前回に引き続き、上級向けの流し撮りを紹介する。流し撮りは、プロが撮影しても手ブレや被写体ブレが発生してしまうもの。では、なぜプロのブレが失敗に見えないのか、そればかりか、動感の表現となりプラスに働くのか。その秘密は意外なところにあった。ブレを味に変えるプロのこだわりを、マシマ・レイルウェイ・ピクチャーズの長根広和さんにうかがった。

ブレを動感に変える構図の力

500系新幹線。東海道新幹線の区間では間もなく姿を見られなくなるが、山陽新幹線区間では8両編成となりこだま号として走り続ける

今回も、非常に難度の高い流し撮りを扱う。話の前提として、露出の決め方などは前回と、第18回第19回を読んでいただきたい。

上の作品のように撮影する難しさは、何よりも構図作りにあると長根さんは言う。「パンするときの目標物である列車の鼻先を、画面の端に近いこの位置に止めることが難しいんです」。運にまかせてカメラを振っていると、人間の習性として、無意識に目標物をど真ん中においてパンしてしまう傾向があるそうだ。「構図作りの基本をお話した第22回第23回のように、この作品に主題と副題を当てはめて考えてみましょう。主題は、列車そのもの。副題はありません。副題がない場合でも、主題の中で最も目に留まりやすい部分をど真ん中から外して配置すれば、見る人がイメージを膨らませやすくなります。つまり、ブレていない鼻先をど真ん中に配置しないことによって、ブレが味になるのです」。

撮影要素の配置についての重要性は、流し撮りでも同じこと。列車のブレる、ブレないは運によるところが大きいが、構図を作るのは撮影者の意志が大きく反映される。「光学ファインダーやライブビュー画面の方眼を利用して、ど真ん中ではない位置に目標物を止めてパンする練習をしてみましょう」と、さらっと語る長根さん。しかし、これがやってみると非常に難しい。実際にチャレンジしてみた素人の奮戦記は、欄外のコラムを参照のこと。

金網の写りこまない跨線橋を探せ!

さて、このような撮影に適した場所は、跨線橋の上である。しかし、多くの新幹線の跨線橋には高い位置にまで金網などの柵がついているので、好撮影地は限られている。もちろん、鉄ちゃんの皆さんなら、望遠レンズの特性を使って金網をぼかすというテクニックをご存じだろう。しかし、「流し取りの場合はシャッタースピードが遅く、絞りを絞り込みますから、必ず金網が写ってしまいます」と長根さんは言う。金網のない跨線橋を探すことが、撮影の第一歩となるのだ。好撮影地は、新幹線では難しくても、在来線の跨線橋なら見つけやすい。

「縦流しで見栄えがするのは、先頭部分が流線型になっている車両です。先頭が丸っこい特急などで、挑戦してみましょう」。またもさらっと言う長根さん。難しいとは言っても、反射神経と冷静さがあれば、すぐにでもうまくなる可能性があるそうだ。積極的に挑戦してみよう。なお、この作品に使用したレンズは300mm(35mm判フイルムカメラ)。撮影データは1/60、F11(ISO200)。

筆者、コンデジで縦流しの構図作りに挑戦!

コンパクトデジタルカメラのマニュアルモードで撮影。在来線の流し撮りに適したシャッタースピードに設定する機能はないので、シャッタースピードが程良く遅くなりそうな日没から30分間くらいを狙った。 車両が何なのかわからないので鉄道写真としては完全に失敗だが、目標物のライトがいい位置に入った。これでライトがど真ん中だった場合の出来栄えを、想像してみよう。……ああ、うまくなりたい。