3月2日「MINIの日」を前に、MINIにまた新たなモデルが加わった。「MINI クロスオーバー」を3ドアのクーペスタイルに仕立て直した「MINI ペースマン」だ。

もともとMINIは3ドアハッチバックが基本で、それを5ドア化するためにホイールベースを延長したのが「MINI クロスオーバー」。それをまた3ドア化するという変則的バリエーションモデルが「MINI ペースマン」であり、MINIとして7番目のモデルになるという。「思いつくボディバリエーションは全部出す!」と言わんばかりの展開だが、こんなことができるのも、いまMINIが売れに売れているからこそだろう。

都内で披露された「MINI Cooper S Paceman ALL4」

旧MINIとは別のクルマに、MINIのブランドイメージを移植した

BMWのMINIシリーズは2001年に登場した。1994年、経営難に陥っていたローバーをBMWが傘下に収めたことから、イギリスの名車MINIに関するすべての権利をBMWが取得したのだ。蛇足だが、BMWはローバーの赤字体質に手を焼き、いったんは傘下に入れながらすぐに手放している。しかしMINIだけは手元に残した。BMWは現在、BMWブランドの他にMINIブランド、ロールス・ロイスブランドの計3ブランドを展開している。

BMWの下で生まれ変わったMINIは、メカニズムの面では旧MINIとのつながりは薄い。4気筒エンジンを横置きしたFFのコンパクトカーという共通性はあるものの、現代のコンパクトカーならほとんどが該当するので、伝統を受け継いだというほどではないだろう。

旧MINIがトランクの独立した3ボックスだったのに対し、BMW MINIはハッチバックの2ボックス。旧MINIはトランスミッションをエンジン下に配置したが、BMW MINIではそのような特殊なレイアウトは採用していない。こうして比べてみると、共通性よりむしろ違いのほうが目立つ。ボディサイズも旧MINIは全長3m、全幅1.4mと日本の軽自動車より小さかったが、BMW MINIは3ドアでも全長3.7m、全幅1.7m弱と、ふた回り以上大きい。

これほど違うクルマを、「新しいMINIです」といきなり発売しても総スカンを食らいそうなものだが、そこをBMWはじつにうまくやったと思う。サイズもプロポーションも異なるクルマを見事に似ていると思わせる秀逸なエクステリアデザインや、旧MINIの特徴だった豊富なバリエーションモデルの展開を再現するなど、あらゆる手法を駆使して、まったく別のクルマにMINIのブランドイメージを移植することに成功したのだ。

ブランドイメージと性能の両立で「売れる高級車」に

BMWに限らず、ドイツの自動車メーカーはブランドイメージの構築がうまい。BMW、メルセデス・ベンツ、アウディ、ポルシェ。いずれもブランドごとに一貫したイメージを貫くことで、ブランドの認知度とステータスを限りなく高める手法に長けている。その巧みな手腕を、BMWはMINIブランドでもいかんなく発揮した。イギリス車としてのMINIが持つ愛らしさ、楽しさ、自由さをそのまま継承しつつ、ドイツ車的な緻密さ、信頼性、さらに高級感までもプラスするという離れ業をやってのけたのだ。

MINI ペースマン」の想定購買層は、「社会的に成功を収め、安物買いはせずクオリティの高い製品に愛着を持っている人」だという

もちろん、このようなイメージ戦略が可能だったのは、BMW MINIの出来の良さ、ハードウエアとしての完成度の高さという裏づけがあってこそだ。ブランドイメージだけで売れたわけではないことは、決して一過性のブームではなく、10年以上にわたり売れ続けていることからも明らか。実際、BMW MINIは実用性、走り、ファッション性、燃費に至るまで、すべての面でレベルが高く、死角がない。

ただ、BMW MINIは出来もいいが値段も高いことは否めない。通常モデルは220万円スタートで上は400万円超。最も人気の高い「クーパーS」は約300万円で、同クラスの国産車のざっと2倍ほどの価格だ。それに見合う性能があるとはいえ、カテゴリーはあくまでコンパクトカー。改めて考えると、これを商品として成立させるのは非常に難しい。

この成立しにくい商品を見事に成立させた原動力こそ、巧みなブランドイメージの構築だったといえる。そしてブランドイメージ構築には性能の裏付けがあった。……話がループしたが、要するにBMW MINIはクルマ本体の良さとブランドイメージがダブルスパイラルとなり、互いに高めあった成功例といえるのだ。このところ輸入車の攻勢に押され気味の日本メーカーにとって、大いに参考にすべき点があるかもしれない。