好調が続くマツダの主力モデル、アクセラがデビューした。現在開催中の東京モーターショーでも、異なるエンジン・燃料方式を採用した複数のアクセラが出品されている。

東京モーターショーのマツダブースに展示されたアクセラ

CX-5やアテンザがヒットした後だけに、アクセラに対しては評価のハードルが上がってしまった感があるが、それでも多くの人が期待通りと納得するできばえのようだ。マツダの切り札「スカイアクティブ」は、いまや完全にポテンシャルを市場に認められ、その地位を確立したといえる。

4ドアセダンは日本車最大のボリュームゾーンだったが…

ところで、アクセラでは4ドアセダンと5ドアハッチバックがラインアップされている。そのことに対して、なにかコメントする人はあまりいないだろう。日本のファミリーカーの名車であるファミリアの後継モデルであり、世界的にはCセグメントに属するアクセラに、4ドアセダンと5ドアハッチバックがあるのは当然のことだ。

赤いアクセラがずらりと並ぶ

しかし、改めて考えると興味深い。なにしろ、どちらも日本ではきわめて珍しいボディ形状なのだ。4ドアセダンについて言えば、2リットルより大きいクラスでは復権の兆しが見えてきたものの、アクセラのクラスとなると、「絶滅危惧種」と言ってもいいほどだ。

国産の現行モデルでアクセラと競合する4ドアセダンは、トヨタのカローラアクシオ、日産シルフィ、スバルのレガシィB4・インプレッサG4……、このくらいしかない。あとは最後のモデルチェンジから6年を経過したモデル末期のアリオン / プレミオ(トヨタ)や、三菱のギャランフォルティス、実質的に別カテゴリーだがランエボがある程度。

かつてはカローラとサニーが国民車の座を争ってしのぎを削り、スカイラインやブルーバード、マークII、ギャランが高性能を競っていた日本車最大のボリュームゾーンが、いまや見る影もないのだ。

一方の5ドアハッチバックは、フィットもアクアもノートも該当するものの、ここではそういったリアウインドウの立った2ボックススタイルではなく、3ボックスから派生した5ドアハッチバックと考えてほしい。「それならプリウスがあるじゃないか」と言われればその通りで、プリウス1車種のおかげで街中は5ドアハッチバックだらけなのだが、それでもモデル数としてやはり少ない。ホンダのインサイト、スバルのインプレッサ スポーツ、あとはモデル末期のギャランフォルティス スポーツがあるのみだ。

ちなみに、日本でリアウインドウの寝ている5ドアハッチバックを初めてヒット(プリウスをちょっと事情の違うモデルとして除外すれば、唯一のヒット)させたのがマツダだ。アクセラの先祖といえるファミリアに、アスティナというスタイリング重視の5ドアハッチバックを登場させ、後にそのコンセプトをランティスで開花させた。

「個性が1周回って」日本車の伝統を守る立場に!?

そんなわけで、「アクセラには4ドアセダンと5ドアハッチバックがある」と聞くと、当たり前のことと思ってしまうのだが、じつはその「当たり前」のモデルがいま非常に少ないということに気づく。まして、世界で激戦区のCセグメントで戦える実力を備えたモデルとなれば、もはやこのアクセラを置いて他にはないと言っていい。

昨今の自動車業界を見ると、日本メーカーがエコカー一辺倒になった間に、手薄になったジャンルを輸入車がさらっていったかのように見える。メルセデス・ベンツ、BMW、アウディともに過去最高の販売を記録したが、これは国産車に魅力的なセダンやクーペが少ないことも影響しているだろう。MINIやプジョー、ルノー、シトロエンも好調で、これも国産車にスタイリッシュで元気のいいホットハッチが少なくなったことと関連があるはずだ。

もうひとつ、日本メーカーがエコカーに熱中するあまり忘れてしまったジャンル、しかも輸入車にもあまり該当するモデルがない穴場のジャンルがある。それがアクセラのクラス、つまり2リットル以下の4ドアセダンであり、5ドアハッチバックではないか?

このジャンルを守ってきたメーカーが、トヨタの他にマツダ・スバルくらいになっているというのは非常に興味深い。マツダはロータリーエンジンやオープンモデルなど、個性的なクルマづくりを貫いてきたメーカーだが、その個性が1周回って、日本車の消えかけた伝統であるコンパクトな4ドアセダンを守る立場になってしまったのだ。

このアクセラが大ヒットしたなら(すでに約束されたようなものだが)、日本メーカーは自社のラインアップを再考する必要があるかもしれない。