プレゼンは「はじめて」の人のために

オフィスでプレゼン資料を作っていたはずが、「こむぎこをこねたもの」(以下「こむぎ」)たちが住んでいる「こむぎ寺」へ呼び寄せられてしまった主人公。彼女が一生懸命作ったプレゼン資料を見るなり、何とこむぎたちはすやすや眠りはじめ、菩薩様には悟りをうながされてしまいました。

それもそのはず、主人公は無意識のうちに、自分が知っていることは「相手も分かっているはず」という前提に立ってスライドを作っていたので、こむぎたちには理解できなかったのです。

「プレゼン頑張ってるのに、みんな、なんだか眠たそう」……こんな経験がある人も少なくないかもしれません。また、1話の主人公のように、スライドを作った制作者自身も、作業中に睡魔に襲われてしまうことだってあります。

こうした「眠いプレゼン」の原因のひとつは、「相手が知識を持っている」前提の資料にあります。

仮に、聴き手が社内で同じ仕事をしているひとたちで、話し合いの目的が議論を深めることにあるのなら、詳細な資料を作るのは何も間違ったことではありません。ですが、今回彼女が臨む「プレゼンテーション」は、基本的に「何も知らない初対面の相手」、すなわちこむぎたちのような相手の共感を得ることが目的です。

プレゼンターがコメントしなくても、画面を読むだけで事足りてしまうような文字だらけのスライドは、予備知識のない聴き手にとって理解しにくいものです。そのため、訴えたいことを理解してもらえないどころか、悪い印象を与えてしまうことにもなりかねません。

また、プレゼンの持ち時間は多くの場合30分程度か、それ未満であることもしばしば。伝えたいことのすべてを詰め込むには短い時間です。だからこそ、初対面の人々に、短時間で共感してもらえるようなスライドを作ることが大切なのです。

次回は、聴き手の目をひくためには不可欠な、スライド上で用いる「色」や「形」のお話です。

首藤智之
1990年~2013年までソニーに在籍中、会社の対外プレゼンテーションのデザインディレクションを行う。現在はプレゼンテーションに使用するスライドをデザインする「ゲッコープロダクション」を設立。本連載では監修を行う。

Jecy
イラストレーター。LINE Creators Marketにてオリジナルキャラクター「こむぎこをこねたもの」のLINEスタンプを発売し、人気を博す。現在、最新作「こむぎこをこねたもの その2」もリリース。そのほか、メルヘン・ファンタジーから科学・哲学まで様々な題材を描き、個人サイトにて発表中。本連載では漫画を担当。