「スマートグラスを用いた現場作業の支援システム」を開発したNTTデータ 基盤システム事業本部 セキュリティビジネス推進室 シニアスペシャリストの山田達司氏と、同室 リューション担当 主任の小山武士氏、同室 ソリューション担当 主任の谷澤幹也氏の3名と、プロトラブズ合同会社 社長トーマス・パン氏らによる座談会。後編では現場からのフィードバックと市場への導入についてお届けする。

現場が求める機能の改善

パン氏:「スマートグラスを用いた現場作業の支援システム」について、現在は自社のサーバー保守作業などで活用しているとの事でしたが、実際に使ってみることで初めて見えてきたことなどはありますか?

同室 ソリューション担当 主任 谷澤幹也氏

谷澤氏:やはり現場の映像が見えるという利点は大きいようです。電話だけではなかなか伝わりづらいことが、映像を介せば意図が明確になりますので。ただ、スマートグラスを少し重く感じたり、あるいは映像の画質が粗かったりなど、ハード面での課題もあるようです。

小山氏:どうも映像面を重視した評価をされてしまう傾向がありまして、確かにその点ではスペック的にまだ不十分なのかもしれません。ただ、監督者が映像をずっと見続けるのでは、現場に行くのと拘束時間がそう変わらなくなってしまうので、使い方の違いを提言していく必要があると思っています。

パン氏:現場の方から「少し重い」という意見があったとのことですが、例えば10分だけ着けるようなものならばともかく、作業中のあいだ7時間も8時間も着けるとなると、重さも気になってくるのでしょうね。かといって、必要なときに保管場所に行って必要時間のみ着用するようでは、一気に実用性が下がってしまうのではないでしょうか。

小山氏:現行のスマートグラスは50グラムほどの重量です。確かに普通のメガネよりは重く感じますが、当初に比べるとだいぶ着け心地は良くなってきていると思います。

パン氏:そうですか。軽量化も含めてハードウェアの使いやすさや機能の改善については、ハードウェアメーカーとなにか取り組みをされているのでしょうか?

山田氏:3Dプリンタを使ってアタッチメントの部分を自社で試作するなど、部分的なことは始めています。ただし、デバイス全体を作るところまでのノウハウはありませんので、やるとすればメーカーさんといっしょに独自モデルを作って頂くということでしょうか。

谷澤氏:現場で使うことで判明した問題としては、騒音下では音声認識機能が使えないということもありました。

山田氏:はじめは静かな環境下でテストしていたので、音声認識もきちんと動くし、相手の声も聞こえると思っていたのですが、現場にお持ちすると動かないということが起きました。サーバールームもファンが回ってたりして、けっこうな騒音があるんです。

小山氏:ノイズキャンセル機能を入れることによって、定常的に音が発生するような環境下での使い心地はだいぶ良くなったのですが、工事現場など突発的に騒音が発生する場所での対応には、だいぶ苦労しています。それから、ノイズキャンセルを効かせているがゆえに、他人の声を音声認識してしまうということも起きています。しかし、NTT研究所には自分の声だけを拾う技術がありますので それと組み合わせて100dB程度の高騒音下やアタックノイズがある場所でも音声会話ができる機能を追加していく予定です。

UIの向上が最大のポイント

パン氏:私が現場作業の管理者をやっていたころは、「その基盤まわりの接続環境さえ見ることができれば解決できてしまうような事象のために、3時間以上も運転して現場に行く」といったような事もありました。スマートグラスによる現場支援は、コスト削減に直結すると思うのですが、ポテンシャル・カスタマーなどには、この点についてどのように受け止められているのでしょうか? 「すぐに導入する」、「半信半疑」、「絶対使わない」など色々な反応があるとは思いますが。

小山氏:皆さん良い「他社事例」を待たれている傾向にあると思います。そういった意味で、まずは自社が事例となり、続くアーリーアダプターの方々で事例を作ることができれば、拡がっていくだろうと考えています。

パン氏:スマートグラスを普及させるために、越えるべき最大の壁は何だと思いますか?

小山氏:私はユーザーインターフェース(UI)だと考えています。使いやすさや着け心地といったユーザーに触れる部分が最も重要でしょう。いくらシステム自体が良くても、操作がややこしいと普及しないと思います。

パン氏:確かに、いくら業務が効率化すると言っても、使い方が難しくて、多くの時間を割かなければ覚えられないという場合には、ハードルが高くなってしまいますよね。

小山氏:ただ、機能性が上がったりして効果が見えてくれば、多少は覚える努力をしてもらえると思っています。スマートフォンも最初はタッチパネルがよく分かりませんでしたが、便利な機能がたくさんあることが伝わり、いまでは多くの皆さんが使いこなせるようになっています。使い勝手と機能性を比べて、機能性が上回った時点で普及し出すのではないでしょうか。我々が取り組んでいる、頭の傾きで操作する「ジャイロマウス」や実用レベルの音声認識などは、まだ他社さんがやっていないので、差別化になると思っています。

山田氏:UIについては、指をカメラの前で動かして操作するシステムを試行しています。まさにSF映画のように、空中に表示された画面に指を触れることで認識させるというもので、これが実現できれば、より直感的な使いやすさに繋がると考えています。

操作の説明を受け、実際に試してみるパン氏

ウェアラブルデバイスとインダストリー4.0

パン氏:ウェアラブルデバイスはIoTの世界ではインターフェースとして必須だと思いますが、最近話題になっているインダストリー4.0で有名なドイツメーカーさんがこうした作業者の環境を改善するシステムや機器を作っているという話はあまり聞きませんね。

小山氏:ドイツが進めている「インダストリー4.0」は、人というより工場や機械のオートメーション化だったり、インテリジェント化がメインなので、ウェアラブルという作業者の領域にはあまり触れられていないようです。

パン氏:スマートファクトリーという構想においてもすべてを無人化にして自動化するのは理想的ですが、スマートグラスのようなデバイスを活用する方が現実的かもしれませんね。一人のベテランの提供できるクオリティが10人や20人に波及すれば、素晴らしい改善になるのではないでしょうか。

山田氏:人の手を必要としなくなる分野は部分的にはあるでしょうが、すべての工程において、まったく人が関わらなくて済むようにはならないのではないかと考えています。したがって、人の手を対象とした支援をすることは必ず必要になり続けると信じています。

応用が拡がるシステム

パン氏:このシステムについては、NTTデータさんとエンドユーザーさん・ハードウェアメーカーさんとで進められていると思いますが、それ以外の方とコラボレーションするというような展望などはありますか?

山田氏:さきほどご覧頂いたように、作業手順やマニュアルをすぐに参照できることが重要な機能の一つですので、ビジネスプロセスに関するコンサルをやっている方々との協業に、可能性があるのではと考えています。ペアを組むことで、職人さんが独自ノウハウでやられているような作業を明確化したり、今の業務を分析して、その上でこのデバイスを使えば効率的ですよ、という提案ができるようになればと思っております。

パン氏:我々も非常に興味があるので、自社でもぜひ使ってみたいシステムです。弊社はカスタムパーツの短納期製造を専門にやっており、このようなシステムを活用することによって、各カスタムパーツに対する専門分野の知見をいつでも共有できる環境づくりが重要です。それは我々だけでなく、ものづくりメーカー共通の課題でしょうから、ニーズも将来性も凄くあるのではないかと思います。

山田氏:経営層の方には非常に好意的に見て頂けているのですが、実際に現場の方に使ってもらえるかどうかがこれからの課題です。

パン氏:そうですね。現場としては、経営管理的な有用性があったとしても、「重い」「充電の管理が面倒」といった目の前の理由で使われないこともよくありますからね。

山田氏:おそらく、こういった保守点検や現場作業といったマーケットは巨大だと思います。そこに参入するときには、スマホやタブレットといった仕組みが既にありますので、現場の方にご納得頂けるのではないでしょうか。さらにこのようなシステムを、ハンズフリーに見合うコスト差で実現することが、我々に課されているミッションです。

パン氏:ぜひ大手から中小企業まで導入できるシステムを作って頂いて、こういったものを工場の中で日常的に利用するようにして頂き、「これが無いと不便」「使わないと作業が増える」と言われるような世界にしてほしいと思います。

山田氏:「使ってみたい」「遊んでみたい」という初心を忘れずに、こうしたマーケットの市場を切り開き、便利なシステムをつくっていけたらと思います。