ブリヂストンの次世代低燃費タイヤ技術「ologic(オロジック)」を開発した松本浩幸氏、桑山勲氏と、プロトラブズ合同会社 社長&米Proto Labs, Inc.役員 トーマス・パン氏による対談。後編では、その技術が完成するまでの道のりと、将来におけるタイヤの方向性についてお届けする。

「常識外れ」を認めてもらうには

パン氏:常識を越えるところからologicのプロジェクトはスタートしたわけですが、一方で、工場では「同じものをいかに同じ品質でつくるか」と真逆の思想があるかと思います。そういった製造サイドの方々もこのプロジェクトに入って進められたのでしょうか?

桑山氏:まずはパイロットプラントとの会議を設定して、協力を取り付けるところからのスタートでした。我々はこれまでも、工場の人たちと協力して新しい構造をモノにしてきた経験があります。彼らは、我々がそういう人間だと分かってくれていますので、また凄いことをやってくれるのか、という期待感を持ってもらうことができました。

松本氏:レースの世界では「何でもあり」なんです。新しいやり方を試してみることは当たり前のことですし、我々は「新しいことをする」ことに慣れていました。

パン氏:しかし、量産やその後の拡販や事業として考慮した場合、規格外のタイヤをつくることについては「そんなことをやって大丈夫なのか」という話はありませんでしたか?

松本氏:そこで作戦を立てたんです。まずは世の中に認知してもらおうと、学会発表を始めました。研究成果を発表するだけでしたら、トップマネジメントの承認が無くてもできますから。桑山は留学経験があり、海外での学会発表にも慣れていたので、彼にあちこちで発表してもらいました。

桑山氏:アメリカ、日本、ドイツという順番で発表しました。当初はなかなか信じてもらえないこともあったのですが、ドイツの時には、ヨーロッパだけでなく日本からも自動車メーカーの方がいらしていて「ぜひテストしてみたい」という声を受けるようになりました。認知されるにつれ、各自動車メーカーさんから問い合わせが入ってくるようになり、ずいぶん説明してまわりました。

パン氏:学会を通じて、先に外の世界に認めてもらう作戦だったわけですね。しかし、よっぽど魅力のあるものでなければ学会から認知を促すというのは難しいのではないでしょうか。それでは、この魅力的な開発品を実際に製品にするまでにもっとも大変だったことを教えていただけますか?

桑山氏:予定していた金型のサイズが設備に対応していなかったり、タイヤはあるけど車に装着できなかったりと、テストするまでにいろいろ苦労しました。

松本氏:我々は車の図面を持っているわけではないので、現物合わせの部分もあります。ですから、思わぬことが多々起きました。

桑山氏:その最たる例は、タイヤがフレームに当たってしまい、ハンドルが切れなかったことです。ガレージから出た。曲がらない。まっすぐにバックして戻って終わり。ということもありました(苦笑)。

未来のタイヤが向かう先

パン氏:ologicは「この高機能タイヤに合う新型車を開発してください」という凄いメッセージを発信しているように感じますが、このように、タイヤメーカーさん主導で新製品を提案していくということは今まであったのでしょうか?

松本氏:これまではありませんでした。「車が変わろうとしている過渡期だからこそ、新しいものを出せるんじゃないか」「ゼロからタイヤを見直してみよう」と、探っていった結果できたことだと思います。

パン氏:ologicのようなかたちのタイヤは、今後、競合他社が入ってくる世界なのでしょうか?

桑山氏:入ってくるかと思いますが、我々としては競合他社は歓迎なんです。このタイヤに合った車は、既存のプラットフォームでつくることはできません。専用設計をしなければなりませんし、新しいラインや工場が必要です。大変な投資を伴うことは間違いありません。我々だけがやっていたら自動車メーカーさんも不安になるでしょうし、複数の会社が活発に新しいタイヤを生み出すことが望ましいと思います。ただ、我々は先駆者として技術を常に高めていますし、新たな要素技術も準備しています。

パン氏:材料を含めて、要素技術もまだまだ進歩の余地があるということですか?

桑山氏:あります。ologicは従来のタイヤとは違う特性を持っているので、まだ分かっていないこともあるんです。それを解明していくことで、着眼点が見えてきます。

パン氏:「未来のタイヤ」はどのような方向性が考えられるのでしょうか?

松本氏:タイヤは「車についてなんぼ」で、単体の製品ではありません。車がどう変わっていくか、それを見据えて、車の進化を助けつつ、可能ならば車の進化を主導していくような形に持っていければと思っています。

パン氏:お二人からは、タイヤに対する情熱がひしひしと伝わって来ました。さらに、まだない未来のタイヤに対してチャレンジしていることにはなによりも感銘を受けました。

松本氏:ありがとうございます。ologicをはじめ我々は常に技術を高め新しいタイヤの開発に取り組んでいます。今後もこの姿勢を変えることなく、車の未来をタイヤメーカーとして牽引していきたいと思います。