年配の方々にとって、ボルボというと無骨で角ばった直方体のようなボディの車を思い浮かべるのではないだろうか? 町で見かけると、「なんだあのデザイン性のカケラもない角ばった車は?」と不思議に思い、フロントグリルが目に入り、斜めのラインで、「ああ、ボルボか」と納得する。日本ではバブル期の頃まで、その程度の認知度だったように思う。

今年発売されたV40(写真)はきわめて好調。2014年モデルも、予定より2カ月前倒ししての発売だという

「空飛ぶレンガ」と呼ばれたボルボ車

そんなボルボが日本で最初にブームになったのは、バブル期の終わりあたりだ。ベンツやBMWの人気が一巡し、よりマニアックなブランドを求めて、一部の輸入車ユーザーがボルボに目をつけた。当時、機を見てすばやくボルボ専門店を立ち上げた経営者と話したことがあるのだが、「ボルボを買い求める人はブティックやレストランのオーナーが多い」と聞き、妙に納得したのを覚えている。

その後、日本はスバル レガシーに代表されるステーションワゴンブームに突入。当然、ステーションワゴン(当時のボルボ流にいえば「エステート」)を得意とするボルボの人気も継続し、とくに850エステートはきわめて高い人気を誇った。相変わらず角ばったデザインだが、もはや無骨ではない。「空飛ぶレンガ」といわれたボルボが、「おしゃれなレンガ」に変貌した、とでもいえようか。他にない5気筒エンジンや、鈍重なイメージを覆した走り、安全性の高さも人気の要因だった。

しかし、850がモデルチェンジを行ったあたりから、ボルボ人気は陰りを見せ始める。後継のV70はキープコンセプトで一定の人気を得たものの、フォード傘下に入りフルモデルチェンジした2代目V70は、現代的な丸みを帯びたデザインに。これを、「個性が薄れた」ととらえる人が多かったようだ。長引く景気後退で輸入車全体の販売が減少する中、ボルボはメルセデス・ベンツ、BMW、フォルクスワーゲン、アウディといったドイツ車に対抗する存在感を保つことができなくなってしまった。

世界市場でもボルボの不調は同様だったようで、2010年、フォードはボルボを中国資本に売却。同じスウェーデンの自動車メーカーであるサーブも、その頃は危機的な状況にあり、自動車業界の「スカンジナビアンパワー」はすっかり衰えてしまったように見えた。

V40は安全性に加え、クルマとしての基本性能も優れている

しかし、ボルボは見事な「復活」を果たす。新型V40の大ヒットが象徴的だが、ボルボの復調は単一モデルがたまたま大ヒットしたことによるのではない。むしろ逆で、十分に醸成された復活へのパワーが結実したモデルこそ、V40だったといえるだろう。

復活のパワーとはボルボの技術力に他ならず、ボルボの技術は安全技術の代名詞と言って過言ではない。実際、V40は世界初の歩行者用エアバッグや、歩行者検知機能付き追突回避・軽減フルオートブレーキ・システムをオプション設定。他にもハイテクを駆使した安全装備が満載で、自動車の安全性を評価する「Euro NCAP」で過去最高の得点を記録した。

V40に搭載された歩行者用エアバッグ。発売当初から高い注目を集めた

ただし、V40のすごいところは安全性だけではない。クルマとしての基本性能が非常に優れている。単純に言って、269万円から買える価格で、最高出力180PS、JC08モード燃費16.2km/リットルというだけでも、なかなかこのスペックに対抗できるライバルはいない。V40のライバルとされるメルセデス・ベンツ Aクラス、BMW 1シリーズの基本グレードは、いずれもV40と同じ1.6リットル直列4気筒ターボエンジンを搭載するが、Aクラスは122PS/15.9km/リットル、1シリーズは136PS/16.6km/リットルだ。

思えば、いまでは欧州車の常識となりつつあるライトプレッシャーターボも、いち早く市販車に取り入れたのはボルボだった。1996年頃、850に低圧ターボ(当時はそう呼ばれていた)仕様を追加したのだ。当時、「ターボの意味がないのでは?」などと揶揄(やゆ)されもしたが、いま振り返れば先見の明があったわけだ。

ボルボというと安全技術ばかりが注目されるので忘れがちだが、じつはそれ以外のエンジン技術なども非常に高いレベルにある。そもそも、ボルボくらいの規模のメーカーが存続していくには、かつてのホンダやポルシェのように、他社を出し抜ける技術が絶対に必要であり、ボルボはそれを持っているのだ。

ボルボは独自の技術で、ベンツやBMWと並ぶメーカーに成長する!?

先ほど、「日本でかつてボルボが人気を得たものの、一過性のブームのようにしぼんでしまった」と紹介した。デザイン変更による個性の喪失を理由に挙げたが、日本では輸入車に対し、ブランドやファッション性を先行させる傾向があったことも否めない。ボルボもまた、その本来の価値とは無関係に、ファッションアイテムとして扱われた面がある。

近年、輸入車の存在は一般化し、ユーザーは地に足の着いた堅実な評価を輸入車に下すようになった。そして環境問題や安全性の重要さが日増しに大きくなるのに比例して、ボルボの人気も復活してきた。ボルボは経営的な危機にあるときでさえ、地道な技術の研究開発を継続したが、その努力がようやく正しく評価されるようになったといえるだろう。

2012年12月、ボルボは次世代プラットフォームとエンジンに、スウェーデンの歴史上最大規模となる事業投資を行うことを発表した。約110億米ドル、じつに1兆円以上の資金を投じて、完全新設計のプラットフォームや4気筒エンジンの開発と、それに必要なインフラ整備を行うというのだ。これにより、ボルボは、「技術的な独立が可能となり、以前所属していた企業グループ共有の技術とは異なる、ボルボ独自の技術を確立する」という。

ボルボはメルセデス・ベンツやBMWと並ぶメーカーに成長するだろうか? ほんの2~3年前なら考えられなかったが、いまでは現実味をもって「非常に興味深い」といえる。