【連載】
飾り気のない普通列車に乗車し、鉄道旅行の魅力を写真で切り取るのは意外に難しい。その理由は、平凡な車内や容赦なく写り込んでしまう乗客。しかし、見方を変えればそのすべてが鉄道旅行の楽しさを表現する要素につながるのだ。その撮影のコツを、マシマ・レイルウェイ・ピクチャーズの写真家・猪井貴志さんにうかがった。
第17回の繰り返しになるが、猪井さんが車窓の撮影をするときのこだわりは3つ。列車の特徴を写し込むことと、列車が動いていることの表現、そして美しい車窓を楽しむことだ。今回も、これに沿ってお話が進む。
このとき乗車していた列車は、キハ110系。JR東日本の非電化線を普通列車として走る標準的なディーゼルカーだ。猪井さんは、生活に近い列車に乗車していることを表現するために、17mm(35mm判フイルムカメラ、以下同様)のレンズで車内の網棚や吊革を構図に入れた。乗客の姿も入っているが、「シルエットになって気にならないし、車内の楽しさが伝わるでしょ」とあるがままを切り取る。
列車が動いていることと、車窓の緑を表現するために選んだシャッタースピードは1/15。これは、時速50kmほどで列車が走るこの区間でも、窓枠だけが止まって、車窓はすべて流れる数値だ。「車内をシルエット状にすっきりさせて、窓いっぱいに流れるさわやかな緑を主題にしたかったからね」。そのための絞りは、外の景色TTLを参考に決定する。そして、林を通過するポイントに来たら連写する。非電化区間は、架線のポールがないので比較的撮りやすい。
ところで、動いている列車で1/15というスローシャッター。どうすれば、こんな風に手ぶれしないで撮影できるのだろうか。猪井さんは「広角系は、意外に手ぶれしないものなんだよ」とあっさり。座席から立ち上がって、しっかりふんばって、脇をしめて撮影したそうだ。皆さんも、車内でのスローシャッターにチャレンジしてみてほしい。
最後に、「美しい車窓を楽しむ」ことについて猪井さんから一言。「ここでは"撮り方"に重点を置いているから順序立てて話していて、これももちろん楽しいんだけど、純粋に車窓を楽しんでいるときはちょっと違うんだよ。ぼーっと車窓を眺めていてね、自分の気持ちがあるところにカメラのピントがあったときは、すごくうれしいものだよ」。露出のデータや構図の解説では伝えきれない景色への感動、これがプロの作品の条件になっていることは間違いない。
お知らせ
この連載に登場する写真家の皆さんからメッセージがあります。
私たち4人の写真家は、(有)マシマ・レイルウェイ・ピクチャーズとして、新たな歩みを始めました。故・真島満秀が切り開き、歩いてきた鉄道写真の道を継承し、力を合わせて発展させて行きます。ひきつづき、よろしくお願い申し上げます。
猪井貴志 長根広和 笠原良 助川康史
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