シヤチハタ株式会社は、スタンプ台をはじめとする捺印具や筆記具を多数展開し、その製品群は企業の風景の一部と言っても過言ではないでしょう。しかし、同社が展開するのは今や事務用品の枠を超え、今回ご紹介する「おなまえスタンプ おむつポン」のように、私たちが日常生活の中で使う製品にまで広がってきています。その開発にはインキを使う同社ならではの要件があり、ハードの設計にも貢献しているのがネットでたのめる射出成形「Protomold」です。

課題
- インキに対する耐溶剤性を持つ材料での試作を短時間で実施
- 高い品質を維持しながら開発全体の業務を効率化
- 自信と確信をより強く持てる設計プロセスを実現

解決
- 任意の材料が選択でき、かつ短時間で試作できるProtomoldの活用
- すぐに成形性が分かる見積りと技術的な回答もすぐ得られるサービス
- 短納期かつ安価な金型の活用により量産検討をフロントロード

インキを扱う製品の要件を考慮しながら迅速な試作を実現

シヤチハタ株式会社では、約15年前から3D CADによる設計を推進し、設計業務の効率化をはかっている他、3Dプリンターの活用にも早くから取り組んでいます。それにも関わらず、短納期射出成形を同社が活用するのには大きなわけがありました。それがインキです「。試作においても、素材が耐溶剤性を持っている必要がありますし、経時変化、気密性など様々な要件を満たしている必要があります。短納期での試作を実現しながら、材料選定、試作評価、設計検証できる、という要件を満たすことができたのがProtomoldなのです」と、商品企画・開発部 副部長の太田剛俊氏は述べています。

「おなまえスタンプ おむつポン」は、おむつに名前を押すというニーズに応えて開発されました。保育所に乳幼児を預ける際におむつを持参する場合があり、従来は油性の筆記具を使用して一つ一つ名前を書いていました。そのような手間を解消したいという母親たちの声をもとに生まれたのがこの製品です。

紙おむつの場合、実際の素材は「紙」ではなくPPベースのプラスチックです。紙おむつへのスタンプに最適化されたインキを使用する必要があり、スタンプ台のパッドに塗布して使用します。そのスタンプ台にはインキが反応しない耐溶剤性を持つ材料を使うことが必要です。さらにはキャップとスタンプ台にはインキが乾かないような気密性や、長期間使用するための経時保存性も考慮する必要があります。

現在の3Dプリンターでは、材料の選択肢が限られ、このようなクリティカルなパーツの試作には適用が難しいのが現状です。その厳しい要求に応えることができるサービスが短納期射出成形Protomoldでした。その利便性を評価したシヤチハタでは、現在、「おなまえスタンプ おむつポン」にとどまらず、数多くの製品開発に同サービスを活用しています。

自信と確信をより強く持てる設計プロセスを実現

同社では、「おなまえスタンプ おむつポン」のプロジェクトが実質的に開始されてから、約1年半後に上市しましたが、このスピードにProtomoldも貢献しています。

「現在のモノづくりの現場ではスピードが求められています。納品スピードの重要性はもちろんですが、その前に見積りのスピードも重要なのです」と太田氏は述べています。

従来では、射出成形による加工を依頼すると、見積りの確認まで1週間以上かかることも珍しくはありませんでした。ところが、プロトラブズの見積りシステムProtoQuoteでは、ユーザーが3D CADのデータをアップロードしてから平均3時間で、Web上でインタラクティブに成形性も確認できる見積りがユーザーの手に届きます。「このようなスピードこそ、現在の設計の現場が求めるものです」と太田氏は続けます。

Web上での見積りにとどまらず、カスタマーサービス担当者とダイレクトに技術的な確認ができることもプロトラブズのサービスの特長です。「一般的な金型メーカーさんであれば、こちらは、まず営業さんと話をして、その営業さんが金型の設計者に確認をするという流れですが、プロトラブズの場合は、技術者と直接やりとりできます」と、商品企画・開発部 開発1課 主任の三矢貴幸氏は現場ならではのメリットを語ります。ユーザーは見積り受領後にプロトラブズから確認の電話を受けますが、電話越しでも、 Web上で3Dデータを介しての会話なので誤解がありません。

同社でProtomoldを活用する環境は、新規製品の開発において、その仕様固めをしている現場です。そのため、設計コンセプトの検討から適切なものに絞り込むプロセスのスピードは重要です。 Protomoldは、このサイクルを迅速に回すことに貢献していると言えます。

「設計したものを迅速に確認・検証することができるようになりました。そのため、私たちの設計の現場も従来以上に、自信や確信をもって設計を進めることができるようになりました。このような心理的なメリットも大きなものだと考えています」と太田氏は、その利点を述べています。

「おなまえスタンプ おむつポン」は、水に滲まない速乾性の油性インキを使用し、でこぼこした表面への安定した捺印を実現し、大量のおむつへの名前書きからの解放を実現している。印面はハガキかネットで注文し、イラストも使用できる

高い品質を維持しながら開発全体を効率化

Protomoldは、設計業務という一部門の効率化だけではなく、開発プロセス全体の効率化にも寄与しています。それは、量産を意識した試作ができるからです。商品としての仕様が固まり、量産への準備が開始された段階になって、製造上の問題がわかると、設計変更を余儀なくされます。「Protomoldを活用することで、量産を意識した検討を合わせて進めていくことができます。そのため、量産の検討に入った段階での手戻りが減りました。その意味でも、Protomoldを活用したプロセスは開発プロセス全体に効果があるものではないかと考えています」と太田氏は、その効果を語ります。

設計部門のみがメリットを享受するのではなく、開発プロセス全体にも効果が認められるプロトラブズのサービスは、迅速な商品展開と高品質を両立させなければならないメーカーにとって、活用の意義を高めるメリットと言えるのではないでしょうか。

シヤチハタ株式会社

左)シヤチハタ株式会社 商品企画・開発部 副部長 太田 剛俊 氏
右)シヤチハタ株式会社 商品企画・開発部 開発1課 主任 三矢 貴幸 氏

http://www.shachihata.co.jp/
シヤチハタ株式会社は、スタンプ台、インキ浸透印のXスタンパーをはじめとする多種多様な捺印具、筆記具を開発しています。現在は、業務で使用する事務用の製品にとどまらず、印鑑のパーツの着せ替えが可能な「ネーム9着せ替えパーツ」など個人が自分用にカスタマイズができる製品、ケズリキャップをはじめとする学童向けの製品などコンシューマー層を意識した商品の展開も積極的に行っています。

本連載は、「日経ものづくり」2015年2月号に掲載されたコンテンツを再編集したものです。
プロトラブズおよびProtomold射出成形の詳細:http://go.protolabs.co.jp/