ポルシェのニューモデル、マカンがいよいよ日本でも予約受付を開始した。その前評判は非常に高く、すでに当初の計画から増産を検討していると伝えられるほど。当初の計画とは年間5万台の生産だが、昨年のポルシェ全体の生産台数が16万台ほどであったことを考えると、これはとてつもなく大きな数字だ。それをさらに上方修正するというのだから、なんとも景気のいい話といえるだろう。

昨年の東京モーターショーに出展されたマカン ターボ

カイエンを基準に「コンパクトSUV」とカテゴライズされるマカン

マカンはいうまでもなく、カイエンの下に位置するモデル。911とボクスター / ケイマンの関係と同じだ。ポルシェというのは面白いメーカーで、いつも上級モデルを先に出してからその下を出す。50年前に911を発売したときも、その後で912や914を出した。今回も上級モデルのカイエンを出した後、マカンを出してきた。

それぞれのモデルの展開にしても、カイエンでは上級モデルであるカイエンSやカイエンターボを先に発表し、その下のカイエンを遅れて発売した。マカンにしても、マカンSとマカンターボを先に出し、やや遅れてマカンを発売するらしい。

当連載でも何度か触れたが、ポルシェは高級車を少量生産する「特殊な自動車メーカー」から、さまざまなモデルを大量生産する「普通の自動車メーカー」へ脱却を図っている会社だ。ポルシェにとって上級モデルのほうが作りやすく、ニューモデルを発売するときのリスクも少ないのだろう。だからまず上級モデル、上級グレードから出し、下へ下へと広げていく。軽自動車から上へ上へステップアップしてきた多くの日本の自動車メーカーとは逆であるところが面白い。メーカーとしての出発点、原点が「真逆」ということだろう。

だから、マカンはカイエンを基準にして、「コンパクトSUV」とカテゴライズされている。しかし、全長4,681mm(マカンターボは4,699mm)×全幅1,923mm×全高1,624mmというボディサイズは、とてもコンパクトとはいえない。エンジンにしても、小排気量のマカンSでさえ、3.0リットルもあるのだ。

ただ、実際にマカンを目の前で見ると、その数値以上に小さく見える。堂々とした存在感のあるカイエンに対して、スポーティですっきりしたデザインを採用しているためだろう。実際の大きさがあまり変わらなくても、デザインで差別化を図る。その手法もまた、911とボクスター / ケイマンの関係と同じだ。

前評判通り売れれば、ポルシェ全体の7割近くがSUVに!

カイエンやパナメーラが登場したときは、その成功を危ぶむ声も少なからずあったものだが、マカンについてはもはや、その成功が約束されたモデルといっていいだろう。逆にいえば、そこにはチャレンジはない。

カイエンの場合は、オンロードでスポーツカーのように走るプレミアムSUVというニュージャンルであり、その発売はリスクを負うチャレンジだった。しかし、マカンはある程度売れることがわかりきっているモデルだ。ポルシェはマカン発売にあたって、工場の新設などかなり大胆な投資をしており、それなりにリスクはあるが、そうした投資もマカンが数字の読めるモデルだからこそ、実施できたといえるだろう。

かつて、911とボクスターしかラインアップがなかった頃なら、どんなニューモデルを出すにしても、それはポルシェにとって社運をかけたギャンブルに他ならなかった。しかしいまでは、過度なリスクを犯さずに新しいモデルを投入できるだけの余裕のあるメーカーになった。ポルシェの歴史の中でも、マカンほど発売前から安心できるモデルはなかったのではないだろうか? 同時に、これほどマーケティング主導で作られたモデルもなかったように思うし、技術的な新機軸が見当たらないモデルもなかったと思う。

マカン ターボ

マカンS

マカンが目論見通りに売れれば、ポルシェの年間生産台数は20万台の大台を超えるだろう。ちなみに、フェラーリの年間生産台数は約7,000台。ランボルギーニは約2,000台。アストンマーティンやマセラティも、大まかに言って同じようなレベルだ。こうした数字だけでも、ポルシェはこれらのスーパーカーメーカーとは本質的に違うと再認識させられる。しかし、メルセデス・ベンツの約150万台、BMWグループの約184万台と比べると、逆にポルシェの数字が非常に小さく、頼りなくも見える。

ポルシェと同規模の自動車メーカーはないかと探してみたが、ボルボとジャガー・ランドローバーが約40万台である程度だった。日本メーカーと比較してみると、ポルシェと同様にラインアップがシンプルなスバルは約80万台、マツダは約120万台といったところだ。大量生産を前提としたメーカーとしては、ポルシェが世界最小、それも飛び抜けて小さいことは、当分変わりそうにない。

こうしてみると、マカンがヒットし、販売台数が飛躍的に増えたとしても、ポルシェは相変わらず孤高のスポーツカーメーカーであり続けるようだ。なんとなく安心したような気もする。いや、ちょっと待て。「孤高」であることは揺るぎそうもないが、「スポーツカーメーカー」であることは……。

今年、目論見通りにマカンが5万台売れれば、ポルシェ全体の販売台数は21万2,000台になる(既存モデルの販売が昨年と同レベルだったとして)。その内訳を見ると、昨年8万4,000台を売ったカイエンがダントツのトップ。そして2位がマカンになる。両モデルの合計は単純計算で13万4,000台。この数字は、ポルシェ全体の販売台数の63%だ。

つまり、ポルシェの販売するモデルのうち、6割強はSUVということになる。仮にマカンの生産計画が、報道されている通り8万台に引き上げられれば、この比率は7割に迫ることになる。全体の7割がSUV……、これはおそらく、ジャガー・ランドローバーに次いで、世界で2番目にSUVの比率が多いメーカーということになるだろう。もはや、「ポルシェがスポーツカーメーカーである」という認識は改めなければならないのかもしれない。