今回も前回に続いて、真島満秀写真事務所所属の猪井貴志さんに編成写真の基礎と極意を語っていただいた。必ずポールが入ってしまうため、右向きよりも難しいとされる左向きの編成写真に特有の注意点、すべての編成写真に言える基本的な露出の決定方法、工夫などをうかがう。

電化・左向きは、必ずポールが入る

福岡県内を走る西鉄6000系。1993年デビュー。方向幕にある大善寺駅は久留米の近く

電化路線の構図作りで、一番の課題はポールをよけること。しかし、この作品にはポールがバッチリ入っているではないか。「左向きはね、ポールが入るのを避けられないんだよ。線路とポールの間が狭いからね。ならば、どう入れるのか。それが構図作りの課題になるんだ」。

前回解説した通り、右向きの編成写真に向いたレンズは、およそ50-135mm(35mm判フイルムカメラの場合。以下同様)というのが目安だった。それに対して、左向きの場合はそれが更に狭まり、50~70mmくらいとなる。「入り込むポールを最小限にするためにズームが制限されるのが、左向き特有の難しさだね」と、猪井さんは語る。下の図を前回の「右向き」の図と比べ、そのメカニズムを理解しよう。ちなみに上の作品の場合、レンズは50mmである。

さて、列車の向きに関わらず、編成写真の構図に入れたくないものはポールだけではない。特に列車の背景となる部分をすっきりさせるため、猪井さんは工夫している。「線路の向こうに家があるけど、しゃがんだら随分とすっきりしたよ。線路というのは、たいてい盛り土がしてあって周りより少し高いから、目線を線路の高さにしてみるといいね」。家などは、列車が来れば隠れることもある。簡単な工夫で、構図がすっきりするのだ。構図が決まれば、画面の中のどの位置に列車の先頭部が来たらシャッターを押すのか想定し、そこにピントを合わせておく。

露出の決定にはISOを固定し画質維持

次は露出の決定だ。この場合は、列車が高速で走っている上に、レンズが50mm。ファインダーの中の列車の動きは速い。従って、シャッタースピードは1/1000以上と、高速になる。高速シャッターを切る場合の絞り値の決め方について、猪井さんは次のように語る。「この場合、ISO100のリバーサルフイルムを+1増感にしていたので、ISO200として計算する。あと、晴れだったので適正露出が1/500、f8。でも、1/500では列車が止まらない(被写体ブレが起こる)から1/1000にしよう、だったらf5.6かな、というように考えるね」。ISOを固定させて、絞りを考えるのだ。鮮明さが命の編成写真。デジタルであっても、安易にISOを変えて高速シャッターを可能にすることは避けたいものだ。

2度にわたってお話をうかがって、猪井さんが編成写真の撮影をとても楽しんでいることに驚いた。筆者は正直に言うと、数カ所のお立ち台(有名撮影地)で数時間編成写真を撮影し、作品はイマイチなのに「編成写真にチャレンジした」という体験だけで少々満足してしまっていた。1970年代後半のブルトレブームの頃から鉄道を撮影し続け、何人もの鉄道カメラマンを育ててきた猪井さんは飽きたりはしないのだろうか。

「列車は、まず直線で撮りたいね。それで、フォルムや色をしっかりつかんだ上で、色々な線路のバリエーションの上で撮ってみたい。無機的な工業製品である車両が、カーブで動きを与えることによって生き生きとして、編成写真のバリエーションが生まれるんだ」。

「編成写真は、想像ゲームなんだよ」と、繰り返し語る猪井さん。「どう見せれば、列車が一番かっこいいのか」という猪井さんの想像と撮影はまだまだ続くのだ。