低線量・高画質なレントゲン撮影を可能にした富士フイルムの「CALNEO Smart(カルネオ スマート)」にフォーカスした対談。前編に引き続き、企画開発を担当した富士フイルム メディカルシステム事業部 モダリティーソリューション部 商品企画グループの高見実氏と、日本のものづくりの開発支援を進めるプロトラブズ合同会社 社長 トーマス・パン氏による対談をお届けする。

富士フイルム メディカルシステム事業部 モダリティーソリューション部 商品企画グループ 高見実氏(左)、プロトラブズ合同会社 社長 トーマス・パン氏(右)

現場のニーズに応えた形

パン氏:CALNEO Smartを医療機器として世に出すためには、さまざまな基準をクリアする必要があったかと思いますが、乗り越える際のハードルなどはありましたか?

高見氏:ISOやIECといったすべての医療機器の規格を得て、はじめて医療薬事を取得することができます。このうちリスクマネジメントという評価項目があり、CALNEO Smartを使うことでどんな危険リスクが起こりうるのかこと細かく抽出し、その一つひとつに対策を打つ必要があります。これが非常に大変で、評価の時はハラハラしましたね。しかし、このリスクマネジメントはお客様の安心につながりますので、とても重要です。

パン氏:CALNEOを手に持ってみてわかる一番大きなリスクは、おそらく「落として怪我をする事」でしょうか。軽くすればもちろんリスク低減に繋がりますが、今度は耐久性の確保などが課題になったりするので、この点には相当悩まれたのではありませんか?

高見氏:おっしゃる通りで、どうすれば軽く、丈夫にできるかについては、技術課題としてずっと考えています。当社の従来品と比べて重量を1kgも軽量化したCALNEO Smartは、フレームの材質をアルミからマグネシウム合金に変更しました。また、形状でも工夫を凝らしています。単純な四角形ではなく、貝殻のように側面を削ぎ落とした曲線形状を描くことで、応力を分散させ、荷重強度や曲げ強度を持たせるようにしました。

パン氏:そういえば、テレビのフラットパネルと同じような構造をしていますね。強度だけでなく平面度を保つ事ができる形ですね。

高見氏:実は、CALNEOに曲線形状を選んだ目的も、強度だけではありませんでした。病室でレントゲンを撮るとき、寝ている患者さんの下にカセッテを挿し込む必要があるのですが、これが四角いとカドがあたったり、摩擦でシーツも一緒に動いてしまうんです。これは放射線技師からなんとかならないかとずっと言われていた悩みの種でした。病室のベッドには、火傷を負った患者さんのためのウォーターベッドなど、さまざまな種類がありますから、その中で何が適しているのか、いろいろなパターンの模型パネルを作り、どれが一番負荷をかけずに済むか、こうした形状を探っていった結果がこの形なんです。

パン氏:医療現場のニーズに誠実に応えた結果でもあるのですね。しかし、設計者視点で考えると、シェル型は内容積が少なくなってしまうので「この形では基盤や部品が入りきらない」といったやり取りもあったかと思いますが、その点はいかがですか。

高見氏:確かに、やり取りはいろいろありました。ですが最終的には、患者さんへの使い勝手を考えて、無理を叶えることができました。

医療現場のニーズに応えたデザイン

夢はひとつひとつ叶えていく

パン氏:CALNEO Smartはグッドデザイン賞を受賞したそうですが、デザイン性にも富んでいるように思います。レントゲン撮影用のカセッテをこのような形にしたのは、御社が初めてなのでしょうか?

高見氏:はい。デザインを考えていく上で、実際に使用していただく20代30代の技師さんたちが普段どういったものを使っているのか、医療機器以外も含めてヒアリングをしました。今の時代に合った装置としてのデザインを目指すためです。

パン氏:医療機器としての機能スペックはもちろん欠かせないと思いますが、購入判断される方の感性と合うかどうかという点も非常に重要ですよね。

高見氏:これまでの医療機器は白色がほとんどでしたので、我々としてもシルバーの色を採用するときは半信半疑でした。しかし、実際に世に出してみたら非常に好評で、若い技師さんの感覚に合わせて良かったと思っています。

パン氏:デザイン面以外では、現場からどのような反応がありましたか?

高見氏:形状に関しては狙い通りでして「使いやすくなった」「作業負荷が減った」という声を多くいただいています。また、画像処理技術の「バーチャルグリッド」は、放射線技師の皆さんがずっと「こんなことができれば……」と夢のように語っていたものだっただけに、それを実現できたところに驚きと感動をいただいています。「次はどんな夢を叶えてくれますか?」というお声をいただいたりもして、非常に嬉しく思っております。

パン氏:それは製作者冥利に尽きる言葉ですね。素晴らしいです。

横断的組織が生む新技術

パン氏:医療分野のマーケットに対しては、富士フイルムさんとして今後はどのような展望をお持ちなのでしょうか。

高見氏:「ヘルスケア」という大きな枠組みは富士フイルムの重点事業の一つです。X線画像診断装置を扱うメディカルシステム事業部もヘルスケアの枠組みに属しており、これからも業績を伸ばしていくことが私たちの使命です。

パン氏:今回、CALNEO Smartを作るにあたって、御社で展開されている他の商品で培った技術があったからこそできた、という部分などはおありでしょうか?

高見氏:カセッテの全体に施した当社の抗菌コート技術「HYDRO AG」には、銀系抗菌剤が使われています。当社が創業以来作り続けている写真フィルムには銀が使われており、ここで培った銀の知見を抗菌コートに活かしています。これにより、従来の抗菌コートと比べて約100 倍の抗菌性能を実現しています。このほかに、デジタルカメラに用いられている画像処理技術など、ベースになったものもあります。

パン氏:そうした組織的な繋がりに関しては、どなたか上層部の方がトップダウンでドライビングした結果なのでしょうか? それとも、たとえば部門間での交流を推進できるような社内組織メカニズムがもともと御社には備わっていたのですか?

高見氏:画像系に関しては母体が一つになっているため、医療用に限らず「画像技術」全体を俯瞰できる組織体系になっています。また、デザイン部門も同様なので、新しい分野に進む際は横展開しやすい環境にあると思っています。

パン氏:それでは、CALNEO Smartの展望について、お話いただける範囲で教えていただけますか。

高見氏:基本的に、簡便性・即時性・被ばく低減の三つは市場からの終わりがないニーズですので、これらのニーズに応えるべくさらに注力して参ります。その際、運用をガラッと変えてしまうと新たなリスクが生じて医療事故につながる恐れがありますから、病院それぞれのワークフローに合わせた省作業化を提案していきたいと思います。

パン氏:これからの社会的な要請を考えても、被ばくリスクが低減することはますます重要になっていくと感じています。また、緊急の場面でも、どのように骨折しているのか現場やその近くですぐに分かるようになれば、処置が変わっていくのでないでしょうか。そういった意味でも、CALNEO Smartがもたらした「スピードと携帯性」は新たな価値をこれからの医療業界に提供していくと思います。非常に良いお話をいただけました。ありがとうございました。

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