イメージスキャナ業界において世界トップシェアを誇るPFUは、2014年にバッテリー搭載の携帯型としては世界最軽量・最小のモバイルスキャナ「ScanSnap iX100」を発売した。他社の追随を許さない製品力の秘訣はどこにあるのだろうか。イメージビジネスグループ 統括部長の松本秀樹氏と、プロトラブズ合同会社社長兼米Proto Labs, Inc.役員のトーマス・パン氏による対談を、前後編でお送りする。
※ バッテリー・Wi-Fi搭載A4シートフィードスキャナにおいて、PFU調べ(2014年4月1日現在)

プリンタからスキャナ開発へ

ScanSnap iX100

トーマス・パン氏(以下パン氏):はじめに、御社がスキャナ開発に取り組むことになった経緯や歴史について教えていただけますか。

松本秀樹氏(以下松本氏):PFUという会社は、もともと富士通グループの一員としてオフィスコンピューターをつくり、さらに周辺機器の開発もしていました。その中でもドットインパクトプリンタの開発を得意としていたのですが、1982年からエンジニアたちが新たに取り組み始めたのが、スキャナだったんです。

パン氏:なるほど、土台としてプリンタの技術があったわけですね。

松本氏:ええ、最初にマーケットとして立ち上がったのは海外でした。いまでもドキュメントスキャナのマーケットで一番大きいのはアメリカです。2001年に親会社からスキャナの事業を譲り受けることになり、独自に海外市場の開拓を進めることになったのですが、この時、業務系だけでなくコンシューマーやオフィスユーザー向けに家電感覚で使えるスキャナを提供できないかと考えました。こうして「ScanSnap」シリーズの開発が始まりました。

ScanSnap iX100の飛躍

プロトラブズ合同会社社長&米Proto Labs, Inc.役員 トーマス・パン氏

パン氏:「ScanSnap iX100」は、2000年代から開発されていたシリーズの最新機としては、徐々に進化していったものなのでしょうか。それとも、何か大きな飛躍があったのでしょうか。

松本氏:速度の向上や読み取りのクオリティアップ、アプリの拡充は毎回のテーマですが、iX100はモバイルバッテリーを搭載し、なおかつWi-Fi機能を備えた、完全にケーブルフリーのスキャナです。そういった意味で、大きく飛躍したプロダクトだと考えています。バッテリーを積んだスキャナとしては世界最小・最軽量でして、コンパクトな筐体にデュアルコアCPUの「GIプロセッサ」を積み、高速の画像処理・Wi-Fi通信をしっかりマネジメントしています。

パン氏:なるほど、プリプロセッシングを経たデータだから、Wi-Fiでも高速で飛ばせるわけですね。

松本氏:実際にスキャンをしてデータを飛ばす速度は、使っていただくと分かると思いますが、"異次元のサクサク感"を提供していると思っています。「ユーザーにストレスを与えず、ワンプッシュで簡単に」をずっとコンセプトに掲げていますが、iX100はそれをWi-Fiとバッテリー搭載で実現しました。

パン氏:お話をうかがっていると、この製品は本当に先駆的なのだと感じます。

いつも手元にあるスキャナ

株式会社PFU イメージビジネスグループ 国内営業統括部(兼)営業支援部 統括部長 松本秀樹氏

パン氏:ScanSnap iX100はデザインのバランスがとても整っていますね。シンプルですが、ふたを開けた内側の樹脂面が鏡面仕上げで高級感がありますし、ランプの明滅の仕方も優しげです。

松本氏:ScanSnapシリーズは、イタリアミラノ在住のデザイナーであるサトジさんにお願いして、業務系のデザインとは異なった風合いを出しています。OpenFactoryというパートナー会社が提供しているサービスとなりますが、カバーもバリエーションを選べたり、オリジナルデザインを作れますので、自分なりのスキャナにカスタマイズすることができます。

パン氏:この「ものさし」のカバーデザイン、いいですね。現代は使う側の感性が高まっていて、ある製品を自分の生活の中に取り入れるのであれば、より気に入るものを選ぼうという傾向が強いと思います。

松本氏:サードパーティさんが、愛着が湧くようなオリジナルケースやオプション品といったアクセサリを積極的に作ってくださっていて、それもまたうれしく思っています。

最小・最軽量を目指して

パン氏:データ処理のためにデュアルコアのCPUを積んでいるとお聞きしましたが、こうするとさらに電力が必要となるでしょうが、このサイズに納めるためには、今までの重さの概念を覆すような開発の努力があったのではないでしょうか。

松本氏:小型軽量化という意味では、非常に泥臭い話ですが、とにかく無駄なスペースはすべて排除するように最初から取り組みました。普通ならどうしても内部の構成上デコボコしてしまうのですが、隙間を縫うように部品を配置することで、軽量・小型化を突き詰めました。

パン氏:材料に関しても工夫されたのでしょう。

松本氏:小さくて軽いということは各部が薄くなるので、耐久性の不安が残ります。筐体はふつうのプラスチックに見えますが、強度が必要なところは硝子繊維入りのものを使っていて、落下などの耐衝撃性を強化しています。

パン氏:実は私も御社のスキャナのユーザーなのですが、ローラ部分のゴムの粘着性など、紙を仕分けする力が強いと感じています。

松本氏:われわれは業務用スキャナにおいて、グローバルシェア50%を越えていますが、世界中の非常に過酷な環境、寒いところから暑いところまで、湿度が違うところでも的確に読み込ませることが求められています。自動車で例えるなら、ラリーをやっているようなものです。こうして培った技術をダウンサイジングして、ScanSnapにフィードバックしているわけです。確実に給紙するということは、非常にアナログな技術ですが、私どもが専業のスキャナメーカーとして持っている一番の強みだと思います。

パン氏:揺るぎない強みがおありですね。そんなPFUさんが今回の開発で、特に苦労した点があれば教えていただけますか?

松本氏:コンシューマー向けに品質を保証したバッテリーをスキャナに搭載するのは初めての試みでしたので、何からやっていいか分からなかったのが正直なところです。世界各国の安全規格に対応するために、一つ一つ積み重ねていきました。それから、これはどの製品でもそうなのですが、お客さまのちょっとしたストレス、ちょっとした違和感をひとつずつ取り除くという視点を特に重要視して、開発を進めています。

パン氏:それがPFUさんの"文化"なんですね。

モバイルスキャナ「ScanSnap iX100」の特徴はハード面だけにとどまらない。次回は、さまざまなアプリとの連携による活用法や、PFU流の"コミュニティ作り"についての対話をお届けしよう。