パナソニックが6月に発売したばかりの「HX-A500」は、アクションカメラ市場では世界初となる4K30pという超高画質を実現した。カメラ部と本体部の二体型スタイルとなっており、軽量なカメラを頭に装着することで、臨場感ある「目線映像」を記録することができる。この画期的なウェアラブルカメラを開発したパナソニック イメージングネットワーク事業部商品技術 グループマネージャーの森勉氏と、プロトラブズ社長トーマス・パン氏とによって行われた対談を前後編でお届けする。

躍動感を生み出す超解像度

プロトラブズ合同会社社長&米Proto Labs, Inc.役員 トーマス・パン氏

トーマス・パン氏(以下パン氏):先ほど実際にHX-A500を着用してみましたが、重さはそれほど感じませんでした。カメラの位置も目線に入らない程度でいいですね。

森勉氏(以下森氏):カメラ部は31グラムしかありません。ずっと装着するものなので、負担にならないように小型軽量に開発しました。カメラの画角は最大で約160度ですので、上下を合わせれば、ほぼすべての視界が入ります。

パン氏:これで撮影された屋久島の映像を4Kテレビで見せてもらいましたが、あれはすごい。圧倒されました。プロが大きな本格的なカメラを担いで撮影した映像としか思えませんね。

森氏:感動の共有ができることが、高画質の魅力の一つですよね。これがリアルな追体験だと思います。さらに、動画のいいところから静止画を抜き出せば、約800万画素の写真になりますよ。

パン氏:なるほど、4Kなので、動画の静止画がそのまま写真に使えるということですね。これだけの画像が撮れるとは思いませんでした。あの躍動感と奥行きはまさに解像度の賜物なのでしょう。

森氏:2次元ですが、3次元のように感じますよね。高解像度が立体感を生み出しているのです。

パン氏:しかし、この小さなカメラであの映像を撮ったなんて、誰も信じてくれないでしょう。それほど美しい映像でした。

森氏:そう言っていただけると、苦労して開発した甲斐があります(笑)

撮ることを意識しないカメラ

パン氏:「HX-A500」は、パナソニックさんのウェアラブルカメラでは2機種目にあたる製品ですが、そもそもウェアラブルカメラを開発することになったのは、どのような経緯だったのでしょうか?

パナソニック イメージングネットワーク事業部商品技術 グループマネージャー 森勉氏

森氏:企画がスタートしたのは2011年の後半です。当時は、サーフィンなどのエクストリームスポーツでアクションカメラが使われはじめていました。新たに興隆したアクションカメラ市場に対し、どうすべきか様々な形を検討しました。パナソニックという会社の文化を踏まえると、エクストリームスポーツだけでなく普段から使ってほしいという考えになります。すると、ヘルメットにカメラを付けるなんてありえない。しかし、ハンズフリーと目線映像にはこだわりたい……そこで、頭のそばに着けることができるようにしようという方向になりました。

パン氏:確かにエクストリームスポーツというと、従来のパナソニックさんのイメージからはやや離れた、特殊なマーケットのように感じますね。ただ、映像や録画装置については以前から製造されていましたので、製品ラインアップのストライクゾーン内であることは間違いないように感じますが、いかがだったのでしょうか?

森氏:もちろん、ハンディのビデオカメラをずっと作っていますので、業界が縮小傾向にある中、どのように事業を発展させていくべきかということは常に考えていました。結局、お客さまに使っていただけないと、商品そのものの意味がなくなってしまうわけです。使うシーンを、どうすれば増やせるのか。実はハンディのビデオカメラって、売れてはいますけど、実際にはあまりユーザーに使ってもらえてないのです。

パン氏:撮影行為そのものに興味があるかどうかは人にもよると思いますが、確かにビデオカメラって「撮ろう!」というワンアクションを起こさないと、なかなか撮らないものかもしれませんね。

森氏:そうなんです。日本では、運動会などの行事やイベントで使われるケースが多いのですが、それ以外は活用機会がさほどありません。普段からビデオカメラを使ってもらうにはどうしたらいいかを考えた末、「身に着けるだけで、撮ることを意識しないカメラを目指そう」となり、プロジェクトがスタートしました。

課題を乗り越えるために培われてきた技術

パナソニック 4Kウェアラブルカメラ 「HX-A500」

パン氏:アクションカメラのマーケットでは、競合他社のカメラは一体型が多いのでしょうか?それとも二体型が多いのでしょうか?

森氏:二体型というのは、パナソニックが初めてですね。他は全部一体型です。われわれはヘルメット以外の方法で頭に着けることにこだわったので、路線が離れていったのだと思います。ただ、ヘルメットではなく、頭や帽子などに着けていると、当然重さで下がってきてしまいます。機能性と実用性のバランスを取るためのベストな大きさを探った結果、現状の31グラムという軽さに落ち着きました。

パン氏:軽量化というのは技術的には厳しいですよね。とくに、この新機種では超広角・防水・高画質や液晶モニターなど、高機能を両立させているわけですから。

森氏:さらにマイクもありますし、そのうえ水深3メートル/30分の完全防水です。プールに飛び込むと3メートルくらい潜ってしまいますから、それでも大丈夫な防水を目指しました。

パン氏:そうですか。どんな環境でも利用できそうな、かなりタフかつ高グレードな仕様になっているんですね。では、この機種を作るにあたって、一番難しかったところはどこですか?

森氏:電力ですね。この大きさと防水を両立しようとすると、最終的に、電力をどれだけ抑えられるかが問題になるんです。電気回路でのブロックごとに、ここはコンマ1ワット下げようということを、基板上でひとつずつやって、トータルで下げたという経緯があります。

パン氏:前のモデルである、「HX-A100」と比べてもさらに省電力化されているということでしょうか?

森氏:A100と同じことを行っていたのであれば、消費電力は下がっています。ところが4Kという解像度を実現するにはもっと電力が必要なので、結果的には「どないせい言うねん!」と……思わず大阪弁がとびだしてしまうほどの無理難題を解決しなければならない、大掛かりな電力省力化プロジェクトになってしまいました(笑)。

パン氏:たいへん苦労されたということがよく伝わってきました(笑)。色々な場面での利用を検討した機種だけに、実機による現場フィールドテストなども数多く実践されたのでしょうか。

森氏:ええ、特にサイクリング時の撮影については、実際に自分たちで自転車に乗って何度もやってみました。アスファルトは平らのようでガタガタしていますし、段差でガンッという急な衝撃が入ります。そういう振動対策のために、手ぶれ補正のチューニングを入れました。

パン氏:ハードとソフト両者のハイテクが本当に駆使されているようですね。私は以前、御社のビデオカメラの樹脂筐体部分の開発のお話を聞かせていただいたのですが、樹脂部分の超薄肉の構造や寸法精度への徹底的なこだわりあったことが、非常に印象に残っています。そのようにして突き詰めてきたことが、「小型化」や「軽量化」の技術につながっているのではないでしょうか。

森氏:ありがとうございます。おっしゃる通り、これだけ小さくて軽いと、素人目には様々な革新技術が生かされているとは思われにくいかも知れませんが、実は我々が今まで培ってきたものが、たくさん詰め込まれているんです。

4K画質の臨場感を伝えるウェアラブルカメラ「HX-A500」は、ユーザーからのどのような声を元に作られたのだろうか? 後編では、ユーザーの利用スタイルと、今後の発展性についてお伝えする。