一般的に、鉄道撮影には不向きとされている雨天。そんな一般論を鵜呑みにして、「雨だから」というだけで鉄道撮影を中止してはいないだろうか。実は、雨の中での鉄道撮影は、チャレンジする人が少ない分、新しい表現の可能性を秘めているのだ。適切な装備と心構えで、新感覚の傑作をモノにしよう。マシマ・レイルウェイ・ピクチャーズの長根広和さんにそのコツをうかがった。

写真に写る雨は、霧雨か豪雨

霧雨の例。JR只見線の会津中川駅

雨の日は、新鮮な鉄道の表現を発見するチャンスだ。しかし、「やみくもに、雨の中で頑張れば新鮮な写真になるかというと、そうではありません」と長根さん。雨粒そのものは写真に写りにくく、普通の雨だとただ暗いだけの写真になってしまうのだ。「雨は雨でも、写真に写る雨は主に2種類。霧雨と豪雨です」と説明を始めた。順番に見ていこう。

上の作品は、霧雨の例。JR只見線の福島県側では、線路に沿って流れる只見川に美しい川霧が発生する。それを狙って、わざわざ雨の日を選んで撮影に出かけた長根さん。その帰りに、ローカル駅に立ち寄って撮影したのがこの作品である。「この写真から雨が降っていると感じられるのは、山が霧雨で霞んでいるからです」。霧雨は、静けさやしっとり感を表現できる雨で、木造駅舎やローカル線の魅力を引き立てるのだ。

豪雨の例。疾走する700系新幹線

そして次、700系新幹線の作品は、豪雨の例である。「新幹線の屋根が、豪雨にたたきつけられているのが見えますね」。豪雨は、速さや激しさを表現できる。新幹線の特徴であるスピード感が、豪雨によって強調されているのだ。

もう1つ、夜間撮影も雨を写すチャンスである。駅や踏切の照明で光る雨粒や、濡れて光る線路。さらに、フラッシュで雨粒を光らせて写す方法もある(ただし、走行中の列車等に対しては行わないこと)。いずれにせよ、風景や列車のイメージ、自分の気持ちをあわせて、雨の状況と被写体となる風景や列車をセンスよく組み合わせることだ。

自分より機材を濡らさないように

では、雨中の撮影を快適にする装備とは、どんなものだろうか。長根さん曰く、「合羽は、あまり安いものだと、すぐに水がしみてきてしまいます。信頼できるゴアテックス(登山用のウエアにも使われる防水性が高く、ムレにくい繊維素材)のものを選び、防水効果がなくなる3,4年を目安に買い換えています」。装備の詳細は、イラストを参考にしてほしい。

しかし、結局は、撮影に夢中になるとずぶ濡れになってしまうという。「自分は濡れてもいいんです。濡らせないのはカメラです」。「三脚ごと、70リットルのゴミ袋をかぶせて列車を待ちます。撮影するときにはレンズの部分だけ破れば、濡れることはないですよ」。市販されているカメラ用のレインコートなどよりも、これが一番安くて使いやすいということだ。

そして、撮影終了後も、機材に対しては気を抜けない。「雨の日は、撮影から戻ったら、必ずカメラバッグから機材を出して、乾燥した部屋などで完全に乾かしましょう。カビ防止のためです。バッグに入れっぱなしとか、車に積みっぱなしというのが最悪です」。

「自然に悪い天気はない」というロシアのことわざがある。鉄道写真に不向きな天気も、ないのかもしれない。雨の日にも、被写体や機材の工夫をして、果敢に撮影してみよう。