は1時間あたり最大で13本だが、当時もかなり過密なダイヤになっていた。

その日、東京発博多行「ひかり109号」は定刻の9時48分に発車した。この列車が新横浜を通過した頃を見計らって、主犯の沖田哲男(高倉健)は国鉄に電話をかける。

「『ひかり109号』に爆弾を仕掛けた。この爆弾は時速80kmを超えると起動スイッチが入り、再び時速80km以下になると爆発する。嘘だと思うなら、同様の爆弾を夕張線の貨物5790列車にも仕掛けたから確かめてみろ」

国鉄本社はただちに5790列車の運転士に伝令。通過駅でメモを受け取った9600形蒸気機関車の運転士は驚き、勾配区間上りの手前で機関助手と脱出。速度を落とした貨物列車は、沖田が言った通り爆発した。

新幹線運輸指令の倉持(宇津井健)は、「ひかり109号」の青木運転士(千葉真一)に列車無線で爆弾の存在を通知する。「列車を停めるな。時速120kmを維持せよ」。青木は言う。「でも……、博多に到達したらどうするんですか」

沖田は国鉄に対し500万ドルを要求。カネを受け取ったら爆弾の解除方法を伝えると告げる。爆弾を探す国鉄マン、犯人を探す警察官、交渉と逃走を画策する犯人の駆け引きが始まる。一方、名古屋通過で異常を察した乗客たちがパニックに陥る。

鉄道ファンも満足の特撮映像

世界最速の新幹線には、世界最高の安全装置が搭載されていた。ATC(列車自動制御装置)とCTC(列車集中制御装置)だ。運転士が信号を無視したり、一定時間操作しなかったりという異常事態があれば列車は停止する。走行中に連結器が外れた場合もブレーキがかかる。遠隔装置で列車を止め、信号やポイントを操作できる。要するに、最も安全な対処は「まず列車を止める」だ。

しかし、犯人が仕掛けた爆弾は、「列車を止めてはいけない」ものだった。「ひかり109号」は東京発9時48分、名古屋発11時51分、その後、京都、新大阪、新神戸、姫路、岡山と停まり、ここから各駅に停まって博多着17時36分だった。全区間を時速120kmで走ると、博多着は21時頃になる。つまり事件発覚からのタイムリミットは約10時間。これがハラハラさせてくれる要素のひとつ。

次のハラハラポイントは、間一髪のすれ違いだ。運の悪いことに、先行する「ひかり157号」がBR(ブレーキ)系統の故障で立ち往生。このままでは、「ひかり109号」が追突してしまう。倉持は追突を回避するために、「ひかり109号」を上り線で走らせようとする。ポイントの速度制限は時速70km。ただし、これは安全のためのマージンをとっており、倉持は青木に、「時速90kmで通過せよ」と命令する。安全マージンをとっているとはいえ、初めての経験に、手に汗を握る青木運転士。

そこに新たな問題も起きる。上り線から下り線に戻るポイント付近に「ひかり20号」が接近していた。タイミングを間違えれば、「ひかり109号」と正面衝突の危機! このシーンは本当にドキドキする。映像の車両は模型だが、かなり良くできているし、ドキドキハラハラしているからあまり気にならない。

「ひかり109号」に酸素ボンベとバーナーを搬入するシーンもハラハラポイントのひとつ。「ひかり109号」の隣に救援用新幹線を並走させて速度を合わせ、非常ドアを開けて受け渡そうとする。ただし風圧でかなり不安定な上に、線路間にある標識柱が迫ってくる。並走シーンはさすがに模型とわかってしまうけれど、人々の迫真の演技に見入ってしまう。

そして物語終盤、新幹線は止められるか、じつは爆弾が複数あるのではないか……、などの要素を絡め、最後まで「ひかり109号」の動向に目が離せない。新幹線が無事であってほしいという気持ちとは裏腹に、犯人の事情にも感情移入してしまう。成功してほしい、うまく逃げてほしいという気持ちもあって、「ひかり109号」と同時進行する「犯人と警察との駆け引き」にドキドキする。

「停まったら爆発」というアイデアは新幹線の安全装置以上に画期的だ。1994年に公開されたハリウッド映画『スピード』も、同作品を模倣したのではないかと話題になった。もっとも、創作とはいえ、新幹線の安全神話が崩されたわけで、当時の国鉄が激怒し、この作品への撮影協力を断ったというエピソードがあるのも無理はない。新幹線のシーンは国鉄敷地外などで撮影し、客室内の場面は鉄道車両メーカーから実物を購入し、撮影所で組み立てたという。おかげで東映関係者は約3年間、国鉄に出入り禁止になったという逸話も残っている。

そうした事情もあり、DVDにも収録された予告編はかなり過激で、「世界事故史上最大」「空前の大惨事」「死の旅へ一直線!」といったキャッチコピーのオンパレード。極めつけは「ひかりは今 巨大な棺桶と化した」。いくらなんでもこれはヒドイ!(笑)

とはいえ、作品自体は国鉄マンの優秀さを称える内容となっている。「テロリストに屈しない」「新幹線はどんな悪にも立ち向かう」「世界一安全な列車」、そんなメッセージを発信できる作品だ。だからこそ、JRグループ全面協力のもと、リメイクしてほしいとさえ思うのだ。

『新幹線大爆破』に登場する列車たち

全編を通じて新幹線が走り続ける本作品だが、じつは1970年代の鉄道風景もいろいろと登場しており、興味深い。爆弾の存在証明に使われた夕張線の場面は、夕張で廃線同然だった炭鉱鉄道でロケが行われたという。蒸気機関車は「9600形」だが、これは炭鉱鉄道に国鉄から払い下げられた車両のようだ。貨車は2軸のワム(箱型)、トム(荷台型)、タム(タンク車)が並ぶ。

警察が犯人グループを探す場面では都電荒川線の7000形、7500形が登場。犯人を追い詰める場面では、都営地下鉄三田線の志村車両基地でロケが行われ、都営三田線の6000系が登場する。「ひかり109号」が京都を通過する場面では、近鉄の普通電車も姿を見せている。

1635貨物列車
902貨物列車
スタートから50秒あたりの操車場にて、2軸ワム(有蓋車)・2軸トム(無蓋車)・2軸タム(タンク車)が登場。保有会社名などがテープなどで隠されている
横須賀線111系
(スカ色)
東京駅で新幹線と同じ画面に登場
貨物5790列車 牽引機関車に9600形を示す「9634」のプレートがあるものの、撮影用に付けられたプレートのようだ。北海道炭礦汽船夕張鉄道線の27形(元国鉄9600形49634号)と思われる
「ひかり109号」 本作の実質的な"主役"。走行シーンはK47編成・N1編成・H4編成
「ひかり20号」 「ひかり109号」とのきわどいすれ違いのシーンがある。車両はH13編成
都電荒川線7508号・7506号・7067号 当時、サンシャイン60は建設を開始したばかり。
鬼子母神電停付近の背景にはまだ見えない
近鉄電車 京都線の通勤電車3両編成
都営地下鉄三田線 志村車両基地を犯人と警察が走り抜ける。6000系電車がいくつか登場

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インデックス

連載目次
第62回 『夢より短い旅の果て』 - 彼女が鉄道旅を始めた意外な理由とは
第61回 『ALWAYS 三丁目の夕日』 - 映画の鉄道情景に革命を起こしたVFX
第60回 『オトシモノ』 - 沢尻エリカ主演、北総鉄道・秩父鉄道がロケ地に
第59回 旅情とドラマを感じさせる写真集『世界で一番美しい駅舎』
第58回 『僕達急行 A列車で行こう』 - じわりと上がる資料価値
第57回 『RAILWAYS 49歳で電車の運転士になった男の物語』 - 主役はデハニ50形!?
第56回 『終着駅~トワイライトエクスプレスの恋』 - 食堂車の厨房の仕事を観よう
第55回 『D列車で行こう』 - 廃止予定の鉄道を再生する「会社ごっこ」騒動記
第54回 「マルス」が主役『プロジェクトX 挑戦者たち 100万座席への苦闘』
第53回 初版発行から37年目の新版発売、これぞバイブル『鉄道旅行術』
第52回 鉄道の真価を知る1冊『線路はつながった 三陸鉄道復興の始発駅』
第51回 『きかんしゃトーマス 伝説の英雄』 - 日本生まれの機関車が登場
第50回 『ダージリン急行』 - アメリカ人3兄弟のインド鉄道旅行、その目的は?
第49回 『家族』 - 1970年、長崎から中標津まで3,000kmを鉄道で旅する家族
第48回 『バルカン超特急』 - 国際列車から消えた女! ヒッチコック監督の名作
第47回 『塩狩峠』 - 厳冬の鉄路で暴走客車を止めるため、彼は生命を差し出した
第46回 『釣りバカ日誌15』 - ハマちゃんと秋田美人がE3系で秋田へ
第45回 『ポーラー・エクスプレス』 - 北極点行きの機関車のモデルは実在した
第44回 『海峡』 - 青函トンネルを掘り抜いた男たちと、津軽の人々の30年
第43回 『鉄道員』 - 1950年代のイタリア、鉄道で働く男たち、そして家族
第42回 『喜劇 団体列車』 - 渥美清が四国の駅員を演じる列車シリーズ第2作
第41回 『シベリア超特急』 - 銘作であり迷作。ハリボテの客車が意外と豪華だ!
第40回 『ユーラシアの双子』 死へ向かう女、人生を降りた男、それぞれの終着駅へ
第39回 『沖縄の鉄道と旅をする』 - 沖縄鉄道史の第一人者がガイドする紀行文学
第38回 『銀河鉄道999』 - C62形・スハ43形が宇宙へ、荒唐無稽でも感動の物語
第37回 『江ノ島プリズム』 - なんと、江ノ電がタイムマシーンに!?
第36回 『萌の朱雀』 - 鉄道が来なかった山村の哀愁を描く、尾野真千子デビュー作
第35回 『暴走特急』 - 最も危険なコック、スティーブン・セガールの鉄道旅行
第34回 『百年の時計』 - ことでんとレトロ電車に感動を乗せた物語
第33回 『探偵はBARにいる』 - JR北海道721系の車内で、大泉洋のアドリブが炸裂!
第32回 『だからワタシを座らせて。通勤電車で座る技術!』 - 面白くて役に立つ!?
第31回 『大いなる驀進』 - 寝台特急「さくら」を牽引した、謎の「C62 129」
第30回 『約三十の嘘』 - ほぼ全編「トワイライトエクスプレス」で起きるコメディ
第29回 『おもひでぽろぽろ』 - スタジオジブリが描いた寝台特急「あけぼの」
第28回 『男はつらいよ 望郷篇』 - 寅さん、デゴイチの運転室から追い出される
第27回 『007 ロシアより愛をこめて』 - 庶民派時代のオリエント・エクスプレス
第26回 『東京物語』 - 小津安二郎監督がラストシーンで見せた蒸気機関車
第25回 『地下鉄に乗って』 - 路線網のように巧みな伏線が張り巡らされた物語
第24回 『黒の超特急』 - 山陽新幹線土地疑獄から始まる田宮二郎のハードボイルド
第23回 汽車旅という名の冒険『世界最悪の鉄道旅行 ユーラシア大陸横断2万キロ』
第22回 『奇跡』 - 九州新幹線、時速260kmの列車がすれ違うと「何か」が起きる
第21回 『阪急電車 片道15分の奇跡』 - この優しさは、きっとどの路線にもある
第20回 『新幹線をつくった男たち』 - 昭和30年代、その計画は荒唐無稽と言われた
第19回 『点と線』 - 東京駅「4分間の見通し」は日本文学らしい時刻表トリック
第18回 『交渉人 真下正義』 - 東京の地下鉄で爆弾を積んだ「クモ」走り回る!
第17回 『駅 STATION』 - 北海道・留萠本線がにぎわった頃、高倉健が残したドラマ
第16回 『ハチ公物語』 - 変わりゆく渋谷で語り継がれる珠玉のエピソード
第15回 『戦場にかける橋』 - 戦略の中の鉄道、そこにあるドラマ
第14回 『皇帝のいない八月』 - ブルトレブームの子供たちを怖がらせた陰謀物語
第13回 『カサンドラ・クロス』 - 細菌兵器に感染したヨーロッパ国際特急の運命
第12回 『旅の贈りもの 0:00発』 - ぶどう色EF58とマイテ49のミステリートレイン
第11回 『大いなる旅路』 - 脚本・新藤兼人、主演・三國連太郎で描く機関士人生
第10回 『狙った恋の落とし方。』 - 中国で"北海道ブーム"起こした婚活映画
第9回 『サブウェイ・パニック』 - 1970年代のニューヨークと地下鉄の情景を描く
第8回 『東京駅物語』 - 明治、大正、昭和…、小説に息づく東京駅と人々の生活感
第7回 『アンストッパブル』 - 実話を元にした列車暴走アクション
第6回 『相棒 season 6』 - 日本の豪華列車で起きた密室殺人事件に杉下右京が挑む
第5回 『オリエント急行殺人事件』 - 豪華個室寝台車で起きた密室殺人事件!
第4回 『大陸横断超特急』 - アメリカの鉄道旅行はハプニング満載!?
第3回 『天国と地獄』 - ビジネスマンの苦悩と"刑事魂"乗せた151系「こだま」
第2回 『新幹線大爆破』 - 「ひかり109号」を次々襲うピンチにハラハラドキドキ
第1回 『喜劇 急行列車』 - あの"寅さん"が「さくら」と共演

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