本連載ではこれまで、サーバにおいて電力を削減する方法として、「設定変更」と「省電力機能が高いサーバの入れ替え」を紹介した。さらなる電力削減の策に「サーバの仮想化」がある。今回は、仮想化によるサーバ統合がどのように電力削減に貢献するのかについて見ていきたい。

サーバの消費電力は、稼働中のサーバであれば設定を変更したり、最新モデルに更新したりすることで削減できることは、本連載で紹介したとおりだ。ただし、これはあくまでも個々のサーバのレベルで可能な取り組みであり、比較的容易に実行できる反面、効果にも限界があるのは確かである。

そこで、システムの構成変更まで踏み込むことができるならば、仮想化技術でサーバを統合して数を減らすことによってシステム全体で消費する電力量を劇的に削減することも不可能ではない。仮想化技術を活用したサーバの省電力化について、日本アイ・ビー・エム システムx事業部 事業開発 システムズ&テクノロジー・エバンジェリストの柴田直樹氏に聞いた。

サーバの台数を削減するメリット

日本アイ・ビー・エム システムx事業部 事業開発 システムズ&テクノロジー・エバンジェリスト 柴田直樹氏

柴田氏はまず、「一般的なサーバは、本来ハードウェアが持っている処理能力を使い切っているケースが少ないという問題があります」と、現在のサーバが抱える課題を指摘した。常に一定の負荷がかかるサーバであれば、処理能力を無駄なく使い切ることも不可能ではないが、通常、サーバの処理量は変動するものだ。よって、サーバのサイジングの手法としては、「ピーク時の処理能力を予測し、ピーク時に処理能力不足に陥らないようにサーバの処理能力を決める」というのが一般的である。だがこの場合、ピーク時以外の平常運用時は処理能力に余裕を残した状態になっており、この分が活用できない余剰なリソースとなってしまう。

かといって、複数の処理をすべて1台のサーバにまとめてしまうと、サーバの構成が複雑になる。これにより、運用管理上の問題が生じることがあるし、特定の処理にソフトウェア的なトラブルが生じた場合に、解決策としてリブートを行えばそのサーバ上で稼働しているすべての処理が一旦停止してしまうことになる。

こうしたジレンマを解決したのが仮想化技術だ。仮想化を活用すれば、個々のサーバのイメージは従来通りに独立した状態で運用しつつ、ハードウェアリソースは共用するということが可能になる。「仮想化技術によって集約するサーバの組み合わせを工夫することで、平常時のサーバの処理能力の利用効率を大幅に引き上げることができます。その結果、余ったサーバを停止することで電力効率も改善します」と、柴田氏は説明する。

こうした効果は、既存のサーバに仮想化ソフトウェアを追加導入するだけでも得られるが、ここでさらにサーバ自体を最新モデルに更新すればその効果はさらに劇的なものになる。

前回紹介したとおり、サーバの処理能力は年々向上を続けている。例えば、最新モデルをリース切れなどで今年が更新時期に当たる4~5年前のサーバと比較すると、その処理能力は10倍以上になっている。よって、単純にハードウェアを集約するだけでも、10台以上の旧サーバを1台の最新サーバで置き換えることが可能になる。

「従来モデルのサーバ10台を最新モデルのサーバ1台にまとめた場合、消費電力は最大で70%削減できることもあります。サーバを買い替えるとコストはかかりますが、消費電力量は大幅に減ります。また、サーバの台数が減れば、当然ですが発熱量も減るので、空調に必要な電力も削減することができます」(柴田氏)

仮想化のボトルネックを解消するeX5搭載サーバ

IBM System xサーバーには、独自技術でメモリ搭載量を大幅に拡大したサーバ・アーキテクチャ「eX5」を搭載したモデルがある。これは正に仮想化を活用したサーバ統合において最適なシステムと言えるものだ。

プロセッサの処理能力は向上の一途をたどっており、数年前のモデルに比べて10倍以上の性能を実現している例も少なくないが、一方でサーバが搭載可能なメモリの容量は同じペースで向上しているわけではない。柴田氏は、サーバにおけるプロセッサの進化とメモリ搭載量にまつわる課題について、「サーバを集約する際、プロセッサの処理能力を基準にすれば十分可能なはずなのに、実装できるメモリ量の制約によってできないという例もあります。プロセッサの処理能力は10倍以上に向上していても、メモリ搭載量は10倍にも増えていないのが現状なのです」と説明する。

一般的なIAサーバでは最大メモリ搭載量がGB単位であるのに対し、eX5搭載サーバはTB単位のメモリを搭載することが可能だ。そのため、多数の仮想サーバを集約しても、メモリがボトルネックになることを回避できる。このメモリ搭載量の余裕により、eX5搭載サーバでは古いサーバに限らず、比較的新しいサーバを集約してもメリットが得られる。

「eX5を搭載したサーバは大規模な集約を前提として、ハードウェアレベルでも高信頼性を確保しているので、ハードウェア障害でシステム全体がダウンするリスクも低くなっています。サーバを集約する際、メモリに加えてネットワークの帯域幅もボトルネックになる可能性があります。そのため、eX5では10Gbpsのネットワーク製品を構成することができます。ネットワークを高速化し、ネットワークの物理ポート数を集約すればネットワーク部分でも節電効果を得ることも可能です」と柴田氏。

このように、eX5搭載サーバはサーバ統合を現実的なソリューションとして活用するための基本的な要素が整えられているのだ。柴田氏によると、現実的な例として、eX5搭載サーバによって50台のサーバ旧型のサーバを1台に統合したケースでは、1万4,400ワットの消費電力を830ワットにまで削減できるという。

eX5搭載サーバのハードウェアとしてのポテンシャルは、IBMが長年培ってきた 汎用機・UNIXサーバでの技術が多く継承されており、大規模仮想化統合にも安心して選択できるサーバと言える。