現状に応じた対策が可能な4つのアプローチ

IT業界において省電力/消費電力削減が重要視されることは昨日今日の話ではないが、従来の取り組みは「電力コストの削減」や「CO2排出量の抑制」といった経済面や環境面でのメリットに注目が集まっていた。いわば、「やればいいこと」という位置づけの取り組みだったと言える。

しかし、震災による発電設備に被害が及んだ結果、最需要期である夏場は電力の供給不足が懸念される状況に陥っている。まだ確定には至っていないが、一般企業も含めて一律15%程度の電力消費量削減が求められる状況だ。

したがって、企業における省電力への取り組みは「やることが望ましい」というレベルではなく、「やらないわけにはいかない」という最優先にせざるを得なくなってきている。あるいは、「供給量の不足が見込まれる以上、使える分だけでまかなう方法を考えなくては企業活動そのものが維持できない」という状況だろう。

一方、ユーザーにとって幸運とも言えるのは、サーバベンダーは従来から電力消費量削減の努力を続けており、しかも年々そのレベルが向上を続けている状況にある点だ。最新モデルの消費電力量は、ちょうど製品を購入した時期に当たる3~4年前の同等モデルと比較すると劇的な省電力化が実現されている。

また、以前から省電力化に向けた取り組みに熱心だったベンダーの製品は、数年前のモデルであっても省電力化に相応の配慮が払われているので、ユーザーがすでに運用中のサーバも、設定の変更によって電力消費量を抑制することが可能だ。

日本アイ・ビー・エムはIAサーバベンダーの中でも消費電力量の削減に注力してきた。同社は、日本市場が直面する電力問題に対し、4段階のアプローチによってIAサーバの省電力化が達成できるとしている。

「既存サーバの設定/構成変更」「低消費電力サーバへの移行」「仮想化技術を活用したサーバ統合」「消費電力の可視化と制御」という4つのアプローチは段階を経るごとに消費電力節減の効果が大きくなる一方、実施に伴う負担も相応に大きくなる。よって、「長期的に根本的な対策を行うことを念頭に置きつつ、直近では即効性のある対策をまず実行する」といった現実的な対応が可能な提案となっている。

まずはCPUのモードを設定変更

日本アイ・ビー・エム システムx事業部 事業開発 岡田寛子氏

今回は、最初のアプローチである「既存サーバの設定/構成変更」について見ていこう。IBMはIAサーバであるSystem xサーバにおいて以前から低消費電力化に取り組んでいる。この取り組みが本格化したのは5年前に遡り、インテルがCoreマイクロアーキテクチャに基づくプロセッサを製品化したことに歩調を合わせている。つまり、すでに稼働中のサーバにおいて減価償却期間を考えても、その大半が低消費電力化のための工夫が実装された世代の製品であるというわけだ。

もちろん、更新時期に当たるサーバに関しては、最新世代のモデルにリプレースすれば大幅な消費電力低減が見込めるが、予算化して発注し、リプレースを完了するには相応の時間を要するので、思い立ったら即実行というわけにもいかないだろう。そこで、最小限のコストで即座に実施できる対策として提案されているのが、既存のサーバの設定/構成を変更することで消費電力を削減するというアプローチで、目安としては1%~15%の削減が見込める。

同社のシステムx事業部 事業開発の岡田寛子氏によると、System xサーバのコンポーネントのうち、最も消費電力が大きいのはプロセッサであることは間違いなく、まずはプロセッサが持つ省電力機能を活用することが基本となる。

インテルのプロセッサにはEIST(Intel Enhanced Speedstep Technology)が実装されており、省電力に対応した動作モードとして「P-State」、「C-State」、「T-State」が挙げられるが、IBM System xサーバではこれらすべてのモードが利用可能になっている。同サーバは、従来のBIOSに代わる新世代のファームウェアとして、uEFI(United Extensible Firmware Interface)を搭載しており、ここでプロセッサの動作モードやメモリーの動作モードといったすべての省電力機能を一括設定できる。

uEFIでは、バランスモード(Custom)、省電力モード(Acoustic)、電力効率優先モード(Efficiency)、パフォーマンスモード(Performance)が用意されており、パフォーマンスと電力消費量のバランスをユーザーが任意に選択できる。出荷時設定はバランスモードで、消費電力とパフォーマンスのバランスを取るようになっているが、これを省電力モードや電力効率優先モードに変更することで消費電力を削減できる。

特に効果が大きいのは、プロセッサの負荷が高い場合だが、その際は処理性能も低下するので、サーバの用途や負荷状況に見合った設定を選ぶことも重要になる。「CPUのモード設定の効果はuEFI単独ではなく、OS側の省電力設定も組み合わせた際に最大になることにも注意が必要です」と、同氏はアドバイスする。

メモリやHDDの交換も電力削減効果あり

サーバのリプレースは簡単ではないが、メモリやディスクドライブを交換することによっても消費電力を下げることができる。DDR3メモリをサポートするプロセッサでは、低電圧タイプのメモリモジュールが利用可能になっており、IBM System xサーバでもサポートされている。メモリモジュールも新しいものほど消費電力が低減しているので、最新のモジュールに交換したり、さらに低電圧タイプを選んだりすることで省電力効果が得られるという。「当社の実測値では、古い1.5Vのメモリモジュールを最新の1.35Vのモジュールに交換することでメモリの消費電力を34%削減できました」と、同氏は説明する。

ディスクドライブは、プラッタサイズが小さいほど消費電力が低減する傾向があり、さらにSSDを利用すれば大幅な省電力化が期待できる。

同氏は、サーバの電力削減に役立つツールとして、同社が無償で提供している「Power Configurator」を紹介してくれた。同社のWebサイトからダウンロードすることが可能だ。Power Configuratorでは、BladeCenterとSystem xサーバの消費電力をコンポーネントの構成を変更しながら実測値に基づいて確認でき、最大消費電力量と標準的な利用状況における実消費電力量の差もわかる。

「消費電力量の削減を優先する場合は、大容量のメモリモジュールを選んでモジュールの枚数を減らすだけでも効果が出ます」と同氏は言う。簡単な操作でさまざまな構成の消費電力量を比較検討できるため、自社にとって最適な構成を見つける際に役立つ。こうした具体的なデータを実測値で提供しているのは、同社の省電力への取り組みに対する自信と誠実さの表れだろう。

Power Configuratorの画面。同社の次世代サーバアーキテクチャ「eX5」搭載のx3690 X5でシミュレーションしてみた

Power Configuratorの計算結果はExcel形式のスプレッドシートに出力することも可能だ

稼働中のサーバをリプレースせずに消費電力を削減するのは無理だと思われるかもしれないが、設定次第では大幅な電力削減も不可能ではない。もちろん、パフォーマンスとのトレードオフはあるが、サーバの用途によっては支障がない場合もあるだろう。用途や稼働状況に応じてきめ細かな構成変更を行えば、それだけでも大きな効果が得られる可能性があるという点は、憶えておいて損のない重要なノウハウと言える。